何者



『まずは互いの力量を体感的に感じてください』


 俺は剣を握り直すとリリアが開始の合図を送る。


『始めてください』


 すぐさまティアとユリアが動いた。


 俺を守る為に。


 至る所から俺を目掛けて飛んでくる魔法を剣で撃ち落としていく。


 どこからか声がする。


『お前らがいるせいで!』


『消えろ!』


『なんでこの学園に居るんだよ!』


 俺は守られながら娘達に向けられる敵意を感じる。


 簡単なんだよな。


 そう、簡単なんだ。


 自分の浅はかさ、自分の醜さ、自分の愚かさ。


 全てを誰かにぶつければ、全て簡単に自分のせいじゃなくなる。


 自分を傷つけなくて良くなる。


 ティアとユリアは不完全に完璧だ。


 だからこそ格好の的なんだろう。


 最近の事でいえばメルカトラスは模擬戦争で優勝を逃し、親はリリアとユウカという憧れる存在だろう。俺が見ても天才な娘達だ……特待生枠も確実に二つの空きは来ない。


 俺がここに居なければ優しい娘達はコイツらのサンドバッグになっていたはずだ。


 魔法を纏って反撃などせずに耐えるだけなんだろう。


 それを耐えるだけの力はティアとユリアにある。


 だけどな……。



『ユウ様抑えてください、相手はまだ子供なので』


 クロの声で考える思考から復帰するとその場の全員が足を止めて震わせていた。


 何があった?


『殺気漏れてましたよ』


 ……あぁ、悪い。


 ティアとユリアが俺の方を向いて剣を向けている。


 ティアが口を開いた。


「ルナちゃん、何者?」


 俺はティアの目線を切って、近くに居た奴を一人斬り伏せる。


 ティアとユリアが笑顔なら俺が口を出すことはないと思ってたんだけどな。


 だが良い機会だ。


「お前らは才能も無いし、ティアとユリアを羨ましいと眺めることしか出来ねぇクズ共だ」


 まぁ、クズの気持ちは痛い程わかる。


「才能ない奴が天才を超えられないなんてリリアに教わったのか? 安全だと分かってる状態で攻撃してるんだろ?」


 お前らはティアの優しさを知ってるだろ。


 お前らはユリアの温かさを知ってるだろ。


「皆んなで組んで反撃なんて来ないのを知っていて……ティアとユリアがお前らに何をした? いつも笑顔で話しかけるティアと面倒みがいいユリア」


 勝手に決めつけて、勝手に憎んで。


「そんな二人は一度でもお前らを下に見たのか!」


 見るはずないだろ。ティアは良く話してる。


『今日一般の子達と仲良くなったの! お姉ちゃんがね……』


 嬉しそうに話すティアの顔がチラつく。


「お前らが努力しても手に入らない次元の力を羨ましがってるのは分かる。だがそんな事はどうでもいい、お前ら自体に興味はねぇしな」


 お前らが知らないティアとユリアを俺は知ってる。



『お前らはティアとユリアがお前ら以上に努力してる事を知らないだろうが!』



 俺の声を聞いてか、ティアとユリアへの殺気が消えていく。


 周りから口々に盛れる声。


『ごめん』


『ティアちゃんごめんね』


『ユリアさんごめんなさい』


 やっと分かってくれたのか。



『お前らが懺悔しようが関係ない、一人一人ぶっ殺してやる』



 殺気を纏い萎縮してる奴等に剣を向け。


『はい、そこまでです』


 パンっと手を叩くリリア。


 俺は舌打ちをして剣を空中に投げる。


 はぁ、良い所で止められてしまった。


 俺の近くへトコトコと走ってくるティア。


「ルナちゃん」


 俺はティアにバッと抱きしめられる。


 え?


「初めて会った筈なのにルナちゃんをずっと前から知ってるような気がしてたんだけど……ありがとう、嬉しかった」


 ユリアもティアの後ろから顔を出した。


「私からも礼を言わせて欲しい、ありがとう」


 またユリアの優しい笑顔を見れるとは! 俺が女だったら娘から抱きつかれたりするのか。


 涙でそう。


「ルナさんを見ていると私も前から知ってるように思います。ティアとも似てるような気が……もしかして学園のどこかで何度かすれ違ったりしてますか?」


 ボロが出そう。


「お姉ちゃん! ルナちゃんこんなに可愛いのにすれ違ってたら私がわかるもん」


「ティアはこの学園で話した事がない生徒は殆ど居なかったはずなので改めて学園の広さを感じますね」


 俺は考え込む二人から目を離しリリアに視線を送る。


「皆さん、集まってください」



 リリアの声で初期位置に戻ろうとすると生徒一人一人がティアとユリアに謝りながら戻っていく。


 初期位置に戻ってもティアが俺を離してくれない。


 俺、最近ずっと誰かにくっつかれてる気がする。


「ルナちゃんカッコイイし可愛いし、あの殺気も本当に怖かった」


 めっちゃ横で褒められてるんだが。


 キャッキャとはしゃぐティアに強く言えないのは小さい頃のリリアの面影がチラつくからか。


 可愛いしな!


「皆さん肌で各々の実力は分かったと思いますし、この授業で色々と思う事もあったと思います」


 リリアが話し出すと静かになるティア。


 本当にリリアが好きなんだろう。


「これから学園祭に向けての選抜をしますが、もう身体を動かす事は無いので学生服へ着替えてください。疲れたと思うので食事と休憩を挟んできてもいいですよ」


 解散してもいいと言うことなのでゾロゾロと体育館を出ていく生徒。




 俺ももう帰っても。


「待ってください」


 体育館を出ようとしてた所でリリアから声がかかる。


「ティアちゃん、そちらの方は?」


「ルナちゃんの事?」


「はい、ルナさんに少しお話があります」


 怒ってる? 何か圧が凄い。


「ティアちゃん、ルナさんを離してくれないですか?」


 ずっと引っ付いてるティアがコレで離れてくれたらその隙に俺は逃げる!


「ダメ!」


 ティアは離すことを拒否すると俺を引っ張ってリリアから逃げ出した。



 え? え? え?


 俺は訳が分からないまま更衣室まで連れ去られてしまった。


「ルナちゃん、早く着替えてご飯にしよっか」


「う、うん」


 ロッカーを開けて、ため息を吐く。


 俺……スカート穿くのか。


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