隠し事の疑問
国の中で精霊の力を使うとか信じられん!
『大丈夫ですよユウ様』
「何が大丈夫なんだ?」
「被害が出ないように私の力で抑えてるので」
娘達を見ると
なるほど、それなら安心だな。
「なわけあるか!」
俺への被害が全然軽減されてない。
俺の
本来の限定精霊化は精霊と自分の魔力を混ぜ合わせる力で、魔力がない俺とは違う。娘達は不完全ながらも完全な上位互換の能力を発動している。
妖精の鎧は炎を身体に纏い、自分の魔力の粒子が少しでもあるならそこに瞬間移動ができる。そして自分以外の魔力が炎に触れると消滅させる。
昔、炎の精霊神アカメに聞いた。
炎の奇跡を纏う力。
「アカメはユウ様の娘を凄く気に入っていたので親和性が高いのだと思います」
だから気持ちの昂りだけで簡単に発動してるのか。
「ユウ様がこれ以上怒らせるような事をしたら私では抑えきれなくなりますね」
ニコッと笑うアオイ。
「ちょっと待て、なんで笑顔なんだ?」
「ユウ様と一緒なんて久しぶりなので」
今そんな照れた顔しても駄目なんだよ!
一段と後ろから追ってくる娘達の怒気が膨れ上がるのを感じる。
チラッと後ろを振り向くと走っているユリアとティアが踏み出した足元がドロリと溶けだしていた。
「ユウ様、何故か軽減出来なくなってきました」
今のは俺でも分かるわ!
最近運動不足で走るのもキツイ。
「一週間眠らずに戦っていたユウ様が息切れとは珍しいですね」
「俺は一週間眠らずに戦った記憶なんかないんだが」
「忘れてるだけですよ、ユウ様は忘れっぽいですから」
剣の勇者様は凄いですね! 美化されてやがる。
俺の落胆とは裏腹に楽しそうなアオイ。
アオイが楽しそうにしてるだけで何故か後ろの娘達の怒気が上がっていくから今だけは大人しくして欲しい。
走っていると丁度良く見覚えのある後ろ姿がチラリと見えた。
俺はソイツに殺気を送る。
反応して剣を振りかぶる動作をしたソイツの剣を掻い潜ると目と目が合う。
『あとは任せた』
俺はソイツに任せて全力でその場を後にした。
『えっ!? ちょっとクレスさん!』
クレスに後を託されたジークは訳の分からないままにキンっと姉妹の剣と剣が重なる。
「ジークさんはパパの味方?」
ティアに言葉を投げかけられ。
「味方ですが」
ジークは無難に答える。
「じゃあ私達の敵ですね」
ユリアは冷めた声でジークに言い放つ。
「落ち着いてください。僕は敵でもないですよ」
ジークは剣を弾き返して剣を収める。
「何故クレスさんを追ってるんですか?」
ティアがジークの質問に答える。
「パパが逃げたから?」
あの人は、とため息を吐きながら腰に手を当てるジーク。
「それでは今使ってる異様な能力を解除して怒ってる理由を教えて下さい」
ジークに言われて初めて自分達が炎を纏っている事を確認すると。
「「なにコレ!」」
姉妹は驚き身体の至る所を眺め始めた。
「深呼吸して気持ちを抑えてください」
魔力コントロールを武器にしているジークは能力を見極めて抑える術を姉妹に教える。
姉妹は深呼吸しながら感情を抑えていくと、ふっと炎が消える。
炎が消えたと同時にジークは質問をする。
「怒っていた理由を教えて貰えますか?」
「パパがママ達を置いて精霊神さんとデートしてたから」
ティアが素直に答えるとユリアがグイッとジークに顔を近づける。
「浮気ですよ! ジークさんはどう思います?」
剣の勇者と精霊神の関係性は絵本にも出てくるほど有名だとジークは思ったが口ごもる。
クレスが剣の勇者だと言うのはリリアとユウカから口止めされていたからだ。
「ジークさん何か隠してる?」
ジークの顔を覗き込むユリア。
「顔が近いですよユリアちゃん」
ニコッと笑うジーク。
ハッと自分のしてる事を自覚したユリアは顔を紅くしながら距離を取る。
「クレスさんは昔に精霊神達に助けられた事があると言っていました。デートはその恩返しをしているのではないですかね」
ジークは嘘はついてないと自分に言い聞かせながら上手い言い訳を考えたと自賛する。
ティアが小首を傾げる。
「恩返し?」
「はい」
納得したような、しないようなスッキリしない顔をする姉妹。
「リリアさんとユウカさんはデートの事を知ってクレスさん達に怒っていましたか?」
姉妹はリリアとユウカを思い出すと止めるどころか好きな様にさせてあげてと頼んで来た程だ。
ジークの言葉に説得力が出てきて納得せざるおえない。
「全くクレスさんは……僕はもう行きますね」
ため息を吐いて一区切り着いたと思ったジークはここで姉妹と別れる事にした。
「なんで僕が……」
ジークと別れたティアとユリア。
「ねぇお姉ちゃん?」
「なに?」
深刻な顔をするティアはユリアに声をかける。
「パパの事どう思う?」
「落ち着いて考えてみたら可笑しいと思う」
「怒りに身を任せて精霊神さんの力を借りてたのに」
ティアとユリア、二人が思う共通する疑問。
精霊神が左腕にピタッとくっついていたのも知っている。
クレスは走りにくい状態で魔力も纏っていないのに。
『『追いつけなかった』』
疑問は解けないまま姉妹は家に向けて歩き出した。
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