勇者宣告
数百人は居るだろう生徒達に囲まれてからのユリアは圧巻だった。
俺が戦っていた時よりだいぶ動きが鈍いが生徒達の魔法を掻い潜り一人一人と切り伏せていく。
隣に座っていたリリアはそれをキラキラした目で見ていた。
ユリアが最後の一人を粒子に変えてラグナロクは終了を迎えた。
バトルフィールドのモニターが全て真っ暗になる。
俺はそれを見て一言呟く。
「終わったな」
「そうですね」
それにリリアが応える。
すぐさまアナウンスで優勝者の名前が上がって、次に一番成績を残していない学園が上げられた。
功績はポイントをどれだけ多く取ったかだが、ユリアが総取りなので他は累計ポイントで順位をつけられる。
もちろんフィーリオンが一番下だった。
どこか寂しそうなリリアを見て、俺がちゃんと力を使っていれば負けてなかったんじゃないかと思う。
また間違った選択をしているのか? 俺はいつも間違ってばかりだ。
後ろから声が聞こえてくる。
『ユリアちゃんって不思議な子だよね、僕にもリリアちゃんにも英雄君にだって雰囲気が似てる』
無視だ。
だがリリアは無視せずに振り返った。
「ユウカちゃん、どこにいたの?」
「まぁ、気になる人が居てね、特等席で見させてもらってたよ」
「ユウカちゃんが気になる人って誰かな?」
「もちろんクレス君だよ」
「でもクレス君もユリアさんに負けたみたいだよ」
「リリアちゃんに雰囲気が似てたから手加減したのかな? ねぇ、クレス君」
図星だよ。
だけど俺は応えない。
『あの子、本当にイレギュラーなんだよね』
ユウカが呟いた言葉は俺が抱いている違和感と酷使しているようだった。
ユリアが闘技場の真ん中に現れてアナウンスが流れる。
『それでは優勝者のユリアさん、願いを言ってください』
『私の願いは』
最強を願っていたユリアは、今からリリア達と戦うんだろうな。
『フィーリオン剣士学園に私を入学させてください』
えっ?
会場中がユリアの予想外の願いに一瞬静寂した。
だがその静寂も一人の人物にかき消される。
『話が違いますよユリア!』
黒髪イケメンが観客席から飛び降り、ユリアに近づいていく。
誰だ?
『光の勇者君だね』
俺の疑問を晴らすように後ろにいるユウカが応えてくれる。
イケメン勇者か腹立たしい。
昔あったことがあるが大人になっていてイケメンがイケメンを増しただけ。
イケメンには死を!
『何故なんだ!? 俺が剣の勇者なんかを超える程に強くしてやるって約束したじゃないか、ユリアにはその素質は充分にある』
イケメン君が必死にユリアを説得しているようだ。
なんかもめてるようだが、あんまり声が聞こえない。
「私はもう決めました、このラグナロクで私は自分の弱さがわかったのです。今からでもその方に師事を仰いでその人を超えたいと思います」
「そんな人物はいなかったじゃないか、今までのラグナロクと同じだ! ユリアが出場した大会のように圧勝してたよ」
「私でも底が見えない強さを持った人があの中には居ました。フィーリオン剣士学園に入りたいんです、もちろん優勝した人物が入るのですからフィーリオン剣士学園が無くなる事はないですよね」
「……その人物は誰だ」
「英雄様とは違いますけどクレスさんです」
「またその名前か忌々しい名前だ」
イケメン君が言葉を吐き捨てて、鞘から剣を引き抜くと頭上に掲げる。
そしてイケメン君は大声で叫ぶ。
『勇者宣告だ』
会場中が一気に慌ただしくなる。
『今からクレスと名乗る人物は俺と戦い勝負しろ、負けたらユリアの願いは無しだ』
勇者宣告? なにそれ。
「勇者宣告は一回だけしか使えないけど、神と同等の権限を持てる勇者にだけしか許されない力だね。これにはユリアちゃんも逆らえない」
そんなのあるの? ユウカが説明してくれるまで知らなかったんですけど。
「まぁ、誰もが知ってる常識だけど、英雄君なら知らなかったって言いそうだよね」
「お兄ちゃんなら言いそう」
ユウカとリリアが俺の無知を馬鹿にしながら笑っている。
知らなかったよ!
まぁ勇者宣告がなんだか知らないが俺が行く訳ないだろ。
『このままだとユリアちゃんのしたかった事……願いが無効になって光の勇者の理不尽が通っちゃうね、こういう事は誰が一番嫌ってると思う? リリアちゃん』
『お兄ちゃん、かな』
二人の視線が何故か俺を貫く。
『……ちょっと行ってくる、ユリアは何かほっとけないしな』
俺は観客席からラグナロクの闘技場に降りる。
『頑張って』
後ろから小さな声でリリアが声援を送ってくれた気がする。
とことん平穏とは縁がないな。
「君がクレスだね、迷惑なんだよ。ここで潔く負けを認めて帰ってくれるなら痛い思いはしないんだけどね」
「ユリアの事を考えてやれよ、勇者宣告とか使いやがってボコられる準備は出来てんのか?」
「名前だけじゃなく、性格も剣の勇者と似てるんだね君は」
イケメン君の周りに荒々しく魔力が吹き荒れる。
「俺は剣の勇者に負けてから強くなったでも超えられなかった……だがやっと剣の勇者を超えられる人物が見つかった、これでアイツに最強は俺だとか言われる事もないと思った矢先にコレだ!」
すごく根に持ってんじゃん。
「御託はいいからさっさとかかってこいよ、ユリアに負けた俺でよければな」
「そうなんだよ! お前ごときがユリアに勝てるわけないだろ、ユリアには剣の勇者を超えてもらわないといけないんだからな」
ユリアを道具みたいに扱われて何故か怒りが込み上げてくる。
白銀のオーラを全身に纏う光の勇者。
『魔力全開放』
光の勇者の魔力が爆発的に膨れ上がる。
これだから魔力持ちは嫌いなんだよ、一気にドーピングとかマジで笑えない。
戦った疲れが残ってるんだけど……ただ傷を治しただけだもんな。
ユリアは一言も発さずに、俺たちから離れた。
だが視線だけは俺を見つめて離さない。
またその目か……リリアと似た目で俺を見るんじゃねぇ。
……俺なんかに期待しても得なんかねぇぞ。
でも何故だろうな、期待に応えたいと思うのは。
『手加減してやるから、かかってこいよ』
ユリア、お前は不思議な奴だよ。
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