綱渡りの意地
眠い……凄く眠たいよ。
私の眠りを邪魔する様に暗闇の中で声が聴こえた。
『起きなさい』
眠いよ。
『起きなさいユリア』
私の名前を呼ぶ声に耳を傾ける。
誰?
『貴方は何故あんな賭けを?』
私は勝つ為に全てをティアに懸けた。
『貴方は何の為に戦ったのですか?』
フランさんを痛め付けたあの人が許せなかったし、私達にしか出来ない事だってユウカママに言われたから。
『貴方には私達なんて存在してないでしょ』
私はティアと一緒に。
『貴方は何の為に試練に挑んだんですか?』
それはティアと二人で強くなる為。
『貴方たち二人ならどんな未来も超えられる。そんな可能性があった。貴方が賭けに出るまでは』
私が犠牲になるしかなかった。
ティアは私を信じて……信じて。
『目の前で倒れる貴方を、信じる者が居なくなった瞬間を見てティアの剣がブレないなんて思えますか?』
でもあの状態じゃ。
『ティアも最も悪い力に縋りました。最凶な力です。信じた私達が馬鹿みたいですね。ユウカの直感も当てになりません』
謎の声は呆れたと口にする。
『貴方は超えなければなりません』
私はあの手も足も出ないヒカリっていう人を超えなければならないの?
『そんな雑魚と一緒にしないでください。貴方が超えるのは最強です』
最強?
ヒカリを雑魚呼ばわりした謎の声。
『それでは貴方に小さい頃から見せていた夢を現実とリンクさせます』
夢? 夢と言われて思い出すのは銀髪の少年。
『最後の試練です』
謎の声が消えていく。
『貴方はこの人を超えなければなりません』
私が目を開くと目の前に何十人ものヒカリが居た。
怖いと咄嗟に思い足を下げる。
その瞬間、急激に力が抜けていく。
逆に足を前に出すと力がみなぎって来る。
私の身体は透けていて、誰かと重なっていた。
その人物が動くと私も合わせて動く。
何も無い空間に手を入れて金色のオーラを纏う黒剣を引き抜くと、私の口が勝手に動いた。
いや、私じゃない誰かの声。
『ここはお前らの墓場だ』
この感覚は体験した事がある。
この人に置いていかれれば私の存在は消えてなくなる。
最後の試練はそういう事なんだと思う。
この人が魔力を少しも纏ってないからか、少しでも気を緩めたら魔力で押し潰されてしまいそうな圧迫感が私を襲う。
なんでこの人はこの中で平然と立っていられるんだろうか。
ここまで魔力が無い人もパパ以外で見た事がない。
「まず一人」
その人が呟くと私の力が急激に抜けていく。
私はまだヒカリの魔力に足がすくんで動けないのにその人の背中は一瞬で遠くなる。
ヒカリも反応出来なかったのか無防備な状態でその人の剣を受ける。
受けるその瞬間にピタリと剣が止まった。
絶好のチャンスを不意にしたその人が後ろを振り向き私に視線を飛ばした。
その人は安っぽい仮面を付けた
ヒカリが体勢を立て直すと至る所からルーラーに銃を放つ。
それを簡単に避けながら私が居る位置に戻って来た。
「これは何の真似だ?」
私に聞いているのかな?
私じゃない誰かと話してるようにルーラーはボソボソと喋る。
「もうわかった」
ルーラーはため息を吐いて呟く。
「俺が気づかなかったらお前消えてたぞ」
次は私に話しかけてるようだ。
「ここにいる時点で既に見込みがねぇのにそれでも見捨てられないってお前アイツらに愛されてんな」
アイツらというのが誰なのかは分からないけど夢でも現実でも私を煽ってくるルーラー。
「まだ怖いか?」
怖い。
「だからお前はティアに託したんだろうな」
違う! あれが最善の手だった。
「お前は大事な妹を盾にして怖さから逃げた。それが今の状況だ」
私の心を見透かした言葉。
『お前より断然俺の方が怖い!』
え?
「お前は魔力を纏える、才能もある。勝てる可能性だってある」
俺はどうだ? とルーラーは続ける。
「魔力も纏えない、才能無しだと言われた事もある。勝てる可能性だって分からない」
それなら何で貴方は笑ってるの? 負ける事なんて微塵も考えてない。
「俺にあるのはこの棒切れだけ、お前が怖がる理由がわからん」
私には貴方が怖がらない理由が分からないよ。
『さぁ、この理不尽をさっさとくつがえすぞ』
私は剣を握り直す。
もう私の足は震えてない。
私に時間を使ったせいでヒカリの真上に十の星が並んでる。
三十人も並ぶヒカリ一人一人が化物に見えてくる。
この人に勝てる可能性があるって言われたら自然とそんな気がしてくる。
ホントに。
『私、負ける気がしない』
力が急激に溢れてくる。
私の意識はプツリと切れた。
ユリアの存在が消える。
「もういいのか?」
『『『はい、ユウ様ありがとうございます』』』
精霊神達が俺に感謝を送ると気配が消える。
「愛されてんなっと!」
嫌な予感に仰け反ると俺の頬を何かが撫でる。
「不可視の弾丸か」
ヒカリが俺に銃を向けカチャリと引き金を弾く。
放たれた球が無数に分裂を繰り返し飛んでくる。
そのどれもが一度でも当たれば致命傷なほど膨大な魔力が込められている。
その全てを黒剣で斬りながら突っ込む。
一人目。
ソイツは驚きと共に自分が斬られた事を自覚する。
だが吹き飛ばされる最中に深々とした傷がカチャリと銃の引き金を弾くだけであっという間に再生していた。
不可視の弾丸と折り重なる銃の弾幕を潜り抜けながら一人一人を相手に立ち回っていると段々とヒカリのスピードが俺を上回る。
手数が間に合わなくなった俺は不可視の弾丸を受けて吹き飛ばされる。
腹に穴が空いたような痛みが全身を駆け巡り、勢いが無くなるまで転がって行った。
寝そべりながら呟く。
「全回復と不可視の弾丸と分裂して追尾する弾丸。しかもアイツら俺が剣を振る度に反応と動きが早くなってる気がすんな」
打つ手がない。
黒剣を杖代わりに立ち上がる。
『これだからチート持ちは嫌いなんだよ』
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