神と勇者
フランとユリアの剣は互いに交錯する。
オールアビリティの効果は見た者全ての能力を自分に付与する力。
フランの能力をコピーして、運操作の能力を軽減しているが、やはり相殺は出来ない。
オリジナルよりは劣るのだ。
『運が良かった』で成立する全ての事がフランの味方をする。
「おっと、そこにはちょうど魔法を設置してました」
適当に設置型の魔法を置くだけでも相手が引っかかる。
「くっ!」
ユリアの足に虹色の鎖が巻き付く。
「こんな物で私が止まると思うな!」
無理矢理に力任せで鎖を引きちぎるとフランに向けて黒剣を振り抜く。
ユリアはことごとく罠にハマり、その全てを傷つきながら無力化していく。
ユリアは戦いの中で気付いたことがある、時々見せる違和感。
フランの剣に躊躇いが生まれる瞬間があるのだ。
フランの異変、変わりすぎた思想。
だからこそ時間を稼ぐ、フランを助ける為に。
「フランさん、目を覚ましてください」
「またそんな戯言を! 私は今、神様なんですよ……なんでも思い通りです」
剣を交えながらユリアの戦況は不利になっていく。
「フランさんは操られているみたいですね」
「私の意思ですよ、これは!」
フィーリオンを攻めてきた学生達も洗脳されていた事を考えると、フランも前もって洗脳されていたと考えるのが普通。
「考えてみればフランさんがこんな事するはずがなかったんですよね」
フランは戦いの中で少しずつ口調が荒々しくなっていた。
「貴女に何が分かるって言うんですか!」
「フランさん、自分の意志が少しでもあるなら抗ってください」
ユリアの剣の速度が上がっていく。
先程まで引っかかっていた魔法の全てが不発に終わる。
設置型の魔法陣が発動する頃にはその場にユリアはいない。
『瞬間移動』
フランはユリアを目で捉える事が出来ない。
「ここです!」
フランの不意をついたユリアは全ての魔力を剣に乗せてフランに放つ。
だが……。
「そんなに甘くはないですよ?」
振り下ろした剣はフランを捉えることなく、空を斬り、地面には壮大なクレーターが出来上がる。
そしてユリアの首元に漆黒の剣が置かれていた。
ユリアはユウカの能力『
纏っていた魔力が全て消え失せたユリアはその場で膝をつく。
「私の負けです、流石に私も長期戦が無理だったので決着を焦っていたのかも知れません」
フランの勝ち誇った笑みがユリアに向けられる。
『爪が甘いですね』
「そうかもしれません」
首元に置いていた剣を振り上げるとフランはユリアに剣を振り下ろす。
だがその剣は首元でピタリと止まる。
その異変に気づいたユリアはフランに声をかける。
「フランさん、お目覚めですか?」
「手が動かない!」
ユリアの首元でガクガクと震える漆黒の剣。
『ベークさん、その身体で運操作なんか使ったら運良く催眠が解けるかも知れないじゃないですか』
「チッ!」
フランの中から弾き出された様にベークが姿を現す。
息を切らしたフランはユリアにもたれ掛かる。
「私はユリアさんに酷いことを言ってしまいました……ごめんなさい」
「言わされてたって分かってましたよ」
ユリアはフランを抱きしめるとそれを見ていたベークが苛立ちを含んだ声を漏らす。
「私の計画が狂ったじゃないですか」
ベークはユリアを睨みつける。
「まぁ、最初から使い捨てるつもりだったのでいらないですけどね」
ベークの瞳はまだ虹色の光が輝いている。
この場にべークと戦える者はいない。
べークの前には既に魔力を使い切ってしまったユリアとベークに魔力を奪い取られたフランだけ。
すると精霊神がいる方向から何かが砕け散る音が聞こえてくる。
『やっと出れた』
その瞬間にフランとユリアの前に銀髪の少年クレスが現れる。
フランは目を見開いてクレスに声をかける。
「お兄様なんでここへ」
クレスはべークを視界に捉えて前を向いたままフランに問う。
