プレートに込められた想い




 フィーリオンの門を潜って数分後に俺はユウカから逃げる策を思い付いた。


「ちょっ、ちょっと待てユウカ」


「何かな?」


「俺達はギルドで報酬を受け取りに行かなくてはならない、なっ! トウマ」


「……そうだな」


「キュイ!」


 トウマとアリアスも俺に同意する。


「そうかい? じゃあギルドに行こう!」


 俺達はギルドに行くことにした。



「トウマの能力って強奪だよな? チート過ぎないか? 今では勇者のチートスキル全部持ってんじゃん」


「チートか……俺もそう思ってたよ、クレスと会うまでは」


「でも奪った能力の五割ぐらいかな? 使えて八割って所だね」


「なんでわかった」


 トウマはユウカの答えに驚く。


「最初から分かっていたさ、僕の能力は直感だからね」


「やっぱりユウカの能力ってチートだよな」


「それほどでもあるね!」


 自慢気にない胸を張るユウカ。


 すぐにギルドについた。




 俺達はギルドの門を潜る。


「……なんでついてくる?」


「逃げないか心配でね」


 受付に向かうと。


「ユウカ様! この度はありがとうございました」


 ユウカを見てお姉さんが凄い勢いで感謝を示した。


「いいよ~」


 それをのほほんと返すユウカ。


「お姉さん緊急クエストの依頼の報酬貰いにきたよ」


 お姉さんは俺を見るとホッとした顔をした後にピクピクと眉が動かして鬼のように鋭い目付きなる。


「まさか貴方も行ったのですか?」


「ト、トウマが居たから大丈夫でした!」


 先程の怖い顔が嘘のように嬉しそうな顔をしながら「トウマ様さすがです!」とお姉さんが続ける。


「ちょっと疑問なんですが、冒険者はなんで緊急クエストに全然参加してないんですか? 普通は強制参加ですよね?」


「はい、今フィーリオンには中級以上を相手に出来る冒険者が居ません、今も」


 お姉さんは周りを指すと俺達以外誰もいない。


「逃げたのか?」


「はい、国の為に命を投げ出す冒険者は居ませんよ、でもクレス君には驚きました。あんなに忠告したのに」


 評価が上がったようだ! ガキから名前に変更されている。


「クレス君、トウマ様、こちらの部屋に」



 俺達は違う部屋に移った。俺達以外に誰も居ないから心配ないが冒険者同士でゴタゴタしない為の配慮だ。


 ユウカは関係ないのでその場で待ってもらった。


『逃げないよね?』


『どうやって逃げるんだよ』


『じゃあもし逃げたら何でも言うことを聞いてよ!』


『いいぜ!』


 離れるのにも一苦労だ。




「それではクレス君、トウマ様、プレートと魔法石を提示してください。クレス君のプレートは中級のネームプレートになりますからね」


 おぉ、やっとネームレスからおさらばだ!


 俺達はプレートと魔法石をお姉さんに渡す。


「すいません、俺のは……」


 トウマはお姉さんに顔を近づけて何かお願いをしてるみたいだ。


 お姉さんの顔が赤くなってるぞ、イケメン野郎気づけ!



 少し待たされた後に。


「報酬は食い止めと依頼完了でどちらにも二プラチナです。中級の魔物二十九体、上級六体ですね、合計で八プラチナと九十ゴールドです。トウマ様のお願いでクレス君と半分になります、本当は全てトウマ様の物なんですよ」


 それで顔を近づけていたのか。


 トウマはお姉さんから貰ったプレートを大事そうに首にかける。


 大金だしな! 気持ちはわかる!


 俺とトウマのプレートには『645万円』も入っている。


 俺もクレス・フィールドと黒で書かれているシルバープレートを首にかける。


 身分証明で辛い思いをしなくて良くなるのは素直に嬉しかった。




 そして俺は部屋のドアに鍵をかける。


 ドンドンと扉を叩く音が聞こえるが無視だ。


「トウマ、テレポートだ!」


「どういう事だ?」


 トウマは疑問を口にする。


「ユウカから逃げるんだよ! 今は金もあるし身分にも困らない、飯が旨い所がいいな」


「クレスが言うならやるが、本当にいいのか? リリアもこの国にいるんだぞ」


「いい! リリアなら心配ない、周りには勇者や元邪神までいるんだぞ」


 俺の言葉にトウマは頷く。


『テレポート』


 瞬間に扉が弾け飛ぶ。



『約束は絶対守って貰うからね!』


 虹色のオーラを纏ったユウカが俺の懐に瞬時に飛び込んで来た。





 ユウカはクレスの服を掴もうとしたがその手は空を切る。


『逃げることぐらい分かってたよ、クレス君がいたら楽だったのにな』


 ユウカは寂しそうに呟いた。





「あっぶねぇ~」


「ギリギリだったな」


 神化使ってたよ! どんだけ捕まえるのに必死なんだよ!


「ここは?」


「ワーグナリアだ」


 俺の頬に潮風が当たる。


 見下ろすと海の近くに港町が栄えている。


「この国は海の幸が旨いぞ」


 国なのか!


 ぐ~と腹の虫が鳴る、昨日から何も食べてないので当然だ。


「食べて食べて食べまくるぞ!」


「キュイ!」





 フィーリオンに迫った魔物の群れ、それが序章だとはユウカ以外気づけてなかった。



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