境界



 フランの身体を操っているベークに相対してるユウカとユリア。


 ユウカはすぐに動き出す。


「まずは全員の確保だよ」


 ユウカの全身が白銀のオーラに包まれると両目が金色に変わる。


 ユウカの右目が虹色の光を灯すと、白銀のオーラから虹色の光が混ざる。



神化しんか



 ユリアもユウカについて行くように駆け出す。

 

「私も行きます!」


 ユリアも白銀のオーラを纏って能力を発動させる。



『【スタイル】クレス・フィールド【魔力】リリア・フィールド【能力】ミミリア・リル・ミリアード』



 ユウカはベークの方に足を向けると。


「足止めは僕がやるよ、ユリアちゃんは精霊神の所に皆んなを」


 ユリアに指示を出す。


「はい!」


 ユリアはミミリアの能力【瞬間移動】を使って一瞬でその場から消える。



 その光景を見ていたベークはほくそ笑む。


「へぇ~神に対して一人で挑むんだね。結界が張ってあるから転移で逃げるなんて考えたらダメだよ~神々の舞踏、ラグナロクの結界なんだからね」


「そんなのわかってるよ、僕も今は神の領域に達してる一人だからね」


 ベークの言葉に減らず口で対抗するユウカ。


 ベークに取ってはこの戦いは遊び。


「さぁ、抗ってね~簡単に死んだらつまらないから」


『天空の光よ、僕に力を』


 透明な剣がユウカの手に現れる。


 ユウカは一足でベークに接近する。



 直感でベークの動きを読みながらユウカは剣を振っていくが一度も当たらない。


 ベークは剣が自ら避けていると錯覚するような動きで避けている。


「もう終わり?」


「僕だけじゃダメみたいだね」


 何も無い所から金色のオーラを纏う黒剣が出現する。


『血統解放リミテッド・アビリティー』


 ユリアが瞬間移動でユウカの傍に転移するとベークに攻撃を仕掛けるが、ベークはそれも避ける。


「今のは少し驚いたよ~」


 軽い口調のベークは焦りなど皆無のように驚いたと口にする。



 ユウカとユリアは一旦ベークから距離を取るとクロがいる方向を見るユウカ。


「ユリアちゃん、みんなの確保は完了したみたいだね」


 ユウカはクロの周りで気を失ってるリリア達を視界に収めた。


「はい、ユウカさん」


 ここからは持久戦、クレスが結界から出るまで耐えることが目標。


 ベークは諦めない二人に疑問顔だ。


「君達は何を期待しているのかな、私には勝てないって分かんないの?」


 ユウカは自信持って言い放つ。


「僕達には秘策があるんだよ、取っておきのね」


「ふぅん、私も気になってたんだよね、なんで精霊神がここにいるのかを、あれはどう見ても普通の精霊とは格が違いすぎるよね」


 ベークはユウカ達から視線を外すと、精霊神を見る。


「あっちの方に攻撃したら面白そうだね」


 だがそれはユウカ達が許さない。


「君の相手は僕達だよ!」


 ベークが左手を精霊神達に向けると、ユウカとユリアは即座に攻撃を阻止に向かう。


 ユウカの直感が危険信号を鳴らす。


「ユリアちゃん、待って!」


 ユウカの叫びと共にユリアはその場で足を止める。


 いつの間にかユウカの前に透明な壁が出来上がっていた。


「感知されない魔法の筈なのによく気づいたね、それ、触れたら死ぬよ」


 二人が壁に足止めをされているスキにベークの魔法が放たれる。


 地面を抉りながら一直線に精霊神に向かっていく不可視の魔法。



『きゅい!』



 不可視の魔法は何かにぶつかったように爆発する。


 クロや気を失ってるリリア達を庇うようにグランゼルを持った小さなドラゴンが立ちはだかっている。


 ベークが初めて驚きを見せる。


「神の子と一緒にいたドラゴンだね? 私の魔法を弾く程の力を持ったドラゴンなんているんだ」


 ユウカはふっと笑みをこぼす。


「初めて君の驚く姿を見たよ、だってあのドラゴンは」


 ドラゴンは光を放ちながら人の形に姿を変えていく。



人化じんか



 ユウカはベークにその人物の事を教えてあげた。


「剣の勇者を支えた人だからね」


 アリアスが姿を現すと、勝ち目がなかったこの戦いに勝ち目が出てくる。



『少し魔力の調律に時間を掛けてしまいましたが、私もやっと本気で戦えるようですね』



 ベークはその人物に目を見開く。


「まさか! アリアス・リル・ミリアード」



 勝機が出てきた戦いにユウカはいつもの調子が戻ってくる。


「じゃあ次は三対一だけど覚悟は出来てるかな? ユリアちゃんも本気出してもいいよ、いつも人相手だとセーブしてるんでしょ」


「何故それを!?」


 ユウカの言葉にユリアは驚く。


