使命
森に囲まれた豊かな国。
煌びやかに装飾された椅子に座り、白髪で顔には皺を刻みドッシリと構える王と軽く頭を下げて話し出したフラン。
『お久しぶりです、叔父様』
『……良く来てくれたなフラン』
王は顔を綻ばせてフランを迎えた。
だが厳しい顔付きになると王は深く頭を下げる。
「フラン、本当に悪かった!」
フランは王に優しく微笑むと。
「それはもうずっと前に許しましたよ、私が来た時に毎回謝るのはやめてください」
「だが、お前には謝っても謝りきれぬほどの罪を儂は犯してし……」
フランは王の言葉を切り、自分の言葉を挟む。
「叔父様、私も王も人です。間違えはありますし、私は今幸せなのです。私が叔父様を恨んだら私の全てを背負ってくれた敬愛してるお兄様に怒られてしまいます」
「儂が見捨てたお前を救ってくれた兄か、儂はその兄に一生じゃ返しきれぬほどの恩があるようじゃな」
「今度改めてお兄様とアクア様を連れて私の大切な叔父だと紹介しに来ますけど。お兄様にはその様な事を言わないでくださいね、いらないと言われますよ!」
「フランの全てを背負ってくれた兄に、儂まで背負わせるのは重いか」
「はい、そういうことです」
雑談を終えるとフランは姿勢を正して真剣な口調に直る。
『早速ですがルナリア王、ダリアード王国との協定の件を深く掘り下げたいと思います』
「うむ、続けてくれ」
フランはルナリア王国とダリアード王国との交易などの協定を結びにルナリアに来ていた。
ルナリア王との協定の話も一段落して城を出た。
アクアから託された事を伝え終わり、肩の荷が降りたフランは賑わう国をブラブラと回る。
ルナリアには今やフランを怖がる者は居ない。
それどころかフランを目にすると目の色を変えて声をかけてくる。
『フラン様来てたのか!』
『フラン様、道中にこれでも食べてください』
『ますますフローラ様に似てこられて』
『あっ! フランお姉ちゃんだ!』
数時間歩いただけで持ち歩けない程の荷物が増える。
魔法で荷物を浮かして国を出ると魔力で動く車まで運ぶ。
荷物を全て積み込んでダリアードに帰ろうとした時、窓越しから不審な男に目が止まる。
両手を国に向けながら佇む男に。
何をやってるのか聞こうと車から出てフランは声をかけようとした。
『見せしめだ』
一言呟いた男はカチャリと引き金を弾くと魔力の弾が国に向かって飛んでいった。
『銃?』
フランはすぐに魔力の弾丸に向けて走る。
腰に掛けている鞘からグランゼルを引き抜いてその弾丸を弾き返す。
国に警報が鳴り響き、フランは男に向かって声を出す。
『貴方何してるの!』
「邪魔すんなよ」
男は冷めた声でフランに言うとカチャリとまた銃の引き金を弾く。
先程とは比べ物にならない程の魔力で二発。
一つの弾丸を受け止めたフランはもう一つの弾丸までは防げずに国に向かって飛んでいき、国を囲う城壁に当たる。
型抜きでくり抜かれたように城壁にはポッカリとした穴が空いた。
フランはオーラルを纏い一つの弾丸を弾くだけで魔力を削られていた。
男は魔法が止められることを微塵も思ってなかったのか、フランに関心を寄せる。
「俺の魔法を受け止める奴がこの世界にはいるのか」
「このくらいの魔法が使えた所で強者気取りはやめて欲しいですね」
フランは服に付いた土埃を払うと目の色を変える。
『
白銀の魔力がフランを包み、魔力が跳ね上がる。
「私はフラン・デル・ダリアード。貴方は?」
グランゼルを構え、フランは男に問う。
「俺はヒカリ。
「テンドウヒカリ! 何故国を襲うのですか!」
「何故?」
フランの声に反応して笑うヒカリ。
一通り笑い終えてふぅと息を吐くと怒りを携えてフランを睨みつける。
猛烈な殺気を帯びた眼差しは一瞬フランを退かせる。
『お前ら異世界人が俺の世界から大切な者を奪わなければこんな事にはなってねぇんだよ』
ヒカリはフランに銃口を向けると引き金を弾く。
魔力の弾丸はすぐにフランへと届き、それをグランゼルで受け止める。
「それにかまけてていいのか?」
ヒカリは国に向けて連続して弾を飛ばす。
フランは一つの弾を抑えるだけで手一杯で為す術もなく、ヒカリが放った弾丸は城壁を突き抜けて内部まで被害が広がって行く。
悲鳴や瓦礫が散る音を後ろで感じながらフランは能力を発動する。
『
やっとの思いで一つ目の弾丸を弾くと、フランは魔力をさらに高める。
『魔力全開放』
爆発的な魔力の渦がフランを包み込む。
グランゼルを鞘に戻し、目を閉じると自分の理想の力を思い描く。
『お兄様』
フランが纏っている白銀のオーラに赤色のオーラが混ざる。
『貴方は今最高に運が悪い』
ヒカリはフランの雰囲気が異様な物に変わった事を呆然と見ていた。
「行きますよ」
全力を出してヒカリに望むフラン。
『お前は俺にあった事が最大の不運だ』
ヒカリは銃に一つのカートリッジを差し込んだ。
国とは到底思えない見る影もなくなったルナリア王国で倒れ伏すフラン。
グランゼルは折れ、立ち上がる力も無くなっていた。
『異世界人はこの程度か』
ヒカリはボロボロになったフランを見つめて銃を構える。
フランはゴホッと血を吐き出し、力なく言葉を漏らす。
『これ、ぐらいで、強者、気取り、は、やめて、ください』
「まだ息があったか」
『貴方は、運が、悪い、です』
目を開けたフランの瞳にはまだ力強い意思が見える。
『お前はもう喋るな』
ヒカリは引き金を弾く。
カチャリと鳴ると魔法は出なくカートリッジの魔力が切れた事を確認する。
ブォンとその場で次元が避けると一人の男が現れた。
『さぁ、次は何処を襲いますか? ヒカリ様』
『神か、次は全部の国を一瞬で壊す』
神はヒカリの答えに賛成すると次元の扉に案内をする。
『異世界人の奴等はそうしないと話も出来ないだろ』
『はい、その通りです』
ヒカリと神が次元の扉に入り、何事も無かったかのように消え去る。
残されたのは残骸の国と倒れたフラン。
『お兄様』
フランは力なく折れたグランゼルを抱え込んだ。
薄らとするフランの手を強く握る人物はここには居ないはずの人物。
『おい、早くしろ! 緊急だ!』
『ア、クア様』
『喋るな!』
緊急事態だと知らせを受けて来たアクアはフランを見つけて、転移の魔法を構築させる。
『フランには死んでもらったら困るぞ! 一番分かってるだろ』
ふふっとフランは笑いを零す。
『フランを死なせたらダリアードが滅ぶからな!』
周りの従者達にアクアは大声を出すと。
転移の光に包まれながらアクアはフランの手を願うように抱きしめて祈る。
『まだ僕の傍で僕を支えてくれ』
『はい』
小さくフランは呟いた。
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