仮面と先生と剣聖
「お〜い、クレスく〜ん」
僕は、はぐれたクレス君を探す。
どこに行ったんだろうか……。
さっきまで一緒に居たのに。
串焼きを一緒に食べて歩いていた時にクレス君は急に。
『ユウカあれ欲しいな!』
屋台に並んでいる安っぽい仮面を指差して僕に言ってきた。
普段そんなもの欲しがらないクレス君を変に思っていると。
スチャっと仮面を付けて叫んだ。
「俺は闇の勇者だ!」
どうやら僕をからかいたかっただけらしい。
「欲しいなら僕のあげるのに」
昔は愛用していた仮面、もう僕にはいらない。
「それじゃ意味無いだろ」
クレス君は仮面を少しずらしながら僕を見つめる。
「ユウカと一緒に仮面付けて正体不明のランカーにでもなるか」
「面白いね」
「だろ!」
クレス君の野望に笑ってしまう。
ランカーならクレス君一人でも充分に達成出来るのに僕を誘うって事はそれなりに信用してくれてるって事でいいのかな?
照れくさくなって僕はクレス君から少し目をそらす。
『あれ? クレス君?』
火照った顔が冷めた頃に視線を戻すとクレス君はその場にいなかった。
ティアと私は朝のバタバタで既に遅刻だ。
「お姉ちゃん! 今日担当の先生ってリリアママじゃなかった?」
「……そう言えば」
ティアと私の時間が一瞬停止する。
そしてダラダラと冷や汗が流れると嫌な感覚が心の底から湧き上がる。
リリアママは凄く怒るって事をしない。
でも凄く悲しそうな表情をするのだ。
いつも笑顔の綺麗なリリアママが悲しそうな表情を作ると私達は凄く悪い事をしたんだなと罪悪感で打ちひしがれる。
訳を話せば分かってくれると思うが、私達姉妹はリリアママにそんな顔をさせたくない。
仲良く繋いでいた手を離すと考える事は一緒だったようで私達は魔力を高める事に集中する。
見渡す景色がチカチカと色を変える、薄らと金色の膜を帯びた景色。
ティアの蒼の瞳も金色の煌めきを帯びる。
『『
身体中に駆け巡る白銀の魔力を感じると……。
『行くよ! ティア』
『うん』
私達は魔力を爆発させる。
『『魔力全開放!!!』』
私達は全力で駆ける、身体は風のように加速していく。
人混みをすり抜けながら無駄のない動きを意識する。
私達はトップスピードで学園に向かった。
『は〜い、皆さん席についてください』
私は教室を見渡すといつもいる二人がいない事を疑問に思う。
私が入ってきた扉がガラガラっと開き、息を切らしている私の娘達の姿が映る。
『リリアママ! えっと、ね』
ティアちゃんは私を見つめて何かを訴えかけようとしてるみたい。
「ティアちゃん、ユリアちゃん、遅刻の理由は後で聞いてあげるから席についてね」
「う、うん」
「あと、学校では一応先生って付けて下さいね」
「はい! リリアママ先生」
遅刻して慌ててるのは分かるけどティアちゃんそれは反則だよ。
「ほら早く」
とぼとぼと肩を落としながらティアちゃんとユリアちゃんは席に向かった。
ユリアちゃんは声を出せない程に披露している様子だった。
娘達の事が心配でたまらないけど、今すぐ何かあったのか聞きたい。
こういう時、お兄ちゃんなら迷わずに聞くんだろうな。
『それでは競技大会に向けて移動を開始します』
重要な部分は転移陣の構築、誤差の修正、魔法式の書き換え、魔力の調整。
クラスを囲うように四方に円陣の魔法式が現れる。
丁寧に転移するポイントを定めていく。
『時空魔法タイムエア』
調整した魔力を一気に流し込む。
視界が歪むと、一瞬で安定する。
教室だった場所じゃなく、今はバトルドームの休憩室。
「それでは皆さん、次の指示があるまで自由時間ですよ」
すぐさまティアちゃんが私のもとに駆け出して来た。
「お姉ちゃんは今、動けないみたいだから私が話すね」
ティアちゃんは今朝あった事を私に話してくれた。
「なんでリリア先生嬉しそうなの?」
「正体不明の仮面の人ですか、ランカーの人を圧倒する程に強くてティアちゃんやユリアちゃんが見えない程の剣速、そして極めつけは魔力を纏ってもないのに魔法を跳ね返したと、しかも串焼きの棒で?」
「う、うん……信じて貰えないかもだけど」
「それに呆気を取られてたら遅刻してたってティアちゃんは言うんですね?」
「ごめんなさいリリアママ」
ティアちゃん……先生がまた抜けてるよ。
涙ぐむティアちゃんの頭を優しく撫でる。
「ママは信じるよ」
「ほ、本当に?」
「うん、でも遅刻は遅刻です、ティアちゃんやユリアちゃんがいないと心配するのでそこだけは反省してくださいね」
「うん!」
ティアちゃんは少し元気を取り戻してユリアちゃんの所に戻っていった。
仮面の人って絶対お兄ちゃんだよ、何してたんだろう。
ユウカちゃんははぐれちゃったのかな? ジーク君が付いているなら心配ないと思うけど。
『くっしゅん!』
『大丈夫ですか? クレスさん』
はぁ、なんで僕がこんな目に。
「誰か俺の噂をしてるな!」
「はいはい、それでは競技大会会場まで送るのでちゃんと付いてきて下さいね」
クレスさんから目を離さないようにしながら僕はクレスさんを連行する。
「その仮面はなんでずっと付けてるんですか?」
「あぁ、これ? 正体隠してランカーにでもなろうと思って」
「……マジでやめてくださいよ」
「なんでだよ!」
「圧倒的なクレスさんがランカーになったら国のパワーバランスが一気に崩壊しちゃうじゃないですか」
「ユウカもやってくれるって言ってたもん!」
なんでユウカさんやリリアさんって凄い人達なのにクレスさんにはとことん甘いんだ……頭が痛い。
「その時は剣聖として全力で阻止させて頂きますね」
「俺と戦うのか?」
「いえ、出場を剣聖権限で無かったことにします」
「なん、だと!?」
剣聖の権限を軽く返せる人が何人もクレスさんの周りに居るんですけどね……。
それは本当に知って欲しくない。
「ところでさ、お前なんか狙われてる覚えあるか?」
「さぁ? 僕達を標的にするなんて何処の馬鹿なんですかね?」
数十人程だろうか? その視線がコチラを射抜いているのが分かる。
「クレスさんが魔力無いから狙われたんじゃないですかね」
「娘達の晴れ舞台見に来ただけってのにフィーリオンも治安が悪くなったなぁ? 剣聖仕事してんのか?」
「今日は祭りですからね、そういう輩も増えます」
「ランカーになる肩慣らしでもしとくか」
「まだ諦めてなかったんですね……」
はぁ、剣聖として本当に頭が痛い。
人が居ない所に誘導してっと、それじゃ。
『出てきて下さいよ、貴方達には悪いですが少し鬱憤を晴らさせて貰います』
今日を狙った貴方達は本当に運が良いです。
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