「君の事なら直感なんか使わなくてもわかる気がするよ」


 ユリアに優しい笑顔を見せるユウカ。


 それに応えるようにユリアも本気を出す。


「そうですね全力で行きます」


 ユリアとユウカの魔力が更に上がる。



『『魔力全開放』』



 そしてユリアの両目が金色の光を宿す。


 見た者全ての能力を自分に上乗せする能力。



『オールアビリティ』



 ユウカはそれを見て一言呟く。


「負ける気がしないね」


 ユウカとユリアは同時にベークに接近する。



『ホーリークリエイト』



 アリアスが魔法を発動すると、不可視の境界が消える。


「エルフの固有能力もアリアスちゃんの前では無力だね」


 魔力の流れが見えれば戦い方も変わる。




 ユウカとユリアが両者の剣の隙間を埋めるように剣を振ると、先程までベークが避けていた剣がかすり始める。



『ホーリークリエイト』



 ベークの周りに光の矢が展開される。


 ユウカは苛立ちを含んだ声でベークに声をかける。


「君はさっさとフランちゃんから出なよ」


 追い込まれている状況なのにベークは笑みを崩さない。


「ふふ、なんで私がこの体を選んだと思う」



 ユウカの神化が偶然、制限時間を迎え魔力が消える。


 ユリアの足元が偶然、ぬかるんでいて剣がベークに届かない。


 アリアスの魔法の調律が偶然、乱れて魔法が消える。 



運操作フラクションラック


 

 べークは全ての偶然が産むスキに添えるようにユウカとユリアに魔法で作った衝撃波を放つ。



 ユウカが一番使われたくなかった能力。


 ユウカは魔力を纏っていない身体で魔法を貰い、ボロボロになり立ち上がれない。


「きゅい!」


 アリアスはドラゴンに戻り、慌てている。




 ベークの笑い声が静かになった場で響く。


「私は今、運がいい! 貴女達の運は最悪なんでしょうね」


 その声にユリアは返す。


「いえ、私はまだ戦えるみたいです」


 ユリアは立ち上がり、倒れているユウカに触れる。


 ユウカはユリアの魔法で身体が光り輝くと精霊神の居る場所に転移させられる。



 この場で戦えるのはユリアとベークの二人だけ。


 そしてユリアは気づいた違和感を口にする。


「フランさんは何故その人に協力しているのですか?」


 はっと驚いた表情をしたベークはユリアの能力に納得して声を出す。


「オールアビリティの能力ですか」


 ベークじゃないフランの声。


 その声を聞いてユリアは怒りを覚える。


「何故……その人に協力しているのですか!」


「何故? 何故ですか……私はこんな力を持っていながらお母様を殺してしまいました、お兄様とお会いした事で私は救われました。でも、私は知っているのです、あの人は本物のお兄様じゃない事を、そしてベークさんに言われたのです」


 狂気の笑みを浮かべるフラン。



『お母様を殺した魔族共を殺して復讐しようと』



「フランさん、そんなことしたって……」


「お母様は喜びませんですか? ユリアさんに何が分かるんですか!」


 フランの手元には漆黒で塗り固められたような剣が姿を現す。



「私は貴女が羨ましかった! そんな力があの時の私にあればお母様も死なずに済んだ! ベークさんも私と同じ気持ちだったようです、人族にも優しくしてくれる人はいたって」


 一歩一歩とユリアに近づくフラン。



『でもこのどす黒い気持ちは何処にぶつければいいのですか? 教えてくださいよ』



「……」


 何も答えないユリアにフランは失望の眼差しを送る。


「最初から家族がいなかった貴女には関係がありませんね」


 ユリアは歯を食い縛ると言葉を紡ぐ。


「最初からじゃない! フランさん、私にもお母様の面影が記憶にあります、優しくて、暖かくて、全てを許してくれるお母様の面影が……先程言われました、貴女にはお母様の事が分からないと」


 ユリアは小さく呟く。


「ユウカさん、力を借ります」


 フランを見据えるユリアの目は虹色に輝く。



神化しんか



 オールアビリティの能力で神の領域に至る。



『私でも分かります、フランさんのお母様は絶対にこんな事を望んでません!』



 フランは心底うんざりとユリアを見つめる。


「羨ましいですよ、その私が目指した理想のような姿は見てるだけで……」


 二人は距離を詰めると剣を振り上げる。


 漆黒の剣と金色のオーラを纏う黒剣が重なり合う。



『本当にイライラします』



 フランの瞳に暗い光が差した。


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