逃走
アオイと散歩をしながら色々な所を見て回る。
ソファーで寝てる間に世界は凄く変わっていて見るもの全てが新鮮だ。
至る所に高度な魔術式が組み込まれている。
どれもが戦闘に関係ない生活を豊かにするだけの魔法。
これをリリアやユウカが考えたと思うと誇らしくもなる。
国は穏やかな物だ。
試練なんてティアとユリアに限定して見せてた物だしな。
信じ込ませる為にあれだけ派手に宣伝したからか、見えてた奴等も居たみたいだが、挑んでも勝てない事は明白だろう。
見える奴には急に現れた柱は違和感でしかないしな。
まぁ、それも終わる。
試練を全部クリアして精霊神達に認めてもらう。
そして俺と戦うまでに大掛かりすぎな気もするが、確かに娘達は強くなった。
最終決戦の舞台、俺はどこで戦うのかも
ため息を吐くと腕が少し強い力で圧迫される。
「ため息なんか吐いてどうしました? 私とのデートはつまらないですか?」
「悪い、考え事してただけだ」
絡ませている腕の力がふわっと抜けていく。
デートに誘ったのに気を使わせてしまったみたいだ。
「何か食べるか?」
「いいえ、このまま歩きましょう。二人の時間はもうそろそろ終わりそうなので一時でも長く、この時間を楽しみたいです」
「そうか」
アオイは散歩に満足してるようで、ゆっくりと国の中を散歩していく。
アオイとクレスの後を追うようにこっそりと後を着けるのはユリアとティア。
ユリアは物陰に隠れながら呟く。
『やっと見つけた』
神殿を出てフィーリオンに着いたユリアとティアはクレスを探す為に手当り次第に国中を走り回った。
リリアとユウカとの戦闘で研ぎ澄まされた感覚は今だに冷めず、魔力無しのクレスを探すのにも時間はかからなかったが。
『お姉ちゃん……あの女の人、精霊神の人?』
ティアはアオイとクレスの関係性が分からなかった。
「間違いなく精霊神よ」
アオイは自身の魔力を隠すように透明な膜状の魔法を纏っているが、ティアのように神殿で見て知っているユリアも間違えないと言葉する。
浮気をしたクレスに怒っていた二人は問い詰めようとしていたが、予想外の相手にどう反応していいのか分からずに後を着けるだけにとどめていた。
二人で腕を組んで歩いている姿は親密な仲だと見ただけで分かる。
いっとき後をつけたティアとユリアは痺れを切らして物陰から出た。
『ダメよ』
その瞬間に二人の肩にスっと手を置かれて物陰に引き戻される。
二人が同時に振り返るとリリアが肩に手を置いていた。
「なんでダメなの?」
ティアがリリアに聞くとリリアは少し考え込む。
困ったような笑顔になって。
「今はアオイちゃんとパパの好きにさせてあげて」
リリアの答えにティアは不思議そうに顔を傾ける。
ユリアはリリアに食い下がる、クレスを指さして。
「あの人浮気したんだよ」
「私はアオイちゃんとならデートしても良いと思ってるよ」
ユリアはリリアの言ってる事が少しも理解が出来なかった。
リリアの手を振りほどいて物陰から勢い良く出て行くユリア。
『パパ!』
クレスはユリアの大声に振り向く。
『その女の人とはどういう関係よ!』
ユリアを視界に捉えたクレスはすぐさまアオイを連れて逃げる。
「えっ!? 待ってよ!」
クレスが逃げる事を予想してなかったユリアだが、すぐに後を追う。
「ティア行くよ!」
ユリアに声を掛けられたティアはリリアに申し訳なさそうにしながら手を振りほどいてユリアを追った。
リリアの後ろからひょこっと顔を出すユウカ。
「止められなかったね」
「あの娘達もパパが好きだから」
「僕達が裏切られたと思っちゃったのかな?」
精霊神達とクレスの関係を知らないユリアとティアからしたらそう思っても可笑しくはないとリリアとユウカは結論付ける。
「少し良い気味だと思うけどね」
「私もたまにはこういうのもありだと思うかな」
走っていく後ろ姿を見送ってユウカとリリアは家に向かって足を進めた。
なんで追ってくんの? え?
俺は今アオイを連れて娘達から逃げている。
「アオイ、ちょっと腕組むのやめてくれたら助かるんだが」
「嫌です」
良い笑顔で即答されてしまった。
アオイは浮いていて俺みたいに走ってる訳じゃない。
「ユウ様、何故逃げるのですか?」
マジで俺はなんで逃げてんだろう。
「この状況を娘達にどう説明していいか分からない」
「私達のラブラブっぷりを見せつけてあげましょう」
「それは娘達に嫌われないか?」
「分かりませんが後ろを見てください」
アオイの言葉を聞いて後ろを振り向くとオーラルを纏って本気で追ってくるティアとユリア。
殺気が俺を貫くのが分かる。
『流石にこれ以上嫌われる事はないかと予想されます』
マジかよ!
俺はこの状況でふと思い出した事がある。
「アオイは試練クリアの報酬渡したのか?」
「はい、リリアとユウカから試練完了と同時に精霊神の加護を与える契約を結んでいたので渡してるはずです」
全属性の精霊神の加護を受けた人物が二人。
そして明確な殺意。
俺は嫌な予感がしてその場で大きくジャンプした。
通り過ぎたのは白銀のオーラルとは別に大きく燃え盛る炎を纏う姉妹。
『『
待て待て待て待て。
「あれ無意識で使ってないか!?」
「はい。私達はまだ力の使い方を教えてはいません」
どんだけ怒ってんだよ。
「どうやったら許して貰えると思う?」
「二人の全力でも試しに受けてみたらどうですか? 気が晴れるかもしれないですね」
ティアとユリアの全力を? 死ぬ。
「それ以外は?」
『分からないです』
俺は地面に着地すると全速力で駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます