異なる可能性



 学園祭当日の計画は着々と進行していた。



 ユリアとティアは既に支度を終えて家を出ている。


 リリアとユウカは俺の着替えを手伝っていた。


『えっ、本当にやるのか?』


『『もちろん』』


 安物の仮面を付けたクレスは娘達の学園祭を普通に回りたいと思っていたが、それは叶わないらしい。



『ティアとユリアの学園祭の出し物も見学しに行くか! フィーリオンの何処かの喫茶店を貸し切ってやるって言ってたしな』


 探し出さねば! 店すら教えて貰えなかった。


 後でリリアかユウカに聞くか。



 模擬戦争で使った舞台コロシアム。そこで学園からの出し物として学園の最優秀者のティアとユリアよる試合が行われる。


 俺が試合に乱入して最後の試練をやるという計画らしい。


 激しい戦いになるからと被害が出ないように邪神フィリア、ミリアードの姫ミミリアとアリアス、その三人がコロシアムで結界を構築してると聞かされた。


 そこにリリアとユウカも加えて何があっても壊れない強靭な結界を創り出すらしい。



 リリアがフランとアクアに連絡がつかないと少し焦ってはいたが今は王国の事で忙しいとフランが愚痴を零していたしな。


『クレスさん、やり過ぎないように本当にお願いしますよ』


 不安そうな目を俺に向けてソワソワとしているジーク。


 学園祭の盛り上げ役として俺が序盤に行われる試合に乱入するんだ。


 何かが起こればすぐに剣聖の責任問題に発展してくる。


「魔法のスペシャリスト達が結界を創るんだから何も起こりはしないだろ」


 俺はジークに問題ないと言葉を送るとバッチリと支度を終えて、転移魔法をリリアが構築する。


 これが終わったら喫茶店。


『さぁ行くか!』






 バリッと変な音がするとリリアは一旦魔法を解いた。


「何か来ます」


 魔法陣が現れるとその上に光が集まり人の形を作っていく。


 金髪に青の瞳の人物。


 リリアはその人物と目が合うと話しかけた。


「あら、アクア君は直接来たのですね、フランちゃんは何処ですか?」


 アクアはフランの名前を聞くと眉間に皺を寄せる。


 重苦しい雰囲気の中アクアは口を開く。


『フランは今、重症で……助かるかも分かりません』


『は?』


 クレスの殺気がアクアを貫く。


『僕が駆けつけると国は崩壊して、国の負傷者は幸いにも一人も居らず、フランをそんな姿にしたのは一人の男だったと報告を受けました。記録した映像を見る限りまさに圧倒的でした』


 ギリッと歯をくいしばる音を出してアクアは続ける。


「フランが心配でずっと傍に居たのですが、フランが治療中ずっと呟いてたのです。最初は良く聞こえなかったのですが良く聞き取って繋げると『明日世界が危ないお兄様に伝えて』と」


「襲われたのはいつだ?」



『昨日です』



 アクアが昨日と告げたその瞬間に救急警報が鳴り響く。


 クレスはユウカに視線を飛ばす。


『結界はまだ弄れるか?』


『もうやって貰ってるよ』


 ユウカも慌ただしくメッセージを飛ばしてリリアと話し合っていた。


 ジークはブツブツと呟き一通り終わると。


『クレスさん世界中の国々で同時に攻撃が行われました』


「世界中で?」


「はい、他の国の情報も聞いているのですが姿形が同じ一人の男が複数に分身していると考えられます。その場合三十一人の同一人物が居る事になりますが」


「フランを圧倒するだけの人物が三十一人か」


 ユウカはクレスの考えに口を出す。


『違うよ』


「何がだ?」


「フランちゃんを襲ったのは分身体、オリジナルは次元の狭間でこの世界を見てるから引き釣り出す必要がある」


 そしてとユウカは続ける。


「オリジナルは分身体を全員集めても同等かそれ以上の力がある」


 クレスは調和の神から見せられた映像を思い出す。


 無傷の敵と自分が死ぬ光景を。


『勝てる可能性があるのはクレス君じゃなく……』


 クレスは察してユウカの言葉を遮る。


『その可能性に今回は託すことにするよ』


 リリアが転移魔法を構築して発現させる。


『待ってください……僕にも戦わせてくださいクレスさん!』


 アクアはクレスに向かって言葉に想いを込める。


「結界を張る奴等は参加出来ないが、ジークお前もやれるか?」


「フランさんには僕も良くしてもらいました。このまま見ているだけならこの怒りを何処にぶつけようかと考えていた所です」


 ジークが承諾するとアクアは懐から折れたグランゼルをクレスに差し出す。


 クレスはそれを受け取ると鞘に戻して腰に掛ける。


『行くか』


 その場にいる全員がティアとユリアが試合してる舞台に転移の魔法で飛んで行った。






 ティアとユリアが撃ち合うコロシアムで警報が鳴り響く。


『フィーリオンが攻撃されました。甚大な被害が報告されています。速やかに避難をお願いします』


 アナウンスが流れるとティアとユリアは撃ち合うのをやめる。


 仮面の男が脳裏を過ぎるとユウカからメッセージが連続して送られてくる。


 フランが倒された事、今起こってることの詳細。


 そして最後のメッセージ。



『オリジナルに勝てる可能性があるのはティアちゃんとユリアちゃんしかいない』



 目の前に光が集まるとクレス達が転移をして現れた。


 安物の仮面を付けているクレスに剣を向けるティアとユリアだがそれに構わずにリリアとユウカはコロシアムの端に移動すると詠唱を始めた。


 アリアスやフィリア、ミミリアも示し合わせたように観覧席から飛び降りて四方に散る。



 全員が詠唱を始める。


 三段階の結界を張り、世界中に散らばる国々に攻撃してる人物を閉じ込める。


 オリジナルと分身体を分けて、ティアとユリアがオリジナルを。


 ジークとアクアに分身体の一体を。


 クレスは残りを。


 結界は構築されていき、クレスを中心に魔法陣が浮かぶ。


 アリアスは抗う事も出来ない召喚を行う。


絶対召喚アブソリュート


 クレス達は結界内の別々の場所に転移させられた。





 コロシアムからクレスの視界が変わる。


 目の前には三十人の敵。


 その敵は狼狽えること無くクレスを見つめる。


『ここは何処だ?』


 その全員がクレスに銃を向ける。


『リミテッド・アビリティー』


 ゆっくりとした動きでクレスは何も無い空間に手を入れる。



『ここはお前らの墓場だ』



 金色のオーラを纏わせた黒剣を引き抜いた。



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