逆境
ユリアの刀とフランの剣が交差する。
『私の名前はユリア、貴女の名前を聞きましょう』
ユリアが言葉を交わす。
『私の名前はフランです』
「フランさんですね、行きますよ」
ユリアがフランの剣を弾くとフランの身体も大きく仰け反った。
一太刀でユリアはフランとの実力差を把握すると視界を覆い尽くす程の闇が絶え間なく流れ空間を支配する。
その異様な光景に危機感を持ったフランはクレスから貰った剣の力を使う。
『グランゼル、力を貸して』
クレスから自分の力をさらに付与出来る能力を教えて貰った。
その代わりにグランゼルに魔力を注ぎ続けなければいけない。
白銀のオーラルを纏いグランゼルに魔力を流すと、白銀の魔力とグランゼルが纏う赤い闘気が混ざり合う。
「身体強化魔法ですか、それも武器を媒体に使った……魔剣」
ユリアはすぐさまグランゼルの能力に気づき距離を取る。
「神に愛されてますね、それほどの剣をフランさんはどこで手に入れたのでしょう」
「お兄様から貰いました」
「フランさんのお兄様にも興味が出てきました、半端な貴女がその武器をどれだけ使いこなせるのか知りたくもなりましたし」
フランの右目は金色に輝き、左目は蒼い色。
完全な
「ソーダちゃん、少し離れてて」
「キュイ?」
「心配しないで、勝てるなんて思ってないけど逃げる事だけはしたくないの」
アリアスはフランの意思を汲み取り、肩から空へ飛んでフランを見守る。
アリアスは思った。
『血は繋がってませんが、兄弟揃って負けず嫌いですね』
すぐさま戦闘を開始した二人。
だが戦闘を見守っていたソフィアが二人の間に入る。
『
ユリアの刀が空中で波紋を残し、ソフィアの顔の直前で何かに阻まれてる様に止まる。
「やはりその障壁は硬いですね」
ユリアは障壁を掻い潜り接近をはかる。
縦横無尽に障壁を展開しながらソフィアはユリアの接近を妨げる。
「フランちゃん、休憩は終わったかしら?」
フランはソフィアの問いにスーッと息を吐く。
『はい!』
ソフィアの横にフランが並ぶ。
「二人で優勝候補のユリアを倒しましょうか」
ソフィアが障壁に向かって剣を振りかぶった所でスっと全ての障壁が消える。
「行くわよ!」
ソフィアの掛け声と共に二人は前に出る。
虚を付かれたユリア。
あと一歩で二人の剣がユリアに届く。
『魔力全解放』
その瞬間に膨大な魔力がユリアから放たれる、その衝撃はソフィアとフランをその場から弾き飛ばす程に。
形成が逆転する。
バラバラに吹き飛ばされた二人、ユリアが最初に狙いを定めたのはフラン。
吹き飛ばされているフランにユリアが一足で追いつく。
ソフィアはそれを見て全力を使う。
『魔力全開放』
ユリアが刀をフランに向けるが大量の障壁がフランの周りに現れてフランを守る。
魔力を全てフランを守る障壁に送ったソフィアは無防備な状態。
フランに向けていたはずの剣が一瞬で長い距離を移動しソフィアに向けられていた。
ソフィアは納得して受け入れる、抵抗するすべがないからだ。
「瞬間移動、便利な能力ね」
ユリアは剣を振り抜くと、ソフィアの身体は光の粒子に変わった。
フランが立て直した瞬間にその全てが終わっていた。
あの状態で真っ先に負けていたのはフランのはずなのに何故ソフィアはフランを庇ったのか。
ユリアとフランの二人が残ったバトルフィールド。
そこでユリアが口を開く。
「義務だそうですよ」
突然のユリアの言葉にフランは疑問を覚える。
「ソフィアさんとはラグナロクで何度か戦った事があります。学園の生徒を守るのは学園の代表としての義務だそうです」
「ソフィアさん……」
フランは剣を構え直すと瞬時に戦闘を開始する。
戦闘を始めても、明らかにフランは押されていた。
ユリアはクレスを倒した相手、最初から油断なんて出来ない。その上、フランはソフィアを自分の不甲斐なさで敗北させたと思い身体に力が入る。
闇から闇に移動する瞬間移動のような動きにフランは翻弄され傷を負っていく。
闇の邪神フィリアが得意とした剣術。
生物以外の周りの全てを自分の色に染める精霊化の能力。
『
全てを圧倒されたフラン、傷を負いながら思い浮かべたのは。
『お兄様じゃなくてお兄ちゃんって甘えてもいいんだぞ、フラン』
限りなく妹を甘やかすクレスの姿だった。
『もうお兄様』
無理に入れていた力が急に抜けていくように感じて目を閉じる。
目を開くとフランの両目が金色に輝いていた。
『
「ここに来てですか……フィーリオンはやはり失うには惜しい所ですね」
『
初めて自分の意思で発動した能力。
自分の運を急激に上げ、相手の運を急激に下げる。
ユリアが動きを止めると膝をつく。
「何をしたのですか」
「運の操作です」
クレスと戦った時の疲労が急にユリアを襲う。
「私の勝ちですね」
フランは勝ちを確信して、魔力の全てをグランゼルに纏わせユリアに打ち込む。
だが。
『運が良くても爪が甘かったですね』
フランの足は地面に飲み込まれるように沈み、打ち込んだ剣はユリアの横を綺麗に通り過ぎていく。
倒れ込んでくる無防備なフランにユリアは肩を預ける。
「魔力切れみたいですね」
フランの意識はそのまま消えた。
「キュイ!」
アリアスは倒れ込んだフランの近くに降りると光になり消えていくフランと共にラグナロクのフィールドを後にした。
ユリアはその場で呟く。
「危なかったです」
ユリアの前に突然男が現れた。
『悪いんだけど、あんたはここで消えてくれるか』
「待ってたんですか? 気づいてましたけど」
『あぁ、ここには全ての出場者がいる、お前を皆んなで倒せば後は優勝だけだ』
森の中からゾロゾロと出場者が現れる。
「貴方達は幸運ですね、私は今最高に運が悪いらしいですので」
ユリアは刀を鞘に戻す。
『血統解放リミテッド・アビリティー』
黄金に輝くオーラを放つ黒剣を目の前に召喚して、それを杖にユリアは立ち上がる。
そして脳裏に浮かぶのは運命に抗った英雄の後ろ姿。
「貴方達を倒すのは運命に負けない力が必要みたいですね」
能力を発動する。
『スタイル【クレス・フィールド】』
ゾロゾロと出てきた出場者は雰囲気に圧倒され尻込みする。
『みんな! コイツはもうボロボロだ、やるなら今しかない!』
足をガクガクと震わせてる男はユリアの姿を見ながら意気揚々と声を上げる。
「こんなにボロボロなら、私だって相手にされるんですね」
初めて遭遇する逆境の筈なのに、何故かユリアは楽しそうに笑みを浮かべる……。
『手加減はできませんよ、かかってきなさい』
クレスのように。
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