パパはいらない


 

 ザッザッと草原を踏みしめる。


 その音は段々と早く刻まれていく。


 足速に草原を抜けると目につくのは青色の光る柱が空にのぼっていく光景とその下に存在する神殿。



 ティアとユリアの姉妹は神殿の前まで来ると息を整える。


『ここで最後だね』


 ティアがユリアに声を掛ける。


 その声にユリアは頷くとティアとユリアは扉に手をかける。


 二人が力を込めるとスっと扉は抵抗も無く開いた。



 神殿の中ではザーザーと降り注ぐ雨が視界を遮る。


 その雨が割れるように広がると目の前に青の髪の女性が。


『私は水の精霊神アオイです』


 綺麗な声は降り注ぐ雨の中でも際立って聴こえる。


 その隣には青白い仮面を付けた魔人。


 魔人は姉妹に試練の内容を説明する。


『この雨の弾幕を潜って私達の所まで来てください。それが試練の内容です』


 簡単ですよね? と挑発的な言葉を言ってのける魔人。



 アオイが雨に手をかざし魔力を流すと雨の音が変わる。


 先程までの雨がただの雨だった事を思わせる。


 一粒一粒が地面に触れる度に爆音が鳴り響く。


「これを潜って?」


 ユリアの声に聞く耳を持たずにアオイは開始の合図を出す。



『試練を始めましょう』



 割れていた雨はその声と共にアオイと姉妹との空いている空間を閉じる。



 姉妹は剣を抜くと最大に魔力を高めていく。


 一粒でも触れたらタダでは済まない雨の弾幕。


 だが今までの試練をクリアして来た姉妹には意思がない雨の攻撃など生温い物はない。


「行くよティア」


「うん」


 息を揃えて地面を蹴り、加速していく。


 雨の中に侵入する瞬間に鞘から剣を引き抜くと目の前に迫る雨の一粒一粒を斬る。


 息をつく暇もなく雨は縦横無尽に姉妹に迫る。


 剣で斬った雫すらも濃密な魔力が込められている。


 だけど止まらない。


 姉妹は同時にお互いを庇いながら進める足を止めない。



 何時の間にかスっと雨が晴れる。


 一瞬で雨の中を突き進みクリアした姉妹にアオイは驚きの声を上げる。



『凄いですね』



 アオイは賞賛と共に拍手を贈る。


「それでは試練は合格……」


 アオイが認めるとユリアは声を張り上げる。


「ちょっと待って! 私達はリリアママとも戦ってみたい」


 ユリアとティアは青白い仮面を付けた人物に剣を向ける。


「なんで私なのかな?」


 ため息を吐いて観念したと仮面を外すリリア。


「リリアママに強くなった私達を見せたいの」


 ダメ? と上目遣いで見上げるティア。


 リリアはティアの願いに応えるように左手を前にだす。


『天空の光よ、私に力を貸して』


 白銀の光がリリアの手の中で剣を形作る。


 透き通る透明な剣を姉妹に向ける。


 リリアの隣に魔法陣が展開されるとふわっとその中から現れたのは。



『それなら僕も必要だよね?』



 ユウカが魔法陣から現れた。


「ユウカちゃんはもう試練終わったよね?」


「僕だけだよ? 正体ばらさずにちゃんと試練したの」


 不公正だと言うとユウカはティアに抱きつく。


「まっ、僕はティアちゃんを貰うよ」


「じゃあ私はユリアちゃんを貰います」


 ユウカはティアから離れ鞘から剣を抜くとリリアと同じように姉妹に剣を向ける。


『『ママ達に力を見せてくれるんだよね?』』



 無邪気に力を高めていく姉妹に嬉しく思うリリアとユウカ。


 リリア、ユウカ、ユリア、ティア。


 四人を囲むように雨が降る。


 邪魔する者は誰も居ない。


 それを静かに見守るのは。





『なんで水の精霊神がここにいんの?』


『あそこに私の居場所があると思いますか?』


 クレスはソファーに座りながらアオイと一緒に試練を見ていた。


「どうですか? ティアとユリアの成長を見るのは」


「そうだな。娘達の成長はさすがユウカとリリアの子だなって思うよ」


 ふふっとアオイが笑う。


「あの成長速度はユウ様譲りですよ」


「そうか?」


 ボケっとした返事を返すクレスはソファーから立ち上がる。


「どうかしました?」


「なぁアオイ、デートにでも行くか」


「最後まで見ていかないんですか?」


 疑問を浮かべるアオイにクレスは頬をかく。


「それは楽しみに取っておくよ」


「そうですか。私はユウ様とデート嬉しいですけどね! 精霊界に返ったら皆んなに自慢します」


「二人だけの秘密にしないか?」


 悪戯に微笑むアオイ。


「他の精霊神達に押しかけられちゃいますからね」


 アオイは自分とクレスに魔力の膜を張る。


「これでこのデートは私達の秘密です」


「行きたい所あるか?」


「そうですね。散歩でもしましょう」


 プツッと試練の映像を切り、アオイはクレスの腕に自分の腕を絡ませる。


「それでいいのか?」


「はい。それがいいんです」


 クレスとアオイは二人で散歩に出かけた。





 ティアと剣を交えるユウカは直感でクレスの異変を感じ取る。


『今クレス君、デートしてるよ!』


 それを聞いたリリアはユリアと剣を交えながら辺りを見渡すとアオイが居ないことを確認する。


((アオイちゃんが抜け駆けした))


 すぐさまクレスのデート相手まで察したユウカとリリア。



 スっと姉妹は剣を引く。


「どうしたの?」


 その行動に疑問を覚えたリリアは姉妹に問いかける。


 ティアはその問いに応える。


「私達の力はもう見せれたかなって」


「うん。ユリアちゃんもティアちゃんも凄く強くなってママ達も嬉しいよ」


 ユリアは殺意を持ちながら冷ややかな声を出す。


「私達の素敵なママ達を放って置いてデートしてるパパはいらないよね?」


 ティアもユリアと同じ考えなのか神殿の扉に向かって走る。


 ユリアもティアを追いかけてすぐさま神殿から出ていった。



 残されたリリアとユウカ。


 ユウカは開いたままの扉から遠ざかっていく姉妹を見つめて呟く。


『ちょっとヤバいかもね』


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