戦犯への報復



 横で着替えているティア。


 俺は体操服を脱ぎ、意を決してスカートに手を掛ける。


 スカートを穿き、上の制服も着る。


 完璧だ。



 ヒラッヒラッとスカートの余韻を楽しむ。


 短くない? 私のパンツ見えてない?


「ルナちゃん、襟が曲がってるよ」


 俺の姿を見て顔を近付けたティアは襟を直してくれている。


「はい、終わり!」


 ティアも襟が立っているのに気づいた俺はお礼にとティアの襟も直して上げる。


「ルナちゃん、近いよ」


 顔を赤くしてるティア、照れているのが分かる。


 我が娘ながら可愛いな!


 俺はティアのほっぺにキスをする。


「え?」


 呆けるティア。


 や、ヤバイ! 可愛すぎて昔の癖が出てしまった。


 昔は娘達が可愛すぎて毎回のようにほっぺにキスをしていたが、ユウカに助言を貰いやめたのだ。


『それ本人達から拒否される前にやめとかないとクレス君ショックで死ぬよ』


 俺はゴクリと唾を飲み込む。


 やってしまった!


 ティアに聞くことにする。


「い、嫌だった?」


 ティアはふるふると首を左右に振る。


「大丈夫」


 ティアは短い返事と共に俺の左手を強く握る。


「食堂、行こっか」



 俺の手を引いて更衣室を出ると早足で右に左にと知らない道を進む。


 嫌われてはいないらしい、ギリギリセーフだ。


 ユリアともすれ違ったが。


「お姉ちゃん、私ルナちゃんと食べるから〜」


 と言って颯爽とユリアをスルーして進んで行った。


 ユリアはユリアで女子生徒に囲まれていた。


 学園に居る時のティアとユリアが知れて俺はわりと満足だ。


 これだけ可愛いと男共のアプローチも沢山ある。


 だが無視を決め込まず一人一人にティアは俺と食べると強調して断っていた。


 男共からの誘いを断るティアを見ているとリリアが学生の頃はアクアがうるさかったのを思い出す。


 そんなアクアも今では義理の弟か……全然可愛くねぇ。


 フランはアクアのどこを好きになったのか、俺には検討がつかない。



「ルナちゃん、何がいい?」


 食堂に着いたようだ。


 足を止めると沢山のテーブルが並んでいる横でカウンター越しに調理の作業をしてるメイドさん達。


 昔からの疑問なんだが、キッチンではメイド服が正装なのか?


 カウンターに並んでいる列の後ろに着くと、スっと列が割れる。


「お先にどうぞ、お嬢様方」


 えっ?


 俺の驚きを他所に手を引っ張られグングンと進む。


 ティアはありがとうございます。と言いながら軽く頭を下げる。


 俺に聞こえるように小声でいつもの事だよと説明してくれる。


 今日もティアさんと会話したぜ! と後ろで盛り上がる馬鹿共。


「何がいい?」


 すぐさまカウンターに着くとティアが声を掛けてくる。


 俺の食べる物は決まっている。


「ミナルディで」


「パパが好きなのだ、じゃあ私も」


 メイドさんがにこやかな笑みと共に頷くとテキパキと料理を作ってくれる。



 あっという間に出来上がると違うメイドさんが席まで届けてくれるようだ。


 案内された席に座りミナルディと言う名前の蕎麦が二つ。


 ティアにはもうそろそろ手を離して貰いたい。


 手を握ったままティアは左手で箸を掴み蕎麦を食べ始めた。


「美味しいね」


 ニコッと笑うティア。


 えっ? 何で離さねぇの!


 まぁいいが……俺は右手で箸を掴み食べ始める。


 音を立てながら蕎麦をつづる。


 ふと疑問に思うのは何で手を離さないのか。


 もしかして、もしかして俺の正体がバレてるのか?


 そして逃がさないように手を繋いでいる。


 どこでバレた? あの時のキスからティアの様子がおかしいのは明白だ。


 だが……蕎麦うめぇ。


「ねぇ、ルナちゃんあのキスってどういう事なの?」


「グッ、うん?」


 唐突な確信を付く言葉に俺はむせ返りそうになった。


「私……気づいちゃったの」


 やっぱり気づかれてたのか! どうする俺。


 どうする? クロ、クロ教えてくれ!


 クロは無言を貫いて教えてくれず、少し苛立ってるのも分かる。


 手助けも無いままに俺は次の言葉を待つ。


「や、やっぱりなんでもない」


 え?


 ティアは頬を朱に染めて蕎麦をつづり始めた。


『バレてはないです』


 クロは不機嫌な雰囲気を纏わせて一言俺に教えてくれた。


 バレてはない、そして気づいた?


 何にティアは気づいたんだ?


 謎は深まるばかりだ。



 蕎麦も食べ終えて席を立つ。


「ルナちゃんお散歩しよ」


 ティアに連れられるまま外に出かける。


 学園内だが殺風景という訳ではなく、木々が至る所に植えられていて綺麗な花も沢山植えられている。


 お気に入りの散歩コースだとティアは言っていた。


「ルナちゃんってどこのクラスなの? 私毎日遊びに行くよ!」


 俺のどこを気に入ったのかずっとグイグイ来るティア。


 小さい頃のリリアを見てるようで微笑ましい。


 よしよしと反射的にティアの頭を撫でる。


「ルナちゃん、恥ずかしいよ」


 恥ずかしいと言いながらティアは嬉しそうな顔をする。


 可愛い。


 散歩コースをぐるりと一周した後、時間だと体育館に戻る事になった。



 体育館に戻る頃にはティアの密着具合が増していた。


「ティア、ルナさんにくっつきすぎでは?」


 ユリアと合流して気づいてない振りしていた事を指摘する。


「ルナちゃん、ダメかな?」


 上目遣いで可愛いティアに言われたら断れない。


「いいよ」


 俺は笑顔で答える。


「えへへ、やった」


「ルナさんがいいならいいのですが……ですがティアのこんな姿初めて見ました」


 わかるよ、俺も初めて見た。




 男の教師がわざとらしく大きな足音を立てて体育館に入ってくる。


 次はリリアじゃないのか。


 教師姿のリリアが見れない事に落胆する。



『今から学園祭の選抜をする。模擬戦争の戦犯はもちろん除外だがな!』



 は? コイツ何言ってんだ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る