最凶な妹と最強な精霊の姫
英雄
私が英雄を初めて見た瞬間は世界が滅ぶだろうと皆が絶望の目をしている時だった。
空は汚れたように黒く染まり、大地は怯えるように震える。
皆の不安を察したかのように空が明るく照らし出され、その場の人達は私も含めて空を見上げる。
そこには空を切り取ったようにスクリーンが展開されていて映像が流れていた。
見たこともないように何もない場所。
空と大地が永遠に続いていくようなそんな場所で不気味な微笑み、見るもの全てを恐怖に陥れるような微笑みを顔に張り付けている黒髪の男。
纏っている虹色のオーラが魔力の桁が違うことを証明するかのようにその人物から絶え間無く流れ出る。
皆が知ってるラグナロクで倒されたはずの剣の勇者。
明日になったら全部夢だったんじゃないかという微かな希望も見えない。
絶望を身に纏ったような剣の勇者に抗うように相対する人物は一歩も退かない。
その人物の諦めを知らないかのような瞳に自然と私は、私達はその人物に目を奪われていた。
クルクルと回る精霊の光がその人物を照らす。
『俺が剣の勇者だ! 今から俺が世界を救ってやるよ』
黒髪黒目とは違う、銀髪蒼目の人物が剣の勇者を前に自らが剣の勇者と名乗ったのだ。
その人物の手には剣の勇者を象徴する金色に煌めくオーラを纏った黒剣が握られていた。
辺りを見回すと見る人達全員、絶望に塗りつぶされた瞳に希望の光が現れる。
私もたぶんその中の一人だったと思う。
私には銀髪蒼目の少年が英雄に見えた。
絶望を希望に変える英雄に。
英雄の身体から深紅のオーラが滲み出ると。
パリンと黒剣が壊れる。
私の話を遮るように娘が話しかけてきた。
「剣の勇者様の黒剣は壊れないんじゃないの?」
「ふふ、そうね」
私は娘に相槌を打って話し出す。
壊れない筈の剣が容易く壊れた。
なぜ?
その瞬間に無数の黒剣が次々と剣の勇者を囲むように出現していく。
キラキラと黒剣が粒子に変わる音と共に赤と金色と虹色の光の線が引かれていく。
二人の戦闘は私達の目には見えない。
「それから、それから!」
「そうね~」
ふっと姿を現した英雄は黒剣ではなく透明な剣を持ちながら立っている。
白銀のオーラと深紅のオーラが混じりあった英雄の姿はボロボロになっていた。
それは剣の勇者も一緒。
先程までの余裕の笑みは消え去り、空中に浮遊していた黒剣がそんな剣の勇者に向かって飛んでいく。
それをギリギリで防いでいる剣の勇者。
英雄はゆっくりと近づいて行くと。
透明な剣を高々と掲げ、剣の勇者に振り下ろす。
剣の勇者の絶叫と共にスクリーンからの映像が途切れる。
一瞬の静寂。
空を見上げると先程までとは比べ物にならないくらいの晴天になり。
大地も安心して眠るように震えが止まる。
ふつふつと助かったという事実だけが私達の中に沸き起こる。
辺りはそれを自覚したかのように叫び、私も声を出して助かったという事実を噛み締めたわ。
「お母様、それで! どうなったの?」
「剣の勇者様の事?」
「そう! どこにいるの?」
「それは誰も知らないのよ、もしも現れるとしたら」
「したら~」
『私達がもしピンチになったら剣の勇者様が助けに来てくれるから』
私の好きな物語『剣の勇者の英雄章』
お母様が寝るときに聞かせてくれた物語。
私は飽きもせずに剣の勇者の今までの物語を聞いていた。
『そう、お母様が剣の勇者に殺されるまでは……』
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