再会の記憶
学園に侵入してから数日が経った。
いつのものように朝飯を食べ終わり寝ていると。
「ねぇ、お兄ちゃんお願いがあるんだけど」
まだ家を出ていなかったらしいリリアが俺に声をかけてきた。
妹様の頼みだ、俺が断るわけがない。
『嫌なんだが』
リリアが鬱陶しく家を出て、ベンチに腰を掛ける。
結構な距離を歩いてきて、眠りを邪魔された俺はウトウトと揺れる。
『……ナちゃん?』
聞き覚えのある声に目をやるとティアが目を見開いて俺を見ていた。
「ルナちゃん!」
飛びつく勢いでティアが俺に突進を繰り出す。
ぐはっ!
「すっごく探したんだよ、ほんとに……」
リリアからティアが元気がなく、もう一度ルナになってくれと頼まれた。
妹様の頼みを俺が断るわけがない!
ティアの元気が無いのは知っていたが、俺が関係していたらしい。
ここ何日もティアは学園内で俺を探し回ってたらしい。
全然見つけられないからティアはリリアに何度も何処のクラスなのか、何処にいるのか聞いていたと。
日に日に落ち込んでいるティアをリリアは見ていられなかったと言っていた。
『お兄ちゃん、一日だけでいいからティアに思い出を作ってあげて』
その後の事はリリアがやるらしい。
思い出ねぇ。
「ティアは私と何がしたい?」
「なんでもいいの?」
「なんでもいいよ!」
モジモジとするティアに力強く答える。
「放課後に二人で遊びに行きたい」
そんな事か。
「じゃあ今から行こうか」
「えっ? 授業があるよ?」
俺はティアの手を握り引っ張る。
「そんなのサボっちゃえばいいよ」
俺達は学園をこっそりと抜け出した。
ティアは授業をサボった事がないからかビクビクとしている。
最初は何か悪いことしてる気分になるよな。
『お二人さん、まだメルカトラスは授業中じゃないでしょうか?』
見回りをしている剣聖ジークと遭遇する。
ティアは俺の背に隠れてビクッと肩を揺らす。
「ティアちゃんと、あれ? 貴女はリリアさんやフランさんに似てますね」
俺を見て疑問顔のジーク。
面倒くさくなる前にすぐに逃げ出す。
「待ってください」
ティアの手を強く握りジークの声を背に走る。
「逃げ切れたか」
最近の俺は逃げてばかりな気がする。
「二人で遊ぶって何をしたらいいのかな?」
「私はルナちゃんと一緒に居るだけで凄く楽しいよ」
そんなもんなのか?
俺は屋台を見つけて串焼きを買い込む。
見晴らしのいい公園があるという事でティアに連れられてそこに向かった。
公園に着いて俺とティアはベンチに腰を掛ける。
こうしているとリリアとずっと一緒にいた昔を思い出す。
お兄ちゃん、お兄ちゃんといつも傍にいたリリア。
それにしても。
「串焼き食べたい」
袋を右手に抱え込み、左手はティアが離してくれない。
ティアが一本、串を取り出す。
「あ〜ん、する?」
恥ずかしそうに言うティアにお願いする。
「お願いします」
「あ〜ん」
目の前に迫る串を口いっぱいに頬張る。
「美味い!」
パクパクと串焼き食べていく。
ティアにも串焼きを勧めたが食べたくないらしい。
「ルナちゃん、メルカトラス学園の学生じゃないよね」
ティアは俺をずっと探してたらしいからバレていても不思議じゃない。
「次はいつ会える? 私はルナちゃんがいいなら何処に居ても会いに行くよ」
リリアに今日だけルナになってくれと頼まれたが、その時にもうルナは今回だけにしてくれと言われた。
『ダメだ、ティアとはもう会えない』
「そっか」
短い返事だったが最初からそう言われる事を知っていたように思える。
「ルナちゃんはもう一度だけ私に会いに来てくれたんでしょ」
串焼きを食べさせてくれるティアは嬉しそうに微笑む。
「ティアの為に思い出を作りに来た」
「リリアママから頼まれたのかな、迷惑だったでしょ」
娘の為になるなら迷惑なんて思うわけがない。
「いや、ティアの為なら喜んでやる」
「そ、そっか」
串焼きを差し出す手が止まる。
少しすーはーと深呼吸したティアは照れたように声を出した。
「あ、あ〜ん」
ティアの声に合わせて口を開ける。
パクッと被りつくと肉汁が口いっぱい広がる。
「美味い!」
大量にあった串焼きも食べ終わり、辺りが暗くなり始めた。
「もう帰る時間だ」
俺がベンチから立ち上がるとティアはずっと離してくれなかった手を離す。
「ルナちゃん、私の思い出を作りに来てくれたって言ったよね? 最後のお願い聞いてくれる?」
俺はティアに向き直るとティアもベンチから腰を離す。
「十秒間、目を瞑ってくれないかな」
俺はティアのお願いを聞き入れて目を瞑る。
フワッとティアの甘い香りと共に唇に柔らかな感触。
『頬っぺのキスのお返し、私のファーストキスだよ』
十秒数えて目を開けるとティアの姿は無かった。
『思い出作ってあげれたかな』
ルナを置いてティアは公園を出た。
『ルナちゃんにこんな顔見せたくないな』
流れる涙は抑えきれずに零れる。
もう会えないと思えば思う程に溢れてくる想いは涙に変わって流れていく。
ティアは自分の唇を指先でなぞるとキスした光景を思い出して頬が朱染まる。
ティアにとっての最高の思い出を胸に公園がある方向へ振り向く。
『さよなら、ルナちゃん』
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