無理



 ティアちゃんとユリアちゃん。


 この子達の事は良く知っている。


 クレスさんを倒す為に自分の強さを教えてくださいとリリアさんから直接依頼を受けて面白いと思えてしまうほど才能に恵まれている子達だ。


 クレスさんは僕の目標でもある。


 僕以外に超えられて欲しくないと思うが、それはこの依頼を受けた人達全員が思う事だと思う。


 だからこそ生半可な気持ちでは合格なんてさせたくない。


 ティアちゃんとユリアちゃんの持つブレスレットにともる光りが四つ。


 それだけでこの子達が短期間に誰かに認められ、どれほど強くなってきたのかが分かる。


 僕のような想いを持つ者がどれだけこの子達にその想いを託したのか。



 僕は後ろに居るユイさんにチラリと視線を移す。


 ユイさんは僕と視線が合うとごめんなさいと呟く、着いてきたことを悪く思っているのだろう。


 視線を戻すと目の前には強敵、後ろには守りたい人がいる。



 深呼吸をして魔力を巡らせていく。


 速く、速く、速く。


 そしてそれが薄く引き伸ばされる様な感覚で身体を覆っていく。


 僕の持っている属性は何だったか? それすらももう忘れた。


 元の色は赤く濃い色で塗りつぶされる。


魔力加速アクセラレーション


 集中を少しでも切らせばこの技は発動自体出来ない。


 この子達を相手にするならもっと深く。




 バシッと不意に頭を叩かれる。


『それじゃダメだ』


 あれ? クレスさん?


 そこにはクレスさんの姿があった。


 ここは? 周りは神殿の中ではないようだ。


 そして声も出ない。


「痛いですよ、何するんですか!」


 僕の意識はハッキリしてる、だが声は出せない。



『お前……人を守る気があるのか?』



 えっ? クレスさんが僕の後ろに指を向けると僕の身体は自然と後ろを見る。



 そこではクレスさんと打ち合って出来たのか無数の穴があった。



『深く集中するのは別に良いが、守りながら戦う時はその存在も視野に入れないといけない』


 また僕の口から自然と零れる。


「でもクレスさんが相手なので仕方ないと思うのですが」


『今からお前がやる事は全部の攻撃を後ろに通してはダメだ』


 あぁ、これは昔の僕だ。


 懐かしさと一緒に昔の僕が思った事が今の僕と重なる。


「『そんなの無理じゃないですか!』」


『俺がその方法を教えてやる』


 クレスさんはこの時、笑ってこう言ったんだ。



『お前がやろうとしてるのはその無理だ』



 なんで忘れてたんだろう。


 あれからクレスさんに教わった事なんて数少ない……。


 でも確かに全てが忘れてはダメな事だ。




 目を開けるとティアちゃんとユリアちゃんの姿。


 そして後ろを見る。


『ジーク君、さっきまで少し怖かった』


 ビクと肩を揺らしたユイさんが声をかけてくる。


「大丈夫です。少し昔を思い出してただけなので」


 僕を初めて見捨てなかった人はこんな時まで僕がブレないように見守ってくれている。


 やっぱりクレスさんは僕の憧れですね。


「えっとユイさん。僕に身体を預けてくれませんか?」


「え?」


 少し戸惑った感じのユイさんはコクリと頷いた。


「今纏ってるオーラルを解いて何があっても魔力を使わないでください」


「それだけでいいの?」


 この行為を魔法を使う者ならそれだけと普通は返せない。


「はい。何があってもです」


 ユイさんが魔力を解くと、一身に受けるティアちゃんとユリアちゃんの強大な魔力。


 膝が震えてるのが分かる。


「ジーク君はいつもこんな中で誰かを守る為に戦ってるんだよね」


 何かを決意したのかユイさんは力強い目で僕を見ると膝の震えが止まっていた。


「守ってくれるんだよね」



『任せてください』



 ユイさんを身体の一部と意識して魔力を巡らせていくとユイさんの身体も赤い魔力が走る。


「暖かい」


 ユイさんの小さく漏らした声も聴き逃す事は無い。


 魔力無しの人は魔術師と比べる事も出来ないぐらい魔力感知が出来ない。


 クレスさんはなんで平然とやってるのですかね。


 俺は集中すると魔力が見えるんだ! とか、魔力も無いのにどれだけの濃い魔力を浴びせ続けられたのか想像するのも怖い。



 集中を高めていたティアちゃんとユリアちゃんが一斉に距離を詰めてきた。


 僕も向かい打つ。


 一瞬を引き伸ばした空間で二人の剣をそらす。


 一度でもまともに剣を合わせれば僕は魔力切れになって戦うことが出来なくなる。


 そらした魔力を全て加速させながら返す。


 削ぎ落とした魔力は全て僕の力に還元され、打ち合う度に強大な魔力が僕の剣に乗る。


 二人の剣は無尽蔵に魔力を消費して行くがそれでも退かないのは勝つ自身があるからか。


 僕が二人と打ち合う度にユイさんはビクビクと肩を揺らす。


 生身でこんな戦闘を見守る気持ちは痛い程分かるが、それでも反射的に魔力が出ないように抑えてくれているユイさん。


 本当に僕を信じてくれているのが分かる。


 だから僕も安心させれるぐらい強くなる必要がある。



『君達の力、少し借りるよ』



 打ち合って削った魔力を全て、自分の魔力に還元する。


 これはクレスさんから教えて貰ったけどクレスさんでも出来ないらしい限定的な剣技。


 感受性が凄く強くないと出来ない力だと言っていた。



精霊化オーラルフォーゼ



 僕の瞳は精霊化しても変わらない。


 他人の魔力を使って無理矢理に精霊化してるんだから道理だと思う。


 貰った魔力を全て使って僕は一つの能力を発動する。


 その瞬間に精霊化は切れる。


魔力空間スタンダードフィールド


 この空間内は僕の最大値の魔力量しか使えない。


 魔力加速を使ってる僕と魔力を自由に纏えなくなった二人。



『これで君達も魔力無しの仲間入りですね』


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