共鳴



 姉妹の目に映るのは赤い光の柱。


 火の神殿の門を開けると広がるのは大きな円状のステージ。


 その周りを囲むように炎が舞う。


『やっと来た!』


 そこにはキャッキャッとはしゃいでいる火の精霊神アカメの姿があった。


 そしてその隣に光を纏う人物と闇を纏う人物。


『まさか貴方と共闘する日が来ようとは思わなかったですねフィリアさん』


『我もじゃ、剣の勇者を召喚した魔術師と肩を並べるなど丸くなったもんじゃな』


 それは歴史に名を残す程の人物達。


 フィリアとアリアス。


 邪神と最高位の魔術師。


 圧倒的な存在感にゴクリと姉妹は息を呑む。


『何故アリアス様がこの時代に!?』


 ティアはアリアスに疑問を投げる。


 フィリアがその疑問に口をひらく。


『そんな些細な事はどうでもいいと思うがな、強くなりたいんじゃないのか?』



 ユリアは今まで試練で戦った人物とは魔力の重みが違う感じがした。


 姉妹は剣を鞘から引き抜く。


 そして眼の色を変える。


 最初から本気モードで伝説に挑む。


 ユリアはフィリアに、ティアはアリアスに目掛けて距離を詰めた。




 アリアスはティアの目の前で杖を召喚する。


 ゆっくりとした動作で詠唱を開始する。


『永劫に続く痛みを解く……』


 ティアの攻撃をアリアスは目をつぶりながら躱す。


 圧倒的な実力差、魔力感知だけで攻撃を見切っている。


『傷を癒す光は音を超え、時を超え……』


 その間にもアリアスの魔力は段々と高まっていく。


 負けてはいられないとティアは剣の速度を速める。


 だが届かない。


『ホーリークリエイト』


 殺意を孕んだ魔法。



 ティアを膨大な魔力が包むと死を連想させられる。


「これで貴方は一度死にましたね」


 瞑っていた目を開き、ニコリと微笑むアリアス。


 ティアは汗を滲ませ肩で息をする。


 だけどティアの疲れが一瞬で吹き飛ぶ。


 攻撃をされたのではなく、最上位の回復魔法を掛けられたのだとすぐに気づいた。




 フィリアは二つの刀を出しているが左の刀だけでユリアの攻撃を迎え撃つ。


 その場から一歩も動かずに。


『期待してたんだが、期待はずれじゃな』


 ユリアを射抜くフィリアの目には失望の色が映る。


 これまでの試練で強くなったと自覚していたユリアはフィリアの対応が癇に障る。


混沌カオス


 ふわっとその場から溶けるように居なくなるフィリア。


 その瞬間ユリアの首筋にピタリと冷たい刀が置かれた。


『これで貴様は一度死んだ』


 耳元で囁かれるまで反応出来なかったユリア。


 首筋の冷たさが消えると距離を取って目の前に現れるフィリア。




 フィリアとアリアスは肩を並べる。


 ユリアの横にティアが来ると初期位置に戻る。


「お姉ちゃん、この人達凄く強い」


 ティアの言葉にユリアはコクリと首を縦に振る。


「勝てない敵、実力差が明確な敵に勝つ方法を教えましょう」


 アリアスが懐かしむように言葉を零す。



『相手を超えるんじゃなく、今の自分を超えてください』



 当然な事だとユリアとティアは思った。


「ふふ、私が遠い昔、このように聞いたのですよ。そして返ってきた答えがコレです」


「アイツが言いそうな事だな」


「はい」


 フィリアも混ざって懐かしそうに話す。




 そんな中ティアはユリアを見る。ユリアもティアを見る。


 強くなる為に今の自分を超える事は当然で難しい。


 でも、と言葉を交わさずとも姉妹の意思は共通していて。



『『今の自分は私達で超える』』



 魔力の共鳴。


 倍々に膨らんでいく魔力にアリアスもフィリアも感嘆の声を漏らす。


「コレがユウカが見た可能性ですか」


「確かにアイツを超えると言うのは与太話じゃなかったわけじゃな」


 姉妹の魔力に呑まれないようにアリアスとフィリアは魔力を纏う。




 長く引き伸ばされた一瞬で四人の戦闘が始まる。



 ユリアがふわっと消えるとフィリアの視界の外から攻撃を仕掛ける。


『混沌』


 それは一度で終わらず、目まぐるしく先手を打ち続ける。


「我を真似るか、面白い!」


 フィリアは既に両手の刀を使い、ユリアと同じように能力を使った。




 ティアの斬撃を避けていたアリアスもついに掠り始める。


 段々加速するティアの剣にアリアスも受けきれなくなっていた。


 ついにその時が来て杖が弾かれる。


「ッ!」


 無防備なアリアスの肩にティアはピタリと左手を置くと。


『リカバリー』


 アリアスの身体を淡い光が包む。


「これでお愛顧だね」


「はい、そうですね」


 アリアスは再度杖を召喚しティアの手を払うと詠唱を始める。


 ティアも負けじと回復魔法の応酬で勝負を仕掛けた。




 ユリアはフィリアを真似て左手に一本の剣を形作る。


 押され始めたフィリアの隙をついてユリアは剣をピタリと止める。


 フィリアの首筋に置かれた剣、フィリアとユリアの動きが止まる。


「やっと貴方を超えられそうです」


 フィリアはフッと笑って剣を弾き戦闘を再開させる。




 長く長く続く戦闘。


 終止符は突然に来てしまうもので。



 フィリアがガクッと体制を崩すとその隙をついてユリアは剣を首筋に置く。


 だが向かい合ったフィリアの刀もユリアの首筋に置かれていた。




『ホーリークリエイト』


『リカバリー』


 アリアスに触れたティアと、ティアに魔法を放つアリアス。


 そのどちらの回復魔法も発現することなく二人の魔力が切れた状態で止まっていた。




 チラッとアリアスはフィリアを見る。


「もう私達は戦えませんね」


「そのようじゃな」


 大人のお姉さんなフィリアがボンッと音を立てて幼女の姿に変わる。



「試練は合格ですよ」


 アリアスが合格だと言うと。


『ホーリークリエイト』


 魔力が無かったはずのアリアスが魔法を発動する。


 火の神殿から姉妹は外に転移させられた。




「これをユウ様は一人で相手になさるのですね」


「クレスの強さとはまた別の強さじゃな。あれは他の者が言っておったように骨が折れそうじゃ」


 崩壊していく火の神殿で。


 ボンッとアリアスが小さなドラゴンの姿に変わる。


「楽しみじゃな」


「キュイ!」


 起こるかもしれない未来を想像して一人と一匹は転移の光に包まれたのだった。


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