天才な妹と最強な元勇者
お兄ちゃんが消えてもう十年の月日が流れた。
時々お兄ちゃんの声が聞こえる気がする。
今日はやっと私が企画した案が採用される日だ。
周りの常識や意見を変えるのがこんなに時間がかかることだって初めて知ったような気がした。
お兄ちゃんも喜んでくれるかな。
『魔物が攻めてきました、フィーリオンに居られる剣聖様は魔物の討伐をお願いします』
大事な日なのに魔物の襲来ってついてないなと思いながらも私は送られてくる情報を頼りにフィーリオンの門を出て、魔物のいる方角に足を向ける。
『ギグァァァ!』
声にならないような音が辺りに響く。
木々を倒しながら進んでくる群れを確認。
「アオイちゃん、お願いします」
『なんでいつも私なのよ』
水の精霊神のアオイちゃんは私に文句を言いながらも召喚に応じてくれる。
『ウォーターライン』
魔物の群れに突っ込んでいく私の横をアオイちゃんが放った水の線を二本追いかけて来る、それは魔物達の逃げ場を制限するように放たれた魔法だ。
『天空の光よ、私に力を貸して』
透明な剣を召喚して魔物に斬りかかる。
私が見上げる程までにデカイ魔物。
たぶん神級だろうか、油断は出来ない。
「殲滅するよ!」
私の声に反応したアオイちゃんは私が魔物達と距離を取ると左隣に来る。
『水と光の貫く雨よ、洗い流すのは穢れ』
神改複合殲滅魔法。
アオイちゃんと私の魔力が溶け合う。
『シャイニング・レイン』
降り注ぐ光輝く雨に魔物達は貫かれて魔法石になっていく。
「ありがとね、アオイちゃん」
今回も無難に魔物の驚異から国を守る事が出来た。
『最後まで油断したらダメだぞリリア』
お兄ちゃんの声に反応してその場から距離を取る。
私がさっきまで居た場所に爆発が起きクレーターが出来上がった。
「ほう、あれを避けるか」
明らかに魔物と桁が違う魔力のプレッシャーに後退する。
「魔王ですか、なんでこんなところに居るのですか?」
「天才の魔法剣士または精霊の姫と呼ばれる剣聖と一度手合わせがしたかったからな」
黒い鎧を着込んだ騎士、低い声には挑発の色が見える。
「アオイちゃん、勝てるかな」
「ギリギリだと思う」
それじゃあ
制限時間内に倒さないと。
「お願い!」
アオイちゃんは青い光になり私の中に入ってくる。
蒼の瞳は明るい青い瞳に変わり青のオーラルを纏う。
「今まで攻めてきた魔王を倒した噂の限定精霊化か」
今の私に魔王と話している時間はない。
『リミット・オーバー』
黒銀のオーラルを纏った魔王が何かの能力を発動した。
私の動きが止まり、身体の力が抜け膝を地面につける。
「クハ、ハハハ」
挑発的な笑い。
私の中からアオイちゃんが弾き出される。
「俺様の
私の切り札の弱点をついたかの能力。
油断した。
「俺様が精霊の姫を初めて倒した魔王だ!」
限定精霊化を使える制限時間は十分、それを過ぎると私は気絶する。
一歩一歩と近づいてくる魔王。
今日は大事な日なのに。
意識が朦朧とする中で、魔王の高笑いが聞こえる。
『なんだ! 貴様は!』
『俺か? 俺はな……』
私は意識を手放した。
「ん~」
「やっと起きましたか」
私はフィーリオンにある私の家で寝ていたようだ。
何故か嬉しそうなアオイちゃんが私を家まで運んで来てくれたらしい。
魔王はアオイちゃんが一人で倒したと話してくれた。
精霊神が本気を出せば簡単だって、嘘だよね? でも魔王を倒すってそれしか考えられない。
ユウカちゃんもフィリアちゃんもミミリアちゃんだって今はこの国に居ないし。
「そんな深く考えてはダメですよ、今日は大事な日じゃないですか?」
時計をみればもう始まる時間だ。
「アオイちゃんありがとね!」
私はアオイちゃんに見送られながら家を出る。
今日はフィーリオン剣士学園の入学式。
学園を卒業した後は教師になってこの提案を進めていた。在学中にもその活動は進めていたから十年もかかってしまった。
私が提案した企画は魔力量がない人でも試験をクリアしたら入れるようにすること。
最近は若い人でも才能があれば年齢不問で入学出来たりする。
昔とは変わったな~。
「ねぇ、お姉さん」
急いでる私を呼び止める人物が居た。
何処かで聞いたことがあるような声だけど何処で聞いたか思い出せない。
フィーリオンのパンフレットを持ってる美形な男の子だ。
「何かな?」
「フィーリオン剣士学園って何処だっけ? 地図ではたぶんこの辺りなんだけど」
その男の子は地図を逆さまで持ちながら訪ねてきた。
「あっちかな」
男の子の指差した方向は真逆だけど。
「私も今からそこに行くの」
「ふ~ん」
「連れていってあげようか?」
「お願いします」
その男の子は律儀に頭を下げる。
可愛い!
「きゅい!」
男の子の背負っているリュックから黒いチビドラゴンが顔を出して、男の子の肩の上に乗る。
その光景に既視感を覚える。
その男の子は銀髪の髪に蒼の瞳。
なんで忘れていたんだろう。
まさか、まさかだよね。
「お兄ちゃん?」
男の子は一瞬ビックリする顔をしながら。
見覚えのある優しい笑顔で微笑む。
『 』
一陣の風が男の子の声を拐う。
それは再開なのか。
それは新たな出合いなのか。
私がずっとこの時を待っていたのは間違いない。
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