大切を守る力



 森の中で唐突に現れた光が爆発する。


 その光が収まると二つの影が現れた。


『お姉ちゃん! 絵本の人達に会っちゃった! 夢じゃないよね?』


 興奮してるティアがピョンピョンと飛び跳ねてユリアに聞き迫る。


『邪神フィリア様と過ちの英雄アリアス様』


「剣の勇者様を召喚した事が過ちなんて皆んな酷いよ。アリアス様は私の憧れてる人の一人なんだよ」


 ムスッと頬を膨らませるティア。


「なんでティアはアリアス様に憧れてるの?」


「絵本で出てくるアリアス様は優しくて、強くて、綺麗で、絶対に剣の勇者様を見捨てない、追いつけない存在をいつまでも追い続けてるの……それは誰でも出来ることじゃないもん」


 ティアはブレスレットを覗くと赤く灯ってる光を見る。


「これが夢じゃないって証拠になるよね」


 誇らしげにブレスレットを着けている左腕を上げる。


 光が灯っていない窪みは二つ。


「あと二つだね」


 それを合図にティアとユリアは走り出した。






 フィーリオンで一仕事終えたジークは仮面を取り出す。

 


『ジーク君!』



 赤く長い髪の女性がジークの前に現れた。


「なんですか?」


 サッと仮面を隠してジークは赤髪の女性に用件を尋ねる。


「いや、あのえっと」


 モジモジとする女性に対してジークはいつ召喚されるか気が気ではない。


「あの用がないなら僕はこれで」


「待って! 買い物! そう、買い物に付き合ってよ」


「えっ? 買い物? ユイさん一人でも行けますよね?」


 ユイと呼ばれた女性はそれでもジークに食らいつく。



『あぁ、もう見てらんない』


 すっと紫の髪の女性がジークとユイの間に入る。


「デートよ、デート! ユイはジーク君をデートに誘いたいのよ」


「レイナさん、また僕をからかっているんですか?」


「お、お、ま、じ、よ!」


 レイナの言葉にジークはユイを見るとユイはプシューと沸騰するように顔が赤くなっていた。



「はぁ、どこに行きたいんですか?」


 ため息を吐きながらジークはユイに尋ねる。


「え?」


「買い物に行くんでしょ?」


 ポカンとしていたユイはその言葉で我に返るとあたふたと行きたい場所を見繕う。



 ニマニマと笑うレイナの顔はジークの癇に障る。


「ところでレイナさん、ナイルとご結婚されるそうですね? 式場はどこでやるんでしょうか?」


「まだ結婚の約束はしてないわよ!」


「まだ。ですか、それでは時期に良い知らせを期待しています」


 ユイのように赤くなったレイナは覚えてなさいよと捨て台詞を残して去っていった。




「さて、僕達も行きますか」


「はい」


 ジークとユイは並んで歩く。


「今日、勇気出して良かった。いつぶりだろうね? 二人で歩くのなんて」


「そこまで畏まらなくても幼なじみなんですから気楽に誘ってくれればいいんですよ」


「でも近寄り難いって言うのかな? 何時の間にかジーク君、剣聖にまでなっちゃうんだもん」


 少し誇らしげに話すユイ。


「魔力無しと馬鹿にしてた頃が懐かしいですか?」


「もう! それはずっと昔に謝ったよね!」


「いえ、それでも僕は忘れませんよ」


「そ、そうだよね、本当にごめんなさい」


 フフっとジークは軽く笑う。


「何が可笑しいの?」


「ナイル、レイナさん、そしてユイさんが居なかったら、今の僕はいないんですよ。感謝してます」


「馬鹿にされたから剣聖になるまで頑張ったの?」


 立ち止まるジークはユイを見る。


 ユイもそれに釣られて立ち止まるとジークを見上げる。



『守りたい大切な人達が傍に居てくれたからです』



 ぼふっとユイの顔が赤くなる。


「もう! ジーク君まで私をからかうの?」


「そうですね。ユイさんはレイナさんにいつもからかわれてましたね」


「そうだよ。レイナちゃんで私はお腹いっぱいだよ」


「メルカトラス学園に居た時が懐かしいです」


「私はずっと変わらないと思ってたんだ。勇気を出さないとジーク君に会えないぐらい何もかも変わっちゃった」


「さっきも言いましたが幼なじみなんですから」


 ユイはジークの声を遮る。



『私は幼なじみじゃなくてジーク君とそれ以上になりたいの!』



 ユイの告白にポカンとするジーク。


 その直後、ジークの真下に魔法陣が現れる。


 近くに居たユイも転移の光に包まれた。


「ユイさんこれ付けて!」


 対応が遅れたジークは仮面をユイに付けるとその場から消えた。





 綺麗な花が咲き乱れた神殿にユイとジークは転移する。


 ユイがキョロキョロと辺りを見回す。


「ここどこ?」


 ため息を零すジークは神殿への侵入者に目を向ける。


 ティアとユリアの二人が扉を開けて入ってきた。



『ジークさん何でここに!』



 ユリアが驚きと共に声を出す。


 ジークは仮面を着けてるユイに目配せをして小さく声をかける。


『合わせて』


 ユイはコクリと頷いた。




「僕は魔人として君達を試さなくてはならない」



 ユリアとティアに向かってジークは言い放つと。


 仮面を付けているユイは混乱する中で声を絞り出す。



『い、生きて帰れると思うな!』



 これでいいの? とジークの顔を見るユイ。


 ジークはそれにニコリと微笑んで返した。


『試練は仮面の魔人に触れたら合格だよ』


 ジークの声に反応してティアとユリアは魔力を高めていく。



「ティア! ジークさんが相手だから最初から本気で!」


「うん」



 ジークはユイを背に剣を握る。



「ジーク君ごめんね。この子達、凄く強いって分かる……足でまといだよね」


 ユイはやっとジークがソワソワしてた理由を知り、無理な用事を押し付けたことを後悔する。


「あの子達を相手にユイさんが居てくれるのは本当に心強いです」


 だってとジークは続ける。


「僕の剣は大切な人が近くにいるほど強くなるんですから」


 ユイは昔似たような光景を思い出して胸が熱くなるのを実感する。


「私を守りながら戦うの?」



『はい。その為の力です』



 力強く言い放つジークの後ろ姿を惚けて見つめるユイはこれが終わったらと決意を固める。


 状況に流れてしまった告白をやり直すと。


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