先生




『俺の力を見せつけに行くんだよ!』



 ユウカはやれやれと首をふる。


 カッコいいお兄ちゃんを見せつけてやろうじゃねぇか!


神化しんか


 後ろで魔力の爆発的な高まりを感じた。


 俺の横を瞬時に抜き去っていくユウカ。


「クレス君には悪いけど、ここは僕が貰うことにするよ」


 俺に余裕の笑みを見せつけながらリリア達の所に行くユウカ。





「ユウカちゃん!」


 リリアは今まで居なかった人物に驚きを見せる。



『天空の光よ、僕に力を』



 ユウカの手に虹色のオーラルを纏った半透明の剣が姿を現す。


「悪いね、すぐに終わらせるよ」


 ユウカは中級や上級の魔物を一撃で沈めていった。




 活躍が全然なかった俺は魔物が消えた後に残された魔法石を拾い集める作業に移動する。


「おい、お前! 俺達の魔法石を横取りか?」


 赤髪が俺に突っかかって来た。


「お前何匹倒したか数えてるか?」


「三十五匹倒したぞ!」


 なるほど学園側が倒した数か、トウマは一匹も倒してないしな。


「なんで君が偉そうなんだい? 僕が全部倒したから魔法石は僕の物だよね?」


「どうせ俺達は食い止めるだけで金を貰えるからな、魔法石はただ集めてるだけだ」


 あとで返そうと思ってたぞ! ホントだぞ!


「いや、僕はいらないよ、冒険者さんに全部あげるよ」


 ユウカは俺達にくれるようだ。


「はっ? なんでだよ! 俺達は戦ってコイツらは見てただけだよな!」


 赤髪は俺を睨み付けながらユウカに訴える。


 俺の事が気にくわないらしいな。


「君はわかってないね、そこの二人は食い止めてたんだよ? あの魔物の群れを、僕達が魔法石まで取ったら横取りしたみたいじゃないか」


「ぐっ! そんな魔法石なんかどうせ要らないからな!」


 ラッキーだな! 金なかったし。


「リリアちゃんもアクア君もいいよね?」


「はい」


 アクアはユウカに同意する。



『私は嫌です』



 リリアは否定する。


「なんでだい?」


「私は食い止めていただいていた冒険者の方にはそれでいいと思います」


 リリアはですが、と続ける。


「そこの冒険者の方はフレイル君が言っていたように見てただけじゃないですか!」


 お、俺がリリアに責められる日が来るとは……泣きそうなんですが。


「じゃあリリアちゃんは魔力がまったくないのに無謀を承知で突っ込んで犠牲になれば良かったと言ってるのかな?」


「そ、それは」


「そこの冒険者はね、もし魔物が抜けて来た時は命を張ってこの国を守ろうと敢えて残ってたんだよ?」


 物は言いようだな。


「そうですか……私が間違ってました。フレイル君、アクア君行きましょう」


 リリアは俺を睨み付けるとフィーリオンに帰っていった。


 なんか俺、リリアに嫌われた!




「嫌われちゃったね~」


 ユウカが俺にトドメを刺した。


「ぐはっ!」


 まじか!


「俺達だけしかクエスト受けてなかったとか冒険者達はビビりばっかりなのか?」


「中級以上の魔物はさっきも言ったがそれだけ危険なんだよ」


 トウマは俺の疑問に答えてくれる。


「そう言えば何でアリアスを見て皆んな驚かないんだ?」


「キュイ」


「それはね!」


 ユウカが親切に教えてくれた。




 まず女神の魔法により世界に変化が起きた。


 大量召喚された劣化勇者は最初からこの異世界で暮らしていたという記憶になっているのだ。


「つまり元の世界の事を忘れているという訳か? でもアリアスとは関係ないような」


「僕も最初は驚いたんだ、元ゲーマー達が記憶は無くなっているけどこの世界に暮らしていたことになってるんだよ」


「ふむふむ、その中の誰かが魔物を使役する方法をゲームで培ってきた勘を生かして編み出したという訳か?」


「あながち正解! ドラゴンは卵の状態から育てれば難易度の低い魔物なんだよ。闇の勇者を召喚した国、ダークシャドウ王国はドラゴンを使役してその卵はメチャクチャ売れてるらしいよ」


「じゃあドラゴンは今じゃそんなに珍しくないのか?」


「珍しくないね。人に育てられたドラゴンは野良より戦闘力は格段に弱いらしいけど強くて中級の魔物ぐらいの力にはなるらしいよ」


「そんな事よりもリリアに嫌われた事が俺の中では重要なんだが!」


 もう俺は生きていけないかもしれない。


「ちょっとリリアちゃん絡みでクレス君を探してたんだよね」


 リリア絡みだと? 聞くしかないな!


「僕達がトウマ君を倒したらクレス君を学園に入学させる事を王様に頼んでたんだよね。そして女神様が操作したことによって僕が願ったのが違う形で反映してるんだよ」


「どういう事だ?」



『クレス君、フィーリオン剣士学園の先生になってみる気はないかい?』



 平穏が遠くなりそうだが、リリアと一緒に居られるようになる提案だ。


 考える必要はないだろ。







「遠慮しときます!」


「よし、そうと決まれば行こうか! トウマ君も一緒にね」


 ユウカは俺の腕を掴むとグイグイと引っ張る。


 力強すぎる!


「は、離せぇ~!」


「俺はクレスと一緒ならどこでも着いていくぞ」


 トウマのシモベとしての気持ちは嬉しいが。



『俺は影から見守るだけでいいんだぁぁぁ!』



 俺の叫びをユウカはスルーしてフィーリオンの門を潜るのだった。


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