「お前はまだ母親を助けられなかった剣の勇者の事を恨んでるか」
『いえ、剣の勇者様は私を助けてくれました。それだけでお母様が私を想って作り出した奇跡だと今は思っています』
「そうか……ユリア、フランと一緒に精霊神の所へ」
「はい、頑張ってください」
クレスの指示に従い、ユリアはフランを担いで精霊神の所に向かう。
ベークが少しユリア達の方を見るとクレスの横を何かが通り過ぎた。
エルフ特有の不可視の魔法。
『しまっ!』
クレスは油断はしてなかったが、感知できない魔法にはあまり耐性がない。
その不可視の魔法はフランに当たる直前で消える。
『大丈夫ですか? フランさん』
そこには魔法と入れ替わったアクアがいた。
急な登場人物にビックリしたようなフラン。
「ア、アクア様!? なんでこんな所に」
アクアは悔しそうに眉をひそめる。
「こうなったのは僕のせいでもあるからね……」
クレスはベークに目を向ける。
「あっちの心配はもうしなくてもいいようだな」
「次から次へと、邪魔ばっかり……で? 私の前にいるアンタはなに? 最初に突っ込んで来て罠にハマった馬鹿じゃないか」
ベークは魔力無しの人物にやれやれと首を降る。
「身の程を知りなよ〜早く終わらせないと気絶してる神の子達が起きて面倒になっちゃうんだよね」
「それは心配するな」
クレスは何も無い空間に手を入れると金色のオーラを纏う黒剣を召喚する。
『リミテット・アビリティー』
ベークは目を見開く。
『その前に終わらせてやるから』
「まさか剣の勇者……様」
ベークは俺を目の前にして驚きを隠しきれないようだ。
そしてベークから馬鹿にしていた雰囲気は消え去る。
「私は貴方をずっと待ってました、ですがもう既に私は貴方を超える力を手に入れたのです」
確かコイツは俺が初めてリリアに読んであげた『歴代勇者』の作者。
その名前がベーク・スタリオッティだった気がする。
「俺を超えた?」
「貴方の凄さなら私も知っております、ですが今さら現れた所で手遅れなのですよ。そうですね、私の方が強い事を証明しておきましょうか、人族最強を葬った後に全てを無に還すのも面白そうです」
「出来ると思うのか?」
ベークは両手を広げると円のように虹色のオーラの膜が現れる。
それは一瞬にしてその場の全員が収まるように広がっていく。
「剣の勇者様に敬意を評して、私も本気で相手をしましょう」
俺の持っている黒剣がキラキラと粒子になり消えていく。
「神になった私の能力ですよ」
俺の中のちっぽけな魔力が感じられないし、黒剣も消えた。
俺が分かることは魔力と能力を制限する空間を作り出しているという事ぐらいだ。
でたチート能力。
だから嫌なんだよ! この世界は俺に理不尽すぎる。
「アリアス! 剣をくれ」
「キュイ」
ブンっとドラゴンの状態のアリアスが俺に剣を投げる、結構な距離なのによく飛ばせたなと思うが。
「そんなお飾りのような剣で私と戦うのですか?」
「本気は出せないかもな」
「グランゼルですか? その剣じゃ本気を出すことも出来ないんじゃないですか?」
確かに本気で振ったら壊れる武器だ。
「お前なんか本気を出さなくても勝てるって事だよ」
「舐められてますよね? こんな絶望的な状況で私にそんな口を聞けますか……さすが剣の勇者様ですね、私が尊敬しただけはあります」
ベークの魔力が殺気と共に膨れ上がっていく。
「こんなに人を煽るのが上手いだなんて、少し軽蔑しちゃいますよ」
「おいおい、今は人じゃないだろ、神様」
『死ね』
ベークの殺気の篭った声を聞き流す。
俺はグランゼルを鞘から引き抜く。
『手加減してやるからかかってこいよ』
グランゼルの刀身をベークに向けながら俺は何時もの言葉を言い放った。
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