女神の想い
神様に俺は今殺されかけています。
日常で見たこともない速度で剣を振る女。
それを何故か避けれる俺。
「避けないでよ!」
真っ白な剣が真横を通りすぎる度に不機嫌になっていく神様。
死なない為にどうするか……記憶か? 思い出せ! 俺に何があったのか。
俺は当たれば死ぬ剣を避けながら神様が呟いてた事を必死に思い出す。
俺は予言から外れていて、それが神様には気にくわなかった。
これは完璧な逆恨みだと思うが。
そして俺は剣の勇者だったと。
他の勇者の連中じゃ敵わなくて、異世界最強の勇者? が俺を世界から追い出したと。
さっぱりだな。
「おい、神様の世界は大丈夫なのか? 異世界最強の勇者がもし悪い奴ならどうするんだ?」
「問題ないわ、アイツの運命は知っているもの」
「どういう運命なんだ?」
「精霊神達が力を合わせて倒すのよ」
「簡単に教えてくれるんだな」
「沖田くんも理由はどうあれ世界を救った人物だしね」
俺は何故かその最強の勇者とやらが倒されると聞いた時、やり残した事はないなと思ってしまった。
役目は終わった、死んでもいいんじゃないか? と。
剣を避ける度に少しずつだが俺のポッカリと空いた穴の中で何かが大きくなっていく。
「女神様はその最強の勇者との戦いに参戦しないのか?」
「それが世界の流れよ、私は傍観するだけ」
傍観か……。
力を入れて竹刀を握ると、竹刀にピシッと亀裂が入る。
少しづつ思い出してみれば俺は剣で戦ってない日がなかったな。
「そこに住む人達はどうするんだろうな、女神様が俺の嫌がらせの為に召喚した最強の勇者に世界を滅ぼされる気分は」
俺は持ってる竹刀で真っ白な剣を弾き飛ばす、その代償として竹刀がバラバラに砕け散る。
『最悪だな、女神様は』
神様は俺が出すプレッシャーで一歩後退する。
「な、なによ! あぁ、もうわかったわよ、沖田くんを倒したら世界に降りて加勢する! これで良いんでしょ」
「なら良かった。ほら、そこに落ちた剣で俺を刺せ、それで終わりだろ?」
「……んで」
神様は何故か顔を伏せる。
「なんでよ! 世界の心配した後に私の心配? 自分は死ぬかも知れない状況でやることなの!」
女神は落ちた真っ白な剣を取る。
『俺はな、いつまでもカッコいいお兄ちゃんとしていたいんだよ』
グサリとためらいなく女神の剣が刺さる。
『ありがとな』
女神の耳元で感謝を伝える。
女神は驚きの顔を見せると。
「いつから気づいていたの」
「お前さ、理不尽を切り裂く剣の能力を俺に与えた時に後悔したろ、魔力ある前提で与えられた能力だもんな」
「そうよ、私は勇者として召喚される人達に生き抜く力を与えてあげるの。まさか魔力がなかったなんて思わなかった、そして私の予言から外れる事も」
「獣族を導いた? 俺ならなんとかしてくれるとでも思ったか? 何かを封印しても封印なんていつかは解ける。聞かなくてもお前の導いた予言はすべて後処理のように思う」
「なんで沖田くんにそんな事が分かるのよ」
「お前は優しいからだ、俺の予言が外れまくっていた? 俺が召喚されて魔力ないと分かるとお前は毎日のように予言をくれてたんだよな、一日十回とかの日もあったな、全部外れてたけど」
「ただ私は予言が外れたのが悔しくてよ!」
「俺は一度、次元の狭間に行ったことがあるから知ってる。次元の狭間にいれば精神が崩壊する事を、そして俺の『平穏に暮らしたい』という願いを一日でも叶えてくれた」
「私は、私は……沖田くんが異世界で生き残る為に何も出来なかった! 沖田くんは予言出来ないからいつも見てただけ」
女神は一筋の涙を流す。
「自分が悪者のようにみせて私を恨んでくださいってか?」
「沖田くんは世界で最弱のはずなのに私の予言を超えていつも奇跡のような出来事を私にみせてくれた、初めてだった、人の結末を知らないワクワクするような物語を見てる気持ちだったわ」
俺は女神の涙を手で拭う。
「泣くなよ、タイムリミットだ、ここで俺を殺さないと俺の精神が崩壊するんだろ、その前に殺すはずだったんだろ? 自分を悪者にしてまで」
両手がキラキラと空中に溶けるように無くなる。
「本当は沖田くんを殺したくなんかないのに」
女神は俺の胸に顔を埋めて泣いている。
「いやだよ、消えないで、私をもっと感動させてよ、ワクワクさせてよ、いつもみたいに私の予言なんか笑って『女神の予言はダメだな』って言ってよ」
『お前はダメな女神なんかじゃねぇよ』
「まって、ま……」
俺の意識が急激に無くなっていく。
『ダメな女神のままでいいから』
成功するかわからない魂を身体に返す魔法。
『リバース』
白い世界で虹色の光が波紋のように広がる。
女神は一人に対して魔法を行使してはいけない。
『剣の勇者がいないとこの世界も終わるから一緒だよね』
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