試練



 俺とリリアは姉妹達が家を出た事を確認した後、転移陣で先回りして水の神殿に来ていた。


 姉妹が神殿の扉を開けると協力者が自動的に転移させられるらしい。


 外観は即席で作ったとは思えない神殿。


 扉を開くとそこは別世界、空と浅い水に浸った地面が永遠と続いてるような空間だった。


 扉から一歩中へ踏み出すと俺達を絶大なる魔力が襲う。


『はぁ、待ちくたびれたわ』



 中央の水が波紋のように広がり水しぶきを上げる。


 そのしぶきが空中に集まり人の形を作る。


『待って! アオイちゃん私、リリアだよ』


 ふっと俺達に向けられる魔力が無くなる。


『あぁ、リリアなのね……で、もう一人は……ユウ様!?』


「よ、よぉ」


 久しぶりの再会に照れくさくなる。


 アオイも俺と同じなのか頬を朱に染めて照れくさそうだ。


『リリアちょっと来て』


 アオイに呼ばれてリリアは歩いて中央に向かっていった。


 二人でコソコソと喋って俺は自称魔王なのにハブられている。



 話し合いが終わったのか二人は俺を見つめると。


『それでは水の試練を開始します』


 最初に扉を潜った時と同じ魔力のプレッシャーを浴びせてきた。


 地面に溜まっていた水が水滴になり空へ登っていく。



 えっ? 俺が試練をすんの?


『今から私の魔力を纏った雨を降らせます。その水の一滴も浴びずに私の元まで辿り着いてください。そして熱い抱擁までが試練の内容です』



 熱い抱擁いる? 精霊神の魔力が纏った水とか一滴でも触れたらヤバいぞ……。



『それでは始めます』



 アオイの声が静かな空間に響くと、地面を打ち付ける雨とも呼べない音が辺りを包む。


 隙間のない水のカーテン。


 剣で切り裂いて道を作るか? いや、それはリリア達にも当たりかねないからアウトだ。


 普通に歩くか。


『リミテッド・アビリティー』


 何も無い空間から俺は金色のオーラを纏う黒剣を右手で引き抜く。


 集中力を高める、周りが静止するかのような静けさの中一歩、水のカーテンに足を踏み入れる。


 雨の一粒一粒を剣で切り飛ばす。


 雨に魔力を纏わせてるのは全体の魔力探知を研ぎ澄ますのに役に立つ。


 そこで対処する瞬間的な応用力も必須だ。


 しかも生身だと死ぬかもしれない銃弾の雨。


 それ相応の力で返さないと雨は弾けて拡散する。


 拡散するのは厄介だな。


 俺は一歩一歩確実に進む。



 何時の間にか俺は精霊神とリリアの前に辿り着いていた。


『これクリア出来る奴とかいんの?』


『流石にこのレベルよりは難易度を下げますがユウ様? まだ試練は終わっていませんよ』


 すっとアオイは両手を広げた、照れくさそうに。


 俺もそれに応えるとする。


「アオイ……お前背が縮んだか?」


「剣の勇者様だった頃のように逞しくなられて……私は、いえ私達はずっと変わってませんよ」


 グイッと俺はアオイから引き剥がされる。


 リリアが頬を赤らめて俺の腕に腕を絡めて抱きついていた。


「アオイちゃん! もう終わりだよ!」


「なんですか? 羨ましかったのですか?」


「違うよ!」


「模擬戦争の帰りの事を精霊神全員知ってますよ」


「なっ! 見てたの!」


「家の外以外はユウ様を見守る権利がありますからね」


 チラッと契約の指輪をリリアに見せるアオイ。


 負けじとリリアも婚約指輪をアオイに見せて反論する。




 二人が知ってる俺との事を赤裸々に語り合うのはやめてくれ。


 そうこうしてる間に近づく魔力の気配を感知する。


 俺は安っぽい仮面を付ける。



「もう時期ティアとユリアが来るぞ」



 リリアも俺の声に反応して事前に用意していたのか仮面を付ける。


 口元が隠れていない仮面で白を基調とした雪の結晶のようなマークがうっすらと描かれている。


 認識をズラす闇の魔法が付与されているらしい。


 俺の祭りの仮面よりもずっと洒落ていた。







 扉を開けると地面の至る所が抜け落ちた世界が広がっていた。


 地面が転々と空中に浮いている世界。


『お姉ちゃん、ここかな?』


『間違いないわね』


 どこからともなく風の音が聞こえる。


 気がつくと緑の髪の女の人が空中で優雅に佇んでいた。



『フフフ、風の試練へようこそ。私は風の精霊神ミドリ』


 そしてもう一人、ミドリの横で空中に浮いている人物。


 闇の勇者がしていた仮面をオマージュしたような仮面。



『僕は風の魔人シルフとでも呼んでくれていいよ』



 ティアは疑問顔でシルフに声をかける。


「あれ? ユウカママ?」


『……口を慎め』


 シュッと二人のいる地面に風の刃が刺さる。


 シルフは冷めた口調で二人を見下す。


『貴方達のママが人を殺す魔人をやっているとでも思ってるの?』


 ティアとユリアは向けられるプレッシャーにゴクリと息を呑むと緑色のオーラを纏った風の刃がティアとユリアを囲んだ。


 そしてミドリが緊張の糸を切って声をかける。


『その刃はこの世界にいる限り貴方達を襲い続けます。その刃を避けつつこの魔人シルフに一太刀でも浴びせてください。それが出来れば試練はクリアです』


 二人の魔力が上がっていくとティアとユリアの目の色が変わる。


『『精霊化オーラルフォーゼ』』


 それを見届けると。



『それでは試練を始めます』



 ミドリはスタートの合図を出した。


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