神の遊び
「それじゃ行くか」
クレスを中心に地面から魔法陣が浮き上がる。
ユリアがクレスの右腕を掴む。
「私も行きます! クレスさんが剣の勇者様だなんて……強すぎる謎が解けました」
「えっ?」
クレスが戸惑いの声を漏らすと何時の間にかユウカもクレスの左腕に自分の右腕を絡ませている。
「もちろん僕も行くよ」
「ちょっ! 俺一人で行く!」
だがクロは展開された魔法を止めることはできない。
『すいません……ユウ様手遅れです』
一瞬フッと全員の視界が暗く染まると、浮遊感を覚えて明るくなる。
岩で出来た大広間のような空間がそこには広がっていて。
目を惹き付けるのは五つの柱。
その柱の一つを除き、四つの柱には人が括りつけられている。
全員が気絶しているのかグッタリとしていた。
クレスはその中の一つの柱にリリアを見つけると、ユリアとユウカの腕を振り解き柱に向かって走る。
「リリア!」
ユウカがクレスに向かって叫ぶ。
「クレス君ダメ!」
クレスの真下に魔法陣が浮き上がる。
「なんだ!?」
すっと何も無い所から突然現れた小さな透明な箱に捕まってクレスは動けない。
魔力を一切感じない魔法にクレスは気づけなかった。
『捕まえたのは一人か~そこの馬鹿みたいに皆んな一目散に走って助けに行くと思ったんだけど』
柱の近くに現れた一人の女。
その女は片手でゴツゴツしているカラフルな石を持ってクレスを見ながら笑っている。
長い白髪と尖った耳、そして整った顔立ち。
ユウカがエルフの女に問いかける。
「エルフ……滅んだはずじゃないのかい?」
「そうだよ~、私は生き残り。これより記念すべき神の誕生を見れる唯一の機会だよ! 観客の皆様その場でお待ちください」
「神の誕生?」
「闇の勇者は聞きたがりだね~、それでは自己紹介を始めようかな、私の名前はベーク・スタリオッティ、今から神になる者です」
クレスはその名前に引っ掛かりを覚える。
「生まれた時から魔力が無くて、そのおかげか私だけがエルフの生き残りだってバレずに済んでたの……そして生き残りだと言うことは」
ユウカは何かに気づく。
「……まさか! 虹の石」
「闇の勇者、正解! 私が持ってる虹の石は全て原初の石……魔族最大の魔力量を誇ると言われたエルフの石だよ。人族も魔族も使えなかったみたいだけど私は使う方法を編み出した、エルフ特有の固有スキルでエルフが使う魔法は感知出来ない」
「原初の石は魔族と人間の争う引き金となった物だよね」
「闇の勇者凄い! 知ってる人もいるんだね~私は何度だって思った、魔力がなくても最強になった剣の勇者のようになりたいって、そしたら人族に復讐出来るのにってね」
「復讐が目的なの?」
『そうだよ』
ベークはユウカに冷たく言い放つ。
真剣味を帯びた表情からベークはニコリと表情を変えて話す。
「さてここに神の子は揃ったし、張り付けなくても発動するよね」
大広間全体を覆い尽くすような大きな魔法陣が浮き上がる。
片手で持っていた原初の石が虹色の光を放ち、べークの身体の中に吸い込まれていく。
その姿を見ていたユリアは立っていられなくなり地面に膝をつける。
「グッ!」
いきなり苦しみ出したユリアにユウカは声をかける。
「どうしたのユリアちゃん!?」
ユリアの中の白銀の魔力が抜けていきベークの元へと流れていくと、柱に括りつけられているリリア達からも、とめどなく魔力が吸い上げられていく。
ベークはフランを見つめると。
「一番媒体としていいのは~この子かな!」
ベークの身体は虹色の玉になり、フランの中に入っていく。
グッタリとしていたフランが顔を上げて、柱の楔を強引に破壊する。
『
フランの瞳が虹色に染まる。
「観客の皆んなは人族なので全員殺します、神の誕生を見れたなんて冥土の土産が出来て良かったですね」
ベークはポンっと手を叩くと大広間から何も無い草原に場所が切り替わる。
「ここはエルフの森があった場所、特別ですよ」
ベークの圧倒的な存在感に押しつぶされそうになりながらユウカはユリアに声をかける。
「ユリアちゃん、戦えるかい?」
「は、はい!」
息を荒くしながらもユウカの問に応えるユリア。
「クロちゃん、クレス君を助けて!」
「わかりました」
クロもユウカの指示に従う。
『戦うの? じゃあ戦いの真似事でもしてあげる』
ベークの……神の遊びが始まった。
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