最初から持っている強さ
「これで君達も魔力無しの仲間入りですね」
魔力が纏えない事に驚きを見せるティアとユリア。
魔力無しと言われる者が精霊化を発動させる事は予想も出来なかったことでしかない。
ジークと剣を打ち合わせる度に分かるのは剣の違い。
ユリアとティアはまるで空気を相手にしてるような違和感が付き纏う。
打ち合ってる筈なのに手応えがまるでなく、剣に纏っていた魔力は何時の間にかジークの剣に還元されているのだ。
そして姉妹にとって唯一上回っていた魔力を制限する空間。
姉妹は初めての感覚に戸惑い、この小さな魔力で剣聖になったジークがどれ程凄いのかをこの身を持って思い知らされる。
「この精霊化の能力、初めて実戦で使いましたけどこんなに使えるなんて思いませんでした」
ジークはクレスとの打ち合いで使ってもあまり意味はなかったからだ。
冗談で口にしたジークの言葉に姉妹は息を呑む。
何度も魔力を纏うように魔力を流す。
だがそれは姉妹には叶わない。
ジークの纏っている魔力は本当にちっぽけで。
なのに鋭利の刃物のように姉妹に圧をかける。
「ジークさんは凄いね! でも!」
ティアがユリアの一歩前に出る。
静かに魔力を加速させているジークとは明らかに違う。
荒々しく魔力を加速させていくティア。
「この空間に対応しますか。本当に流石ですよ」
魔力が制限されているだけで身体の中の魔力量は変わっていない。
ティアは魔力量のアドバンテージを使って無理矢理ジークが使っている魔力加速を擬似的に再現している。
進化していくティアを見ていたユリアも進化しないわけがない。
ユリアが纏う雰囲気がガラリと変わる。
『なぁ、ジーク。こんなんで私に勝てると思ってんの?』
ジークはユリアの雰囲気にクレスを重ねる。
「制限した空間が君達に新たな可能性を与えてしまったのかも知れませんね」
ジークはため息を吐いて、一層気を引き締める。
ユリアの姿が消えると何時の間にかジークとの距離を詰めたユリアが鋭く研ぎ澄まさせた剣を出す。
フッとジークは笑みを零すとその剣を軽くそらす。
「その人の力はそんなもんじゃないですよ」
息を整える暇もなくティアの剣がジークに迫る。
ティアの剣も軽くそらす。
「僕の力を使うなら指先や髪に至るまでの身体の全てを具体的にイメージしてください」
ジークはここまで来て分かったことがある。
ブレスレットに灯る四つの光の意味、何故この姉妹にクレスを超える未来を見たのか。
(君達の可能性は僕には眩しい程……羨ましいよ)
打ち合う度にジークは指摘を加える。
一つ一つ加速していく剣劇。
瞬きをするだけで終わってしまいそうな一瞬を引き伸ばしたような空間。
その時間に一区切り付けるようにジークは姉妹の剣を大きくそらして、姉妹に隙が生まれた。
『この一撃で、どちらか一人を確実に殺します』
ジークが一言姉妹に告げるとパリンと砕け散る魔法空間。
今まで制限されていた魔力が一身に姉妹を襲い、急な出来事に上手く魔力を纏えなくなる。
姉妹が咄嗟に思った事は一緒だった。
濃密な殺気を放ったジークの剣は鋭く姉妹に向かう。
『お姉ちゃん!』
『ティア!』
キキンと重なり弾き合う音が鳴る。
ティアはユリアの盾になるように剣を出し、ユリアもティアの盾になるように剣を出していた。
姉妹二人の剣が宙に舞う。
『僕は詰めを焦りすぎたかもしれません』
魔力切れで膝をつくジークの姿がそこにはあった。
ユイに肩を預け立ち上がるジークは姉妹に告げる。
「君達は合格ですよ」
ティアとユリアのブレスレットに黄色の光が灯る。
試練も終わり崩壊していく神殿。
「ジークさん? ところでずっと後ろにいた女の魔人さんは誰なの?」
ティアがジークに尋ねると剣を回収し終えたユリアがスっとティアの手を引く。
「早く行くよ、ティア」
「えっ、なんで! お姉ちゃんは気にならないの?」
「誰ってあれだけジークさんが大切に守ってたんだから……」
ユリアはティアに耳打ちする。
「あっ! ユイさんか!」
「ちょっ! ティア言ったらダメだよ、早く行こ」
スタスタとはしゃぐティアを連れてユリアは神殿から出ていった。
残された二人は。
「バレてたみたいですね」
バッとその場でうずくまるユイ。
「何処からバレてたのよ!」
ジークはユイの仮面を取り上げる。
「これはもう必要ないですね」
ユイは後ろで見ていて疑問に思ったことを聞いてみた。
「なんで二人は合格出来たの? もしかして最後は手加減?」
まさか。と笑って言うジーク。
「二人はもう最初から僕の強さを持っていたので合格にしたんですよ」
「強さ?」
『大切を守る強さです』
ユイは最後の光景を思い出す。
殺すと呟いたジークに対応が出来なかった姉妹は自分の命よりも相方の命を助ける事を優先した。
そしてジークは最後の一太刀、わざと姉妹が持つ剣にジークの魔力をぶつけた。
「今日は疲れましたね」
「そ、そうだよね」
ジークの戦闘をまじかで見ていたユイは今日はこれ以上私情でジークを振り回せないなと思った。
転移の光に包まれる二人。
ジークはスっとユイの手を取る。
『一段落しましたし、デートの続きをやりましょうか』
ジークの提案に驚きを隠せないユイ。
「えっ!」
「ダメですかね?」
「いや……お願いします」
プシューと音がなりそうな程に顔を火照らせて、ユイはコクリと頭を下げる。
「それなら良かったです」
ジークの笑顔を見たユイは満足気に口を出す。
「もうお腹いっぱいだよ!」
「美味しいお店があるんですが」
「それは行きたいです」
フフっと笑うジークにムスッとするユイ。
「もうからかわないでよ」
「いえ、こんな人が僕の隣にずっと居てくれたならと思っただけです」
ゴクリと息を呑むユイ。
「それ……からかってる?」
不意にユイの唇に熱く柔らかな感触が伝う。
ユイは何が起きたのか理解が追いつかない。
「ユイさんからの告白に対してのこれが僕なりの答えですよ」
ドキドキとユイの心臓が跳ねる。
それをやっとの事で自覚すると。
『ユイさん、僕と正式にお付き合いをお願いします』
『はい』
二人は転移の光に包まれた。
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