エンゲージ
「俺も混ぜてくれよ、最強の勇者さん」
クレスはソーダを守りながら最狂に言い放つ。
シロとクロは立ち上がり、クレスの両隣に来ると。
「本当に心配しましたよユウ様、シロは普段は照れてユウ様の事を主様と呼んでるのに熱くなったり、へこんだりするとユウ様ユウ様と煩いんですよ」
「クロ! それは言ったらダメです!」
「……元気そうでよかったよ」
ユウカが呟く。
「お兄ちゃん!」
リリアが叫ぶ。
『すぐ終わらせるからな』
クレスは一言リリアに言うと最狂に視線を戻し真剣な表情を作る。
「シロ」
「はい主様」
フィリアとユウカの周りに白銀の光が現れ。
『テレポート』
フィリアとユウカはリリアの隣に転移させられる。
「ソーダ?」
ソーダが光輝くと人の形になる。
「ユウ様」
「えっ? ソーダってアリアスだったのか!」
クレスも驚きの声を出す。
「あの重症をこの短時間に治すとは、さすがですね」
女神はすでにリリア達の隣に立っている。
「お前は戦えよ!」
「私に死ねと?」
クレスの声に女神は返す。
「ユウ君はどうせ……一人で戦うんでしょ」
「そうだな……一人で戦う、お前らは俺の後ろに……」
クレスは一歩前に進むと。
「おい!」
クレスの隣にアリアスが立つ。
「ユウ様は隣に誰かがいないとすぐ手を抜きますからね」
「最狂の魔力を浴びてビビってる奴に言われたくないがな」
アリアスの身体はガクガクと震えている。
「魔法の維持で精一杯な奴なんか足手纏いだ」
「そうですね、でも」
アリアスはそんなクレスに向かって微笑む。
『守ってくれますよね』
「勝手にしろ」
「はい」
クレスもアリアスにつられ笑みを見せる。
『お兄ちゃん……』
リリアはクレスとアリアスを見て、胸にチクリと痛みを感じる。
学園に入学した時、ミミリアから言われた『剣の勇者の隣には誰も立てない』の本当の意味が理解出来たからかも知れない。
それは自分以外、剣の勇者の隣は誰にも渡さないというアリアスの決意の言葉。
リリアはアリアスには敵わないと思ってしまった。
「私達に心配させる人族はユウ様だけですよ」
「アオイか?」
精霊神アオイの声と共に。
四つの赤、青、緑、黄色の柱がクレスの周りに現れる。
「ユウ君~」
アカメがクレスに抱きつく。
「よかったです」
ミドリはクレスに言葉をかけ。
「心配したよ~」
ハナもクレスに抱きつく。
「お、おい! なんで来たんだ?」
「もちろん……」
アオイが前に出る。
『『『一緒に戦う為ですよ』』』
「はぁ、お前ら俺の言うことは……」
クレスのため息を吐いて言う言葉は遮られる。
「聞かないですね!」
アオイは平たい胸を自慢気に張る。
「なら力を貸してくれ」
「「「はい!」」」
精霊神達は一斉に声を出す。
「俺を忘れてんじゃねぇぇぇ!」
最狂が叫ぶ。
「忘れてた!」
クレスがさらに叫ぶ。
「調子に乗るなぁぁぁ! そうだよ、そうだ! その女は今、魔法が使えないんだよな!」
アリアスを指差しニタリと笑う最狂。
「あれを使う気か」
クレスは最狂が何をしようとしてるかがわかる。
『俺はずっと思ってたんだよ、これをしたらお前達を縛ることになるんじゃないかって』
クレスが呟く。
『私達はずっと待っていましたよ』
クロの言葉に精霊神達は頷く。
「その女の力がなかったら、このスキルは無敵!」
精霊達に最狂は手を向ける。
『精霊の恩恵』
シロとクロ以外の精霊達が『精霊の恩恵』に耐える。
「逆らっても無駄なんだよ!」
クレスは左手を前に出す。
「ん? 何をする気だ!」
これは魔法じゃなく、精霊との盟約。
『精霊に捧げる物は何もない』
『『『……』』』
魔力を代価に契約する方法。
クレスには魔力がない。
『それなら俺の一生を捧げよう』
『『『ッ!』』』
精霊神達は一斉に顔を紅くする。
『エンゲージ・リンク』
『『『……はい、汝の声に応えましょう』』』
『ありがとう』
クレスと精霊達の下に魔法陣が現れる。
魔法陣からクレスと精霊達の交わる魔力が溢れ出ると、その魔力はクレスと精霊神の左手の薬指に纏わりつき銀色のリングの形に変わる。
パンッと弾けたような音と共に『精霊の恩恵』が弾かれる。
「ぐっ! 弾かれただと!」
契約を確認してクレスは左手を下げる。
「精霊の恩恵は契約した精霊には効かないんだよ」
「なぜお前がそんなことを知っている!」
「簡単だ、俺と精霊神達の絆がそんなもんで砕けるはずないだろ?」
「そんな奴等の力なんかもういらない! 俺は前より数十倍も強いんだ!」
「そうだな……精霊神の力を存分に使える俺と数十倍の力を手に入れたお前、力の差がつきすぎたな」
「そうだろ! お前より俺が断然強い!」
ニヤニヤと笑う最狂にクレスは金色のオーラを纏う黒剣を向ける。
『手加減してやるからかかってこいよ』
「また手を抜こうとして! ダメですよ」
クレスはアリアスに叱られるのだった。
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