天然







「違うよ」


 ミライの言葉を聴き、その場は静寂に包まれる。


「キュイ!」


 ソーダが楽しそうに鳴く。


「何を言っているのですか? そこの小さなドラゴンがアリアスですよ」


「「「えっ!」」」


 クロの言葉に精霊神以外の全員が驚きの声を出す。


「なぜ喋らないのですか?」


 クロはミライの腕の中にいるソーダに話しかける。


「キュイ~? キュイ~!」


「まだそこまで成長してないのですね、ダークネスの直感と風の魔法で声を出せるようにすることは出来ないのですか?」


「僕をなんだと思ってるんだい? 直感もなんでも分かる訳じゃなくて風の魔法で声を出させるって僕が喋るのと変わらないじゃないか!」


 クロの言葉にユウカは反論する。


「なんでアリアスさんがドラゴンに?」


 リリアが疑問を口にする。


「アリアスはこの世界にいるべき人ではありません。転生や転移をしようとして世界から弾かれ、アリアスの時間が止まっていたのでしょう。なのに転生してしまったのは獣族が他の世界から大量の人達を呼んだ影響で止まっていたアリアスの時間が一緒に動き出した」


 女神はリリアの疑問に答える。


「そしてアリアスが転生する直後に一緒に転生するはずだったユウ君の近くに世界のつじつま合わせで転移した、女神な私でもこれは推測でしかありませんが」


「ドラゴンは人になれるという話を聞いたことがあります」


 黙っていたシロが呟く。


「キュイ!」


 ソーダも興味があるように鳴く。


「竜王がユウ様と仲良く話してる時に言っていたような気がします」


「精霊神といい、竜王といい、伝説上の生き物にこれだけ好かれてるってユウ君は神様と戦争しても勝てるんじゃないかい?」


 ユウカは呆れながら呟きに答える。


「ユウ様の傍にずっといた貴女なら出きる筈です、人化ぐらい!」


「キュキュイ? 」


「惚けるのですか?」


「キュイ~」


「僕はちっとも分からないんだけど会話が成立してるんじゃないかい」


「生まれたばかりの状態では魔力が馴染んでないんじゃないですか?」


 女神がシロとソーダの間に入る。


「そんなのどうでも良いことです、ユウ様の傍にずっといた、ずっといることが出来た人物がそんな事も出来ないはずないじゃない!」


 シロの言葉に熱が入る、ユウを救うために。


「キュイ!」


 ソーダは大きな声を上げてミライの腕の中から飛び上がる。


 ソーダはシロに答えるように身体の乱れまくっている魔力を調律する。


 そしてソーダは目を閉じると。


 辺りが暖かな光に包まれる。




『わたしにはどうすることも出来ないと思っていました、ドラゴンになり喋る事も出きず、初めて見た人族がユウ様だと分かってもアリアスだと伝えることができずに……人化ですか……またわたしは変わることを諦めていたのですね』




 金色の長い髪に翡翠の瞳のアリアスがゆっくりと地面に着地する。


「それではユウ様を召喚します、それがユウ様を救う為に必要なことなのですね」


「ですが貴女の命は保証できませんよ、ユウ君の魂がもし戻っていなかったら貴女の魂は消えます、身体の状態も最狂の魔法で覆われていて回復魔法を通しません」


 女神の言葉を聞き、アリアスは口を開く。


「それは簡単な事です、ユウ様の魂が戻っていなくても今のわたしはユウ様を召喚します、それだけの覚悟もなくてはユウ様の傍にはいられませんでしたので」


 アリアスはシロを見る。


「魔法で覆われていても内側から回復していけばいいだけです、自分の魔法で回復する事はユウ様には出来ないですしね」


 アリアスはニコリと笑う。


 


 空に十二個の大きな魔法陣が現れる。


「すこし遅かったですね」


 女神が呟くと、その魔法陣が大きな光を放つ。


 

 急激に風景が草原から大きなコロシアムに変化した。


「何が起こったのかな?」


「ラグナロクへの招待される時間ですね」


 ユウカの疑問に女神が答える。


 コロシアムの観客席には世界中の人達が集められてるようだ。


『遅かったなぁぁぁぁ!』


 そしてコロシアムの真ん中に十二人のドロドロとした虹色の魔力を垂れ流している最狂がいた。


「この結界はあの獣共がやってることだろ? 言っておくがこの真下でずっと詠唱している獣共の為に俺は分身を残しておいたから結界が解けるのも時間の問題だなぁ!」


 ニタニタと笑う最狂。


「ッ!」


 女神が渋い顔をしたのを最狂は見逃さない。


「女神様に精霊神様それに……美女揃いかよ」


 ニタニタと笑いながら女神、シロ、クロ、アリアスに目を向ける最狂。


「直感ですか」


「あぁ、精霊神や女神なんて前の世界じゃ見れなかったからな~それに精霊神がいるならこれを試さないとだろ?」


 最狂は精霊神達に両手を向ける。


『精霊の恩恵』


「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


 精霊神達が苦痛の声を上げる。


「警戒してたみたいだがこの能力は精霊に絶対的な力を発揮するな」


 最狂は狂ったように笑う。



『絶対的な力ですか? その位なら無効にするなんて簡単じゃないですか?』


 アリアスは白銀の魔力を纏う、両手を精霊神達に向けると詠唱に移る。


『抗うすべを託します』


 シロとクロの下に魔法陣が現れる。


『ホーリークリエイト』


 精霊神達の身体を緑色のオーラが包む。


「はぁ、はぁ、大丈夫になりました」


 シロが言葉を漏らす。


「そんな魔法ないはずだ!」


 最狂が叫ぶ。


「そうですね、今わたしが作りました」


 アリアスは気軽に最狂に返す。


「『魔法創造マジッククリエイト』がわたしのオーラルの能力ですから」


「えっ! じゃあ人化も魔法作っちゃえばよかったんじゃない?」


「ッ! 気づきませんでした!」


 ユウカの言葉にアリアスは素直に答える。


「天然なのか、天才なのか、分かんないね」


「天然ですか?」


 アリアスが天然と言われて。


「あれ? なんで喜んでるの?」


「ユウ様に何度も言われていた言葉なので」


 アリアスは頬を朱に染めながら照れている。



『俺は無視か? 魔法創造か……お前は絶対に殺してやるからなぁぁぁぁぁ!』


 アリアスを睨み付けながら最狂が吠える。


 真ん中にいる最狂を置き去りにして周りの最狂達が向かってくる。


 ラグナロクの決戦が今、始まろうとしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る