王命





「もう召喚されて655年ぐらい経つな~」


 ぶつぶつと呟く人物は今、メディアル王国でぶらぶらと道を歩いていた。


「ッ!」


 そこでふと、すれ違った人物に目が釘付けになった。


「ちょっ、ちょっとまって!」


 釘付けになった人物を反射的に呼び止める。


「なんですか?」


 唐突にその言葉は喉から出てきた。


「一目惚れしました! 付き合ってください!」


「嫌です」


「ッ!」


 のちに最も狂った勇者と言われるトウマ・キノシタはその言葉に膝をつく。


「タイプじゃないのでごめんなさい」


 告白を断られていた。


「と、友達からでもいいので!」


 トウマはそれでも食い下がる。


「それならいいかな?」


「よっしゃぁぁぁぁ!」


 トウマはガッツポーズを取りながら喜びを最大限に表す。


「私の名前はリリア・フィールド」


「俺の名前は……」


「知ってるよ、世界を救ったトウマ・キノシタさんですよね」


 リリアはニコリと微笑む。


「あぁ」


 トウマはその笑顔にやられ、何も言えなくなってしまった。








「リリア! 見てろよ」


 トウマは両手を前につき出す。


 勇者なトウマは忙しいなかでもメディアルに通ってリリアの評価を上げようと努力していた。


『シャイニング・フレア』


 光の神級魔法を無詠唱で唱えるトウマ。


「スゴい!」


 リリアは両手を叩きながら喜んでいた。


「これもチート? とかいう能力で作ったのですか?」


「無詠唱は能力だが、魔法はちゃんと勉強して魔法書とか読みまくった!」


 リリアに見せる魔法は全て努力して培った物だ。


「本当にスゴい!」


「リリアに能力に頼るのはダメだと言われたからな」


「はい! そうですね!」


 リリアもトウマを尊敬し、二人の距離は段々と近づきつつあった。





「リリア来たぞ~」


 トウマがメディアルにあるリリアの家に行くと。


「……」


 リリアの両親がトウマを迎え入れ、ベッドに横たわるリリアの姿を目撃する。


「なにが、あったんだ!?」


 死んだ様に眠るリリアを見て、トウマは言葉を忘れる。


「それがですね」


 リリアの母親が泣きながらトウマに告げる。





「リリア・フィールド! 王命です」


 兵士がリリアに向けて王国の印がついた手紙を見せる。


『我、アルバ・オルバ・メディアルはそなたの功績を……』


 訳すと、お前は素晴らしいと息子が気に入ったから嫁に来いということだ。


「嫌です!」


 リリアは頑なに拒んだ。


「何故自分から来ないのですか? 兵士の人達を寄越して!」


 リリアは断りの手紙を書き、兵士に渡した。



 その次の日。


「リリア・フィールド! お前は自分の立場がわかっているのか!」


 リリアの家に脂? 汗まみれのデップリと太った王子が来た。


「貴様がこの国にいられるのも僕の……王国のおかげだぞ!」


「王国のおかげですか? 次の国の王様はとんだ愚王ですね、民を蔑ろにする王が国を治められると本気で思っているのですか!」


 リリアは頑なに意志を曲げない。


「私の功績は時に王命をも凌ぎます」


 リリアはメディアルでは屈指の魔法剣士だ。


 それ相応の功績、国を何度も魔物や魔族から救っている。


「ぐぬぬ」


 何も言い返せない王子。




「それに私には好きな人がいます」


 リリアは頬を朱に染めて遠くを見つめる。


「僕の嫁にならないのか? なら! 最終手段だ!」


 王子が懐から小瓶を取り出す。


「何ですかそれは?」


 王子の魔力の高まりを感じ、リリアは構える。


 リリアも油断していた訳じゃない。


『グラビエール』


「身体が!」


 リリアの身体が鎖に縛られたように動かなくなる。


「僕の能力は重力魔法を無詠唱で唱えられることさ」


 王子が近づき。


「最後の忠告だ、僕の嫁になる気はある?」


「そうですね」


 王子がニヤニヤと笑みを見せる。


「お断りです」


「ッ!」


 王子は小瓶を開け。


 動かないリリアの顔に小瓶を近づけると、その場でリリアが倒れる。



『後悔しろよ! 僕に逆らうなら皆んなこうなる、つれていけ!』



 王子は兵士にリリアを連れて行けと命令する。


「お願いします、やめてください!」


 母親がリリアを抱きかかえ頭を下げる。


 それも何度も何度も。


 人の群れが出来上がってた事に王子も気づいたのか。


「チッ!」


 王子はデップリと太った腹を摩りながら帰っていった。




「王子か……」


 トウマは立ち上がる。


「心配するな、俺がリリアを元気な姿に必ずしてやる!」


 トウマは泣いている母親に優しい言葉をかけてリリアの家から出ていった。


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