校則



「今から学園祭の選抜をする。模擬戦争の戦犯はもちろん除外だがな!」



 は? コイツ何言ってんだ?


 さっき和解したはずの奴等も何も言おうとはしない。


 ティアが抱きついている左腕がキツイぐらいに圧迫される。



『校則第一! 服装の乱れは心の乱れ!』


 男の教師は急に大声を出すと持っていた模擬剣で近くにいた男子生徒を殴り飛ばした。


「襟が立ってたぞ、直しとけ!」


 えっ? 何が起こってるんだ?


『校則第二! 教員の前では私語を慎め!』


 殴り飛ばされた男子生徒がうめき声を上げた瞬間に追い打ちとばかりに再度殴り飛ばされる。


 助けようと身体を動かすがティアが離してくれない。


 フルフルと首を横に振って俺を止める。


「誰だ? 今俺に殺気を投げた奴は」


 模擬剣を持った手をブンブンと振り回して愉快そうに声を出す。


「おいティア。お前か?」


 言葉を発しながら近づいてくる男の教師。


『私じゃない、メルクス先生の勘違いじゃないですか?』


「俺の勘違い? 親が偉いとその子供も言うことが違うなぁ」


 メルクスはティアに向かって模擬剣を振り上げた。


 その瞬間、俺の右手に魔法で作られた剣が現れる。


 それで俺はメルクスの放った剣を打ち返した。


 メルクスがニヤリと笑うとオーラルを纏い、魔力を込めた剣を俺に向かって振る。


 さすがだな、止まって見える。


「校則第七! 教師に逆らった者に相応の罰を与える」


 欠伸をしながら受け止める。



『なぁ、与えられる罰から身を守ったら駄目なんて校則あるか?』



 メルクスはチッと舌打ちする。


「お前は退学だ」


「は?」


「別に今すぐ退学になんてならないから安心しろ。ただ俺が受け持つ授業でお前の評価はずっと1だ。この意味が分かるか?」


 どういう意味だ?


「俺に刃向かったんだ、俺のルールを知らなかったみたいだな」


 ずっと1で何が悪いんだ?


「俺の授業で1を取り続けると進級も出来ずにずっとこのままだ。それに耐えきれなくなった奴が何人この学園を出て行ったと思う! お前で丁度百人目だ!」


「へぇ、リリア先生がそれを黙認すると思ってんのか?」


 メルクスは大きな声で笑う。


「英雄様が何を言おうが教師が受け持つ評価を他の奴がいじれる訳ないだろ! ティアとユリアはリリアに迷惑が掛からないようにいつも俺の授業を卒無くこなしてるもんな」


 正義感が強いティアとユリアは自分達が動いた事でリリアの弱味になるんじゃないかと恐れてるのか。


 メルクスがもしリリアの弱味を握れば何をするか分からないからな。


 だから他の奴が痛めつけられていても感情を押し殺して動けずにいるのか。


 さすがにコイツも何もしていない英雄の娘達にまでは危害は加えないだろ。


 さっきの模擬剣での攻撃も当てるつもりはなくて、脅しの為に使ったのかもしれない。


 いつもこんな事を俺の娘達にやってんのかコイツは!


「ずっと評価1ならもうお前に遠慮する必要は無いよな?」


「何言ってんだ、お前」



『お前を教師やれないくらいボコボコにしたら俺の評価は復活するって事だろ? 簡単じゃないか』



 俺はティアの腕を優しく叩く。


 キツく抱きついていた腕が嘘のようにティアはスっと離れて行った。



「特待生でもない奴が……調子に乗るんじゃねぇ!」


 殺気立ったメルクスはオーラルを纏い俺に剣を振る。


 俺はそれを軽く弾いてまずメルクスの両腕を斬る。


「うぎゃァァァ!!!!」


 次に両足、腹、胸、首。


 鈍い音が鳴り響く。


 何度も何度も。


 体育館に張ってある魔法でダメージは緩和され切断とか重傷になり得る攻撃は全て強打に変換されてるみたいだ。


 コイツが地面に足を着くことはない。


 縦横無尽に斬り付ける。


 剣は加速し、音を置き去りにする。


『トドメだ』


 剣の勇者が振る剣は無音。


 静かに研ぎ澄まされた一撃。


 俺が最後の一太刀を浴びせようとする瞬間に目の前で氷の花がパリンと現れて割れる。


 ふと我に帰るとメルクスは微かなうめき声を上げながら空中から地面にバタりと落ちてきた。


『何事ですか!』


 リリアが慌てた様子で体育館に入ってきた。


 直ぐに救護班に連絡を取りメルクスの傍に向かう。


 メルクスはまだ意識があるようで俺が近づくとガクガクと身体を震わせて怯えていた。



 メルクスが魔法で空中に浮かせられて運ばれていくのを見送るとリリアが俺に近づいてくる。


「ルナさん、お話があるので少しよろしいですか?」


 ティアが心配そうに俺を見つめる。


 心配ないと笑顔で返して体育館を出る。




 リリアに連れられて知らない道を進む。


「お兄ちゃん、やりすぎじゃないかな」


「やっぱりスカート短すぎたかな〜」


「写真はもう撮ってあります、ですがそうじゃないよ」


「え? 写真?」


 どこで写真なんか撮られたんだ!


「メルクス教員の事だよ」


 これは怒られそうだ。


 少しづつリリアと距離を取り、何処かに案内してるだろうリリアを背に俺はすかさずその場を後にした。





「逃げ切れたか」


 メルカトラス学園の門を通り、最短ルートで家に帰る。


 クロの案内が無ければ学園内をグルグル回る所だった。


 いつもの部屋着に着替えてソファーに寝転がる。


 俺はすぐさま眠りについた。






『あれ? お兄ちゃん?』


 メルクスさんは規則には触れてないから私じゃ何も出来なかった。ティアちゃんとユリアちゃんの件もそう。


 お兄ちゃんは一日で解決しちゃうんだもん。


 メルクスさんのあの怪我は回復魔法を使っても時間が掛かりそう、精神的にも教師は続けられるのかな?


 何時の間にか姿を消したお兄ちゃん。


 スカートをヒラヒラしてるお兄ちゃんの姿が思い浮かぶ。


 ルナちゃんね、あの姿のお兄ちゃん可愛かったなぁ。


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