偽物



 俺はリリアの家を出てすぐにユウカとはぐれた。


「なぁユウカ、試験って何やるんだ?」


 俺が町並みを見ながらユウカに声をかける。



 全然返事がなかったのでユウカの方を見ると誰も居なかった。


 キョロキョロと辺りを見渡すが居ない。


「えっ? もうそろそろ時間なんだけど!?」


 俺は地図を取り出す。


 そして地図の通りに進む、だが地図が間違っているのか地図と合う場所が全然ない。



 何度目かの曲がり角を曲がった所でクロが声をかけてきた。


『ユウ様、地図逆ですよ』


 ……。


『時間がないので案内します、まず後ろに一直線に戻ってください』


 俺はクロの指示に従いながら道を進む。


 そして曲がり角を曲がるとフィーリオン剣士学園が見えた。


 やっとだよ!


「やっとついた! 合ってるよな! いやマジでこの地図どうなってんだよ、全然つかない。なんで間違ってる事をお前は言ってくれないだよ! 絶対笑ってただろ!」


 もう時間ギリギリだよ、絶対!


「案内するなら最初からやってくれよ」


『すいません、ユウ様。ですがユウカとはぐれたのはユウ様ですよ』


「ぐっ! まぁアイツと途中ではぐれたのは俺だけど……あっ!」


 あれフランとリリアじゃね!


 俺は気づかれないように堂々とした足取りでフィーリオン剣士学園の門を潜る。


「待ってください」


 なんで俺に声かけてくんの? 俺の演技は完璧なはず!


「貴方名前は?」


 俺はリリア達の方を見ない。


 名前を聞くってことは、ば、ばれてない。


 あ、焦るな、深呼吸して。


 よし、落ち着いた。



『クレスです』



 偽名使えばよかった! 言った後に気づいたわ! いやでも……焦って本名喋っちゃった。


「え、え~と……試験に遅れるので!」


 逃げるのがいいな!


「ま、待って!」


 俺はリリアの声に振り向くことなく走った。




 コロシアムについた俺は入学試験の列に並ぶ。


 広いコロシアムが埋まるぐらいに人が居た。


 どうやって試験をするんだろうか。


 それにしても……。


『あ、あぶね~』


『リリアは少し警戒した方が良さそうですね……と言うか別にばれても良いじゃないですか?』


『照れくさいんだよ、あとでリリアに真実を言おうかな』


『いえ、隠すのも手かと思います』


『はっ?』


『フランに聞かれたらどうするんです? ここに来たのはフランの手助けの為ですよね、リリアの教師姿もみたいのでしょうけど』


『まぁな』


『でしたらリリアのお兄様だとフランが気づいたらフランは頼る人が居なくなります』


 クロの予想は一番確率は低いだろう。


 フランがその場で血が繋がってなくても俺を家族と思ってくれればいいからだ。


『血が繋がっていなくてもフランはユウ様の家族です、家族思いなユウ様はフランが受け入れる年齢になるまで隠す必要があると思います』


 フランはまだ九歳だ。


 家族の絆は築けてきたとは思うが真実を言うのは早いのかもな。


『わかった、リリアには悪いがフランの為にも隠すことにする』


『少しホッとしてませんか?』


 ギクッ!


『誰も居ない所にリリアを呼び出して訳を話してあげれば黙って貰える筈ですからね』


『……』


『ですが、誰にも聞かれないと保証も出来ないので私達の心の中で時が来るまで黙っていましょう』


 実際リリアに話すのは本当に照れくさい。


 こういうのは勢いだとは思うが、リリアは俺が帰ってきて泣くだろうか、喜ぶだろうか。


 それとも。




 リリアの家で俺は玄関にいる。


 今、リリア (仮)と対面している。


『貴方誰ですか?』


『お兄ちゃんだよ~』


『チッ! なんで帰ってきたんですか?』


 今舌打ちした!


『え、え~と、今まで心配かけてすいません』


 俺は精一杯頭を下げる。


『今から私、彼氏の所に遊びに行くから留守番よろ』


 そんな俺をリリア (仮)は無視すると俺を通りすぎ玄関の扉を開ける。


『お兄ちゃん許しませんからね! 遊びに行くなら門限は六時です』


『突然帰ってきて兄貴面しないでくれる? うざいんだけど』


 本当に嫌そうな顔で俺に言葉を吐き捨てるリリア (仮)の姿がそこにはあった。




 グハッ!


 俺は精神的な大ダメージを受けてしまった。


 血を吐きながら倒れる。



『そのリリアは誰なんですか? 本物と全然違うじゃないですか』


『本物を使うとイメージだけで死にかねないから偽物を使いました』


『それと余り変なリアクションしない方が良いですよ、周りの視線が痛いです』


 俺は周りを見ると全員が血を吐きながら倒れた俺を見ていた。



 そんな俺の後ろからフランの声がした。


「あの大丈夫ですか? クレスさん」


 さっきの自己紹介を聞いていたか。


「大丈夫だ、お前はさっき門の前に居たな」


「はい、フランです……よろしくお願いします」


 倒れてる俺に微笑みながら手を伸ばしてくれるフラン。


 良い妹だ!


「ありがとう」


 俺は手を取り立ち上がる。



『それでは試験を行います、皆さん準備をしてください』


 アナウンスがコロシアムに流れる。


「準備って?」


「クレスさん、パンフレット見てないんですか? 来ますよ!」


 えっ?


 周りは全員オーラルを纏う。


『なんだか分かんないんだが、クロ頼む!』


『任せてください』


 俺は黒銀のオーラルを纏う。


 一瞬の光と共に魔力の衝撃波が俺を襲う。



 衝撃波が通りすぎる度に飛ばされそうになる。


 飛んでいった奴もいた。


 まともに食らったらヤバい奴だ!。


 何発かの衝撃波が通りすぎると。


 周りがバタバタと倒れ出した。


『リリアは少し加減を間違えてしまったみたいですね、試験にしては強力すぎます』


 リリアは張り切る所があるからな。


 待てよ……これリリアの魔法なのかよ。


『倒れた人を運び出します、立っている人はそのままで待機してください』


 アナウンスが流れると魔法で倒れている人達が空中に浮いてそのまま出口に運ばれていった。


 フランはギリギリ無事だったみたいだ。


 俺の後ろに居たからな、それもたぶん関係していると思う。




 倒れた奴等が全員退場するとリリアが入場口から現れる。


 コロシアムの真ん中にリリアは悠然と立つと声を出す。


「それじゃあ私が今から新入生の適正を見ていきます」


 皆んなの視線を受けて堂々と言い放つリリア。


「この場で私を倒せたら学園の強制権を一つ使う事が可能になるので皆んなは頑張って私を倒してくださいね」


 俺はリリアの成長っぷりに感動していた。


「あまり本気を出すと相手にならないので」


 リリアは何故かさっきから俺の方を見てるんだけど……。



『手加減してあげるから全力でかかってきなさい』



 それ俺の奴!


 この後マジでどうすっかな~。


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