覚醒
(私達が手も足も出ないトレファスさんを圧倒した仮面の男に私達が勝つ方法なんてあるの?)
ユリアはそう思いながらクレスに言葉をかける。
『貴方、剣は召喚しないの?』
仮面の男は首を傾けて少しだけ考えた素振りを見せる。
『お前らに武器を持つ必要が無い』
舐めた態度のクレスにティアとユリアは怒気を高める。
ユリアは疑問を口にする。
「さっきの黒剣って貴方……まさか?」
その疑問に仮面をしているユウカが間に入る。
闇の勇者だった時のように風の魔法で声を変えながら喋る。
『僕が魔法で剣を出していたんだよ』
ユリアはユウカの言葉を鵜呑みにして疑問を解消するとクレスに向き直る。
「戦闘を侮辱してる貴方に負けたくない」
「私も少しムキになっちゃうかも」
ティアもユリアと思う事は一緒だったようだ。
姉妹の目の色が変わる。
『『
未だに魔力すら纏っていないクレスに手を抜いてると思っている姉妹。
クレスはさらに姉妹の癇に障る言葉を口にした。
『手加減してやるからかかってこいよ』
ユリアが踏み込み、それに続いてティアが踏み込む。
姉妹同士の息が合った逃げ場を無くすような乱舞。
クレスは手を口にあてて欠伸をしながら避ける。
余裕を見せるクレスとは程遠く、息を切らしながら剣を振る姉妹。
今日何度目かの精霊化でもう魔力は殆ど残っていなく、維持するだけで手一杯な状態だ。
姉妹の力量の差は逃げる穴を生んでいる。
そこをクレスは指摘する。
「終わりか? ユリア、お前がティアの足を引っ張ってんな」
剣の勇者が使う剣は無音。それと全く同一の一閃。
クレスは無意識に避けるがそこを何かが通ったことに疑問を覚える。
『お姉ちゃんを馬鹿にするな』
ティアの精霊化の力は概念すらも超える力。
クレスは知っているがティアはまだ力の使い方を知らない。
そう勝てると思えば勝てる力。
無意識にその大きすぎる力を使っているのか未来に手にするだろう力を今覚醒させようとするティア。
そしてティアとは違う剣、鋭過ぎる一閃がクレスに向かって伸びてくる。
クレスも戦闘のギアを一段高めて避ける。
『お姉ちゃんだからね、ティアに置いてかれる訳にはいかないよ』
ユリアも見たもの全ての能力を自分に付与する力がある。
姉妹同士で今の次元から何次元もジャンプしているような覚醒の予兆。
『リミテッド・アビリティー』
クレスは黒剣を何も無い空間から引き抜くと、いつの間にか張られていた魔法陣から飛び交う全ての氷の魔法を打ち砕く。
『可愛い娘達が頑張ってるのに私が見てる訳にはいかないよね』
リリアは姉妹の後ろから魔法を構築する、そのどれもが当たるだけで致命傷を貰う魔法。
クレスは思う。
(えっ? 元剣聖ってこういう魔法禁止されてなかったか?)
三人が協力した怒涛の攻めの全てをいなす。
もちろんユウカは傍観している。
ティアとユリアの意識は共鳴していく、クレスに勝てるビジョンが見えるまで自分達を高めるかの様に。
『『もう少し! もう少し! もう少し!』』
その少しは全て黒剣で防がれる。
それでも諦めずにクレスに立ち向かう姉妹。
研ぎ澄まされていく細い一閃一閃。
だが流石に限界は迎えたようで。
姉妹は揃えた踏み込みと同時に姉妹の意識がプツリと切れた。
クレスはその瞬間を見逃さずに黒剣を捨てる。
姉妹の剣はクレスの仮面を掠めるとティアとユリアは崩れ落ちる。
「っと、危ない」
クレスは両手を広げて二人を支える。
「ふぅ、終わった……危なかったなぁ」
「全然危なそうじゃなかったですよ、仮面さん」
「リリアが援護するとは思わなかった」
「私もたまには構ってもらいたいんですよ」
リリアは魔法陣を解いてクレスの方へ歩み寄ると、姉妹を見つめる。
「ティアとユリアは大丈夫そうですね。魔力の使いすぎで少し気絶してる見たいですが、安静に寝かせておけばすぐに元気になるでしょうね」
クレスはそれを聞いて安心すると、近くにある木陰に二人を寝かせる。
「二人が起きる前にランチの準備でもしましょうか。ユウカちゃん手伝ってください」
「うん、いいよ!」
テキパキとテーブルや椅子を魔法で作っていくユウカとリリア。
やることの無いクレスはすぅっと寝息をたてている姉妹の顔を見る。
『二人とも、本当に大きくなったな』
優しくティアとユリアの頭を撫でると二人とも同じようにくすぐったそうに身をよじる。
生意気な口を言うようになったユリアと姉想いの優しく素直に育っているティア。
凄く可愛いと思ってしまう……本当に俺の子か!
飯の準備が出来たようなので俺はすぐ椅子に座る。
リリアは頑張っていた二人をもう少し休ませてやりたいというので俺とユウカもそれに賛成した。
ユウカが魔道具のアイテムボックスからユウカとリリアが朝作っていた弁当を出すと、それを広げる。
リリアはティアとユリアが起きた時に一緒に食べると言うので俺とユウカだけ先に食べる事にした。
俺の弁当には唐揚げやそば等など俺の好きな物しか入ってない。
さすがわかってるな!
無我夢中で食べるとあっという間に弁当箱は空っぽになった。
「さて、どうするか」
「娘達に今更恥ずかしくて出来ない指導みたいな手合わせも済んだし、帰ってもいいんじゃないかな?」
……なんでユウカにバレてんだ。
「仮面さん? バレバレだよ」
リリアも俺をからかってくる。
「……あぁ、もう分かったよ! 降参降参」
「じゃあ僕も降参」
消えていくクレスにリリアは声をかける。
『帰ったら今日はご馳走作るからね』
『楽しみにしてる』
クレスの顔は仮面で隠れているが、リリアはそんなクレスの顔を見なくてもわかる。
残されたリリアはふと声を出す。
『やっぱり今でも超えられないかぁ、悔しいな』
リリアの顔は悔しいという表情ではなく、清々しいほど嬉しそうに顔を誇ろぼさせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます