アブソリュート
最狂が十一人こちらに向かってくる。
アリアスが真剣な表情を作る。
「この空間維持の為に全世界の人を呼ぶのは分かりますが、この場に相応しくない人も巻き添えにするのはどうかと思います」
アリアスは女神に向かって言葉を送る。
「大規模な魔法だったので詳細な魔法式を作れなかったのです、そんな時間もない状況だったので」
「そうですか、フィールドから出すことは出来ないのですか?」
「入ることは簡単ですが、出ることは最狂の勝利か、私達の勝利のみです」
女神の言葉を聞きアリアスは先頭に立つ。
「リリアさん、ミライさん、ミミリアさん、わたしの後ろに」
「私だって戦えるもん!」
リリアが前にいるアリアスに向かって叫ぶ。
「お気持ちは嬉しいです」
アリアスの横にシロとクロ、フィリア、ユウカ、女神が立つ。
『幾度とも復活する、脆くも崩れ去る鉄壁の盾』
アリアスの翡翠の瞳が金色に染まる。
『ホーリークリエイト』
リリア、ミライ、ミミリアを囲むように半透明な白銀のオーラが出現する。
リリアがオーラから出ようと内側から叩くとオーラはすぐに消えるが一瞬で修復される。
「出してよ! 私も戦うの!」
「リリアさんは誰の為に戦うのですか?」
アリアスが振り返る。
「お兄ちゃんの為に、お兄ちゃんと平和に暮らす為に戦うの!」
アリアスはニコリと笑う。
『じゃあ、なおさら出せませんね』
「ッ!」
リリアはアリアスの言ってる意味がわかった。
『貴女が戦えば死ぬと』
もうリリアは何も言えなくなってしまった。
「ごちゃごちゃと何言ってやがんだぁぁぁぁ!」
最狂が目前まで迫る。
『魔術の矛を召喚』
アリアスの手の中に銀色の杖が現れる。
『時間の流れが逆流する』
杖を前に掲げる。
最狂の虹色の剣がアリアスに向けて振り下ろされる。
『ホーリークリエイト』
アリアスが呟くと白銀の光が最狂達を包む。
「「「何が起こった!」」」
最狂達は戸惑いの声を出す。
アリアス達の目前まで迫っていた最狂達が元居た場所まで下がっている。
「ユウカさんは分かっていると思いますが、あの分身はトレース系の魔法に似ています」
「そうだね、剣の勇者が来るまでには減らしておくよ」
「お願いします、時間を稼いでください」
アリアスは杖を地面に刺す。
『次元、時空を越えて、魂の特定……』
アリアスは詠唱に移る。
「何をしている!」
最狂は嫌な予感を感じたのか叫ぶ。
「何をしているかだって? 教える訳ないじゃないか」
アリアスを守るように前衛に五人が立つ。
『天空の光よ、僕に力を』
透明な剣がユウカの手の中から現れる。
最狂も焦っているのか、次は最狂自身も向かってくる。
「最狂も気づきましたか……」
女神は最狂に右手を向ける。
『フォーリス』
「またか!」
虹色の箱が最狂の本体を捕らえる。
「女神様は本体を封印するのに忙しいから僕達一人のノルマは最強三人ぐらいだね!」
ユウカが叫ぶと最狂に向かって前衛のユウカとフィリアが突っ込む。
「我一人で十人ぐらい余裕じゃ」
フィリアは両手に黒い刀を出し、フィリアとユウカは最狂と交戦する。
『ダークバースト』
『ホーリーバースト』
精霊神の二人は範囲魔法でユウカとフィリアを援護する。
最狂は粘るがトレース系は一割の力しか出せない。
ユウカ、フィリア、精霊神達の前では雑魚だ。
「ラスト!」
十人を倒して後一人にユウカが止めを刺した時。
『ヒヒヒ』
消える直前にニタニタと最狂は笑った。
「急に強く!」
女神が苦痛の声を漏らす。
バリンと大きな音をたてて虹色の箱が壊れる。
「やっとだ、やっと本気が出せる」
「何を……」
女神が呟くと。
「教えてやるよ、あの分身は一体倒される毎に本体の力を倍上げてくれる能力だ」
最狂はフッとその場から消えると。
「ぐはっ!」
フィリアの両手に持っていた刀が砕け散るとフィールドの壁に激突する。フィリアが立っていた所に最狂が虹色の剣を振った状態で止まっていた。
「邪神ってすごいな! 刀でガードして致命傷を避けたか」
最狂はフィリアに感心していた。
「お、おぬしに、褒められても嬉しくないのぅ」
『見えなかった』
ユウカが呟いた言葉は全員が思っていたことだろう。
フィリアが立ち上がろうとした時にまたフッと最狂が消える。
「ッ!」
フィリアの首に剣を突き付けている状態で最狂が現れる。
「ヒヒヒ、その顔が見たいんだよ! お前らの絶望に染まった顔がなぁぁぁぁぁぁ!」
周りを見回しながら最狂がニタニタと笑う。
フィリアが刀を出そうとした時。
「動くな! 言っておくが俺は魂を食うことができる、復活なんてもう出来ないからなぁ」
フィリアは初めて死の恐怖を感じた。
「いいなその顔! はは、ハハハ、ハハハハハハハハハハハ」
最狂は気を良くしたのか狂ったように笑う。
『次の絶望を味わうのは貴方かもしれませんよ?』
フィールドの真ん中に魔法陣が何重にも重なって現れる。
『
白銀の光が辺りを包む。
「あれは……まさか召喚魔法! 剣の勇者だと」
最狂は直感で何が召喚されるのかを感じとる。
「やめ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
最狂は足が震えて動けない、自分を殺せる存在、消したはずの恐怖が目の前に現れるからだ。
魔法陣が一斉に輝きを放つ。
「「「ッ!」」」
光が収まるとそこには……。
「そうだよ、そうだよな! 剣の勇者は俺が倒したんだ! 次元の狭間で魂ごと消滅したに決まってる! 驚かせやがって!」
そこには誰もいなかった。
「どうして……」
シロは呟き、シロとクロは膝から崩れ落ちる。
アリアスもバタリと地面に倒れ、小さなドラゴンへと戻る。
絶望が辺りを支配していた。
そこに響き渡るのは最狂の狂った笑い声だけだった。
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