条件


 視界が暗転した瞬間にぱっと景色が入れ替わる。


 真っ暗な部屋の中央、そこだけがライトアップされているのか男と女がテーブルを囲んで椅子に座っているのが見えた。


 そして幼女が女の上に座っている。


 暗くてハッキリと顔まではわからないが、男女の区別ぐらいはつく。


 俺に気づいた女は振り返ると俺に言葉を投げかける。


『お前は誰だ?』


 ラグナロク会場じゃない? 他の空間か? ユリアと俺の戦いで時空が少し歪んでしまったみたいだな。


「悪いな、お前らが作った空間とラグナロクの空間が繋がったみたいだ」


「ラグナロク? ……もうそんな時期だったのか」


 女は口角を歪ませると俺の後ろを指さす。


 後ろを振り向くと微かに光が漏れている扉があった。


「その扉がこの空間の出入口だ、今ならまだ戻ることも容易いだろう」


「あぁ、助かる」


 俺は女達に感謝を述べるとすぐさま退室した。





 クレスが退室した空間で男が女に話しかける。


『おい、ベークいいのか? ラグナロクに参加してる程の生徒だぞ』


「魔力が身体から滲み出ていた、魔力コントロールも出来ない子供だ、それだけであの少年の実力はたいしたことないとわかるだろ?」


「まぁ、そうだな」


「服も身体もボロボロのあんな少年を捕まえて私達の計画が嗅ぎ付けられるよりも触れない方が安全だ」


「俺はあのガキを殺したくなっちまったけどな」


 男は殺気を隠そうともせずにクレスが去っていった扉を睨みつける。


「ティアが怖がるからやめろクズ」


 男は扉からふっと目線を逸らす。


『アイツはあの男と雰囲気が似ていた』


 男の目にその場にいない人物の後ろ姿が映り込んでいた。






 痛い痛い! めちゃくちゃ身体中が痛い。



『治療します、そこから動かないでくださいね』


『ありがとな、クロ』


 変な空間に飛ばされたし! クロが居なければ俺は詰んでたな。


『クロ、変な奴に殺気を向けられたからって魔力で威圧したらダメだろ』


『でも嫌な感じがしたので……』


 相手からしたら魔力コントロール出来ない奴って思われるかもな。


 ただクロは警戒してただけなんだけど。


 アレクが国同士で大事な話をする時なんか別の空間を作ってそこで話してたからアイツらも警戒するのはわかる。


 まぁそんな事は別にいいか。


 ゲートの前で精霊神のクロに治療されながら俺は負けた理由を考える。


 服を見ると至る所が破け、そこから血が流れている。


 コレが原因だろう、俺は血を流しすぎて強制退場させられたということだ。



『疑問なんですが、ユウ様は何故あの場で剣を止めたのですか? あのままユリアという強者を残すより、相打ちになる方がフィーリオンの勝利に近ずいたと思いますが』


『俺にはどうしてもユリアに剣を当てられなかった』


『結果的にユリアは無傷ですからね、リリアの雰囲気を纏っていたからかも知れません、今ではリリアはユウ様の最大の弱点ですから』


『リリアに怒られるかな』



 治療も終わりかけた頃に、リリアがやってきた。



「何があったのですか?」



 生徒の心配をしてるのかリリアはオロオロしながら言葉を投げかけてくる。



「負けたよ、完敗だ」


「クレス君をここまで出来るのはユリアさんですかね」



 リリアが状況を確認出来なかったのには理由がある、頭上に視線を送ると、モニター画面は真っ黒に染まっている。


 昼の休憩中には画面が映ることはない、その間に俺はユリアと戦っていたからだ。



「リリアはユリアを知っているのか?」


「はい、三年間連続でラグナロク優勝した人ですから」


「やっぱ強いのかアイツ」


「私がユリアさんと全力で戦っても負けるかもしれないですね」


「待て待て、でもアイツが優勝したら願いでもう戦ってるんじゃないか?」



 最強に拘ってる奴、俺ならリリアと戦わせてくれとか願うと思うんだが、この時代にはもう最強と呼ばれる存在がいるんだから。



「その事ですか、それにはユウカちゃんが関わってきます……私は教員としてユリアさんが初めて優勝した時に立ち会いました、あれは……」



 リリアは語る。





 ユリアがラグナロク優勝の時に願った。


『願いを言ってください』

 


「最強と言われる人と戦わせてください」



『願いを叶えましょう、ですが一人だけです』


 ユリアは考え込むと一人の名前を出す。


「ユウカ・サクラギさんでお願いします」


『わかりました』



 アナウンスが終わるとコロシアムの中央にいるユリアの前に光が集まり、それはすぐに収まる。


 そして黒い視線がユリアを射抜く。



『いきなり呼ばないでくれるかな、僕はこれでも忙しいんだよ』



「手合わせを願いたいです」


 ユウカは周りを見渡し納得すると。


「なるほど、ラグナロクの優勝景品にされた訳か」


 ユウカはユリアに向かって言葉を投げる。


「見逃してくれないかな?」


「それはどういうことですか!」


「君は僕と本気で戦いたいんだろ? 今、僕は大事な用事があってそれに備えてるんだ、今戦ってもすぐ負けを認めて僕は帰っちゃうよ」


「そ、それは困ります」


「だよね、だから条件を飲んでくれれば本気で戦ってあげるよ、それも最強と呼ばれる全員」


「条件を飲みましょう」



 ユリアはユウカの条件を聞かずに即答する。



「条件は君があと三回ラグナロクで優勝することだよ」


「わかりました、あと三回ですね」


「じゃあ僕は帰るからね」


 ユウカはすぐに自分で転移の魔法を使い帰っていった。





「そう言ってユウカちゃんは本当に帰っていきました、私達を巻き添えにして」


 ユウカがやりそうな事だな。


 そういえばユリアって目が離せないんだよな。


 なんでだろうか。



 考え込んでると黒いモニターが復活する。


 俺はフランを応援するためにリリアとコロシアム内から客席に移動した。


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