黒色
なんで、なんで、なんで。
目の前が真っ暗に染まる。
『お姉ちゃん』
ティアの呟きはポツリと空気に溶けたように無くなる。
自然と身体の力が抜け、ありえない光景に膝をつく。
暗闇に手を出すとユリアの手に当たる。
ユリアの手をティアは両手で握りしめると、その手は段々と熱を失っていく。
『お姉ちゃん』
声を掛けても、いつもの優しい声は返って来ない。
『お姉ちゃん』
憧れた人の、尊敬してる人の、大切な人の。
当たり前な姿が無くなっていくのが怖くなる。
ティアは手を離しユリアの身体を抱きかかえる。
心臓の音はもう鳴っていなかった。真っ暗な世界は手についたやけに綺麗な赤の色で塗りつぶされていく。
ほんのりと暖かな赤色はティアの心に鮮明な色を残す。
『悲劇は終わったか? その女が作った最大のチャンスを逃すなんて』
ヒカリはカチャリと鳴らし星を出現させると両手に銃を持つ。
両手に持つ銃をクルリと回す。
『無駄死にだったな』
『ムダ?』
ヒカリの声に反応を示すティア。
「あぁ、無駄だ」
ヒカリはまたカチャリと引き金を弾くと星が出現して銃に込められた魔力の量が爆発的に跳ね上がる。
「……貴方は少し黙って」
ティアは必死に嫌な感情を押し殺す。
自分ではもう抑えきれない所まで来ている嫌な感情を。
『おいお……』
ヒカリが声を出した瞬間にティアの姿が消える。
それと同時にヒカリは黒い線に斬り飛ばされる。
『黙ってって言ったよね』
ヒカリは地面を引きずりながら着地すると膝をつく、激痛に顔を歪ませるとカチャリと二回銃の引き金を弾き、星が二つ出現する。
ヒカリは淡い青の光を纏いながら立ち上がるとティアに銃を向ける。
「お前は今、マトモに動く事も出来ない」
「そんなの関係ない」
ティアは瞬間的にヒカリの懐に入る。
反応が出来ない事を悟るとヒカリは引き金を弾く。
ヒカリの身体速度が急激に上がると黒の線を残す斬撃を躱す。
「なんだその魔力は!」
ヒカリは得体の知れない魔力に舌打ちしながら距離を取る。
黒色のオーラルを纏うティア。
『私、今スッキリしてるの。もう何も無い。何も考えなくていい。貴方を殺すだけでいいんでしょ?』
先程まで絶望に身を寄せた少女が今は目の前で清々しい笑みを浮かべ、溢れ出る黒い魔力を無尽蔵に撒き散らしている。
『面白い、やってみろよ』
カチャリと銃を鳴らすと星が現れる。
『星天アルゲティルーツ』
銃をクルリと回すと時間差でティアに弾が当たる。
ティアはその衝撃を反らしながらヒカリに突っ込んだ。
「感知や視認の出来ない不可視の弾だ」
ジグザグにヒカリに向かって突っ込むティア。
「そんなの動いてれば関係ない」
そんなティアを見ながらヒカリはニヤリと口角を歪める。
「それはどうかな」
ヒカリはティアとは全く別の方向に銃を向け、引き金を弾く。
『星天ルクバトブースト』
星の出現と共にティアは有り得ない方向から不可視の弾丸の衝撃を受ける。
「今から俺が放つ銃は全て必中になる」
「痛みなんかどうでもいい。貴方を殺せれば」
ヒカリが銃の引き金を弾く度にティアは衝撃を受け、吹き飛ばされる。
「成程、お前は力の代償に何かを切り捨ててんのか」
ティアはヒカリを殺すまで身体が全て壊れるまで止まらない。
深々とした傷を残しながら立ち上がる。
「くだらねぇ、自分から雑魚に成り下がりやがった」
ヒカリは時間経過と共に魔力が上がっていくティアを見ながら、時間経過と共に弱くなっていくティアを見ていた。
「終わらせてやるよ、お前の存在ごと全て」
銃をカチャリと鳴らし星が出現する。
両手の銃をティアに向け、呟く。
『星天レグレスバースト』
膨大な魔力の弾がティアに向かって放たれる。
「お姉ちゃんを守らなきゃ」
ティアの後ろには倒れた大切な存在がいる。
ティアは大切を守る為に大切を切り捨てた。
『私はなんの為に戦ってるの?』
黒い線がヒカリの弾丸を切り裂く。
「はぁ、今度は化物を相手にしないといけないのかよ」
ヒカリはため息を吐きながらティアに銃を向ける。
『貴方だれ?』
遠くにいたはずのティアは何時の間にかヒカリの隣に移動していた。
「貴方が私と遊んでくれるの?」
ヒカリは嫌な予感と共に回避行動を取ると、自分が居た場所を黒い線が通り過ぎていく。
『星天アルレシャブースト』
何度も同じ星の力を重ね掛けしていく。
必中の弾に必殺の力を込めた弾がティアを襲うが、ティアは全てを黒の魔力を纏った剣で斬り裂いていく。
結界が揺らぐ程の衝撃にティアとヒカリの周りの次元が歪んでいった。
「楽しいね」
笑顔で戦うティアはヒカリの膨大な魔力を相殺するように自分の大きすぎる力を使っていた。
身体が耐えられない程の力は限界を迎える。
踏み込む足が壊れて膝をつく、振り上げる腕が壊れて空を切る。
黒の魔力を垂れ流し、なおも身体を動かそうとするティア。
ヒカリはもしもと考える。
もしもこの力が大切な者を失ってない状態での強さで実際に立ち会う事になっていたらと。
考えるだけで身震いして、抵抗の出来ないティアの額に銃を構える。
「遊びは終わりだな」
『うん。もう何も無いの……』
笑顔のティアの瞳から涙が落ちた。
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