近くにいる魔王



『お兄ちゃんお願いがあるの!』



 俺がリビングのソファーで気持ちよく寝ていた時に叩き起こされた。





『ティアとユリアを俺以上に強くしたい?』


 俺はリリアから俺を倒す方法の相談された。


「それはもうリリアに教えて来たはずだぞ」


 殺人の剣以外の俺の全てはリリアに教えた。


 何か足りなかったのかと俺は考える。


「俺にあってリリアになかった物は……死への恐怖だな」


 リリアが疑問を口にする。


「えっ? お兄ちゃんにそんなのないよね?」


「魔王クラスの魔族がゴロゴロいる時代に勇者やってた俺が負けたらどうなる?」


「あっ!」


 リリアも分かったらしい。


「そう大切な人が死ぬ事になる。その恐怖だ。いつも格上と戦いながら限界を無理矢理超えることを強制された……超えなかったら死ぬからな」


 これは俺が勇者の時代だから出来た事だ。


 ティア達が死の恐怖を体験する事は無理ではないが……。


 リリアがハッと笑顔になる。


「誰かが最強の魔王になって、その魔王に従う強い配下がいれば擬似的にその環境を作れるよね」


 チラチラと期待がこもった眼差しで俺を見るんじゃねぇ。


「しかもその魔王が優しい人だったら、あの娘達の生死の心配もしなくていい」


「……ティアとユリアには死ぬかもと思わせといて本当は死なないし、ティアとユリア以上に強い奴ら全員がその優しい魔王の仲間だって? そんな都合いい環境あるわけないだろ」


「私、その優しい魔王さんに心当たりがあるんだよね」


「ほぅ、詳しく。もしもそれが俺なら丁重に断るからな」


『お兄ちゃんじゃないよ。その人の名前は……』







 ある国の上空に。


 ある日、出現したモニター。


 それは全世界を恐怖に陥れた。



『俺は魔王、支配者ルーラー。この世界を異次元より滅ぼしに来た』


 同時刻、ある国の端を囲うように光の柱が降り立つ。


『今からお前らが生き残る方法を教えてやろう。お前らからも見えるだろ? 「精霊神」の出す光が、その場所に試練を用意した』


 世界を見守ってるはずの精霊神が敵になった事は絶望を植え付ける。


『六の試練を乗り越えた奴には俺への挑戦状をくれてやる。世界を滅ぼされたくなかったら頑張るんだな……あぁ、泣き喚いて世界の終わりを待つのも面白いかもな』


 不敵に笑うその顔は安っぽい仮面で隠れていた。


『俺に勝てばソイツらに一つの真実を教えてやるよ。まぁ、そんな事ありはしないがな』


 それを最後に映像は消える。


 だが人々は夢かと安楽的に考える事は出来ない。


 煌めく大きな光の柱がこれは現実だと訴えるからだ。







 仮面を外してリビングのソファーにぐったりと寝転がる俺。


『……これでいいの?』


 リリアが嬉しそうに隣で声を出す。


「お兄ちゃん完璧だよ! 悪役って感じだった」


「で? 精霊神以外にも誰がこの作戦に協力してるんだ?」


「え〜とね……」



 懐かしいメンツもいるな。


 ミミリア、フィリア、ジーク、リリア、フラン、アクア、ユウカ、アリアス。


 姫様に王様に邪神もいる。


 ユウカとアリアスは分かる……あとフィリアもこういうの好きそうだが。


「どうやってそいつらにお願いしたんだ?」


『剣の勇者を倒す為に私の娘達を強くするのに協力してって言ったら皆んな面白いって二つ返事で承諾してくれたよ』



 暇人共め。



 そんな事をしているとバタバタと玄関の方が慌ただしくなり、扉が勢いよく開く。


 ティアとユリアが血相を変えて入ってきた。


『『リリアママ! 大変だよ! 魔王が!』』


 今目の前にいるけどな。


『『あの仮面の男だった!』』




 息を切らしてる二人に俺は声をかける。


「で? お前らは指を加えて世界が滅ぶのを待つか?」


 俺の発言にユリアはムッとしたが口を紡ぐ。


「お前らは一度負けてるからな……強い奴らに託した方が無難だ。お前らが行っても何もすることなんかない」


「そんな事言わなく……」


 俺はユリアの声を遮る。


「お前らの実力なんてたかが知れてるんだよ、少し気持ちよく力が使えるようになったからって気だけ強くなったのか?」


「……なんて」


 ユリアはボソッと呟く。


「は? 聞こえねぇよ」


「パパなんて嫌い! 魔力無くて自分の方が何も出来ないのに偉そうに言うな!」


 捨て台詞を残してユリアは自分の部屋に帰っていった。


 ティアも姉を気遣いながら。


『パパ酷い』


 と言いながら扉を閉めてティアもユリアについて行った。



 そして俺は二人が居なくなった瞬間に。



『グハッ!』



 吐血した。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 背中を優しくとさすってくれるリリア。


「あの娘達に嫌われたくないならそんなこと言わなければいいのに……なんでお兄ちゃんの応援の言葉っていつもトゲがあるの?」


「俺が知りたい、でも俺の娘達ならあれが最善なんだと思う」


「ティアちゃんはパパの事好きだし、ユリアちゃんは普段は嫌いって言ってるけど心の中ではパパのこと本当に好きなんだよ」


「本当かな」


「ほ、本当だよ!」


 ……あ、これガチで嫌われてるパターンだ。






 姉妹の部屋で膝に顔を埋めるユリア。


『パパ慰めてくれてもいいのに何でいつもいつも馬鹿にするような言葉を言ってくるの?』


 ティアはベットに腰をおろしてユリアに声をかける。


『パパも照れくさいんだと思う』


『ティア、明日近くの柱に行こ』


『うん』


『二人でパバを』


 膝から顔を上げたユリアはティアに視線を送る。



『『見返そう!』』



 姉妹は決意を固めた。


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