計画



 ティアとユリアを撒いた俺。


 家に帰るとリリアが迎えてくれる。


『お帰りなさいお兄ちゃん』


 俺にベッタリとくっついているアオイを視界に入れようとしない。


『リリア、私も居ますよ』


「まだいたのですね」


「はい。デートに行ってきました」


 バチバチと火花を散らすように睨み合うのはやめて欲しい。


 リリアがその視線を切るとニコリと笑う。


「冗談ですよ。ご飯の準備をしているのでアオイちゃんもどうですか?」


 くっついていたアオイは俺からやっと離れる。


「いえ、もう帰ります」


 俺とアオイの周りを囲んでいた薄い膜が弾けるように無くなると空気に溶けるようにアオイは消えていった。



「お兄ちゃん最終試練について話があります」


 最終試練。


 俺も気になっていた所だ。



 場所を玄関から移して俺は食事が並ぶ机の前に座る。


「で? どこでやるんだ?」


 ユウカも席についているがリリアが説明するらしい。


「アリアスちゃんに仮想空間を作ってもらって、そこでお兄ちゃんと戦ってもらうことにします」


「俺が結婚前に散々呼ばれた空間か」


『キュイ!』


 飛んで来たアリアスも机の上に着地する。


 あの魔法は国のどこに居ても空間に引き込まれるから休める時間は全然なかったな。


「でもティアちゃんとユリアちゃんを急に仮想空間に放り込むと不安定な戦いではお兄ちゃんが勝ってしまうと思うの」


 まだ精神的に弱いティアとユリアが準備も無しに俺と戦うのは早いという事か。


「なのでお兄ちゃんが学園に攻め込んで二人を仮想空間に引き連れて行ってください」


「え?」


 そんなおおごとにしていいのか? ティアとユリアに信じ込ませるようにユウカとリリアが二人で色々と駆け回ったのは知っているし、大事にならないように配慮してたのも知ってる。


「その日は学園祭ですし、その内容を生中継で放送してイベントにします」


「正体がバレたらどうするんだ?」


 俺はバレても別に問題はないと思うがリリアとユウカはそれを隠してきた。


「仮面が壊れた場合はお兄ちゃんの負けです。その瞬間に転移されてイベントは大成功です」


 なら問題はないのか。


「この話はもう終わりですね」


 リリアが席を立つと玄関に向かって行ってしまった。



 帰ってくると後ろから俺を睨みつける視線が二つ。


 ティアとユリアだ。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 ユリアが俺を睨みつけながら口を開く。


「デートしてたのは精霊神さん達に恩返ししてたからなの?」


 恩返し? 確かにいつも見守ってくれてるお礼のつもりだが。


 ティアとユリアは小さい時から過保護とも思える程に精霊神は魔法で二人を守っていた。


 転けそうになれば風が身体を押し戻し、雨が降れば雨が二人を避け、日差しが強ければ弱くなる。


 砂場で何かを作れば何週間も壊れる事は無かった。


 小さい頃から精霊神の加護を受けていたからこその親和性の高さなのかもしれない。


 恩返しと言えば恩返しなのか?


「まぁそうだな」


「そう」


 素っ気ない返事と共に席に着いたユリア。


 ティアはずっと俺を睨んでいる。


 あの可愛くて素直なティアからも嫌われたのか!


 俺は顔に出さないように必死で落ち込んだ素振りは見せない。


 ちょんちょんと俺の膝をユウカは指で触る。


「クレス君わかり易すぎ」

 

 ボソッと俺の耳元で囁かれた。


 そんなにわかりやすいのか。



 パンっと手を叩くリリア。


「じゃあ、みんな揃ったからご飯にしようか」


 俺に素っ気ないユリアはいつもの事だが。


 ティアにまで睨まらながら食事……。


 俺はどうすればいいんだ。


 ご飯を口に運ぶ。


 美味い!


 何か挽回しなければならない。


 パパ大好きって言われたい。


「こほん、勉強はしてるか?」


 俺が食事中におかわり以外の言葉を口にするのが珍しいのか目をぱちくりとしながら全員が俺を見る。


 直ぐに平静を取り戻したユリア。


「今は自分の魔力で何が出来るかの応用の勉強をしています。私の知らない力の使い方が沢山出てくるので凄く面白いですね」


 ユリアは業務的な報告をしてくるな。


「ティアはどうだ?」


「お姉ちゃんと一緒だよ」


 素っ気ない返事。


 パパ、パパと聞いてもないのにその日の事を話してくれるティアはもう居ないのか。


 俺は諦めない。


「学園祭は何をやるんだ?」


「まだ決まってない」


 ユリアは返事を返すとスっと席を立つ。


 ご飯を食べ終えて自分の部屋に帰ろうとしている。


 それにティアも着いていく。


「パパも学園祭行くからな!」


「来なくていいよ」


 ティアが去り際に言葉を置いてドアを閉めた。



「なんで俺あんな嫌われてんの?」


 ユウカが口を開く。


「浮気に凄く怒ってるんじゃないかな」


 精霊神と俺が二人で居たから怒ってるのか?


「俺と精霊神の説明はしたのか?」


「剣の勇者って事を説明するのかい?」


「娘達には本当の事を話しても……」


「それは僕の顔に免じて待ってくれないかな」


 それはズルいだろ。


「娘達に嫌われるのは嫌だが、ユウカが言うならそうなんだろ」


 ユウカには何が見えてるのか分からないが、それなりの舞台があるということなんだろうか。


 まぁいいか。


 学園祭楽しみだな。


 その頃にはパパ大好きって言われるように計画を建てなければで。


 何をしたらいいんだ?


 俺の中で全然答えが出なかった。


 ご飯を食べる。


 美味い!


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