予言








 サッカーの試合は俺が無双して終わりました。


 そして次の日……。


『学校来んなよ』


 廊下ですれ違っただけの男子にこう言われました。


 ミズシマを煽りまくって勝った、勝ってしまったサッカーの試合。


 手加減していたつもりなのに無双。


 俺は学校中の嫌われものになってました。


 なんでだ!


 クラスの奴等は一人も俺と喋ろうとしない。


 だってミズシマは俺がサッカーで無双した後にそうとうショックだったのか次の授業から机に顔を伏せて誰とも喋らず放課後になったらすぐさま帰ったからだ。


 そのおかげで学校中ミズシマファンの奴等から嫌われた訳だ。


 俺がミズシマをいじめたと……。


 先生すらも俺を無視する。


 PTAに通報するぞ!


 


『放課後』


 明日からもこの状況が続くとなると憂鬱になる。


「沖田くん!」


 ばんっと俺の机を叩いてミズシマが俺の名を呼ぶ。


 顔近いな。


「なんだ?」


「私と勝負してくれない?」


「もう帰りたいんで」


 俺は机に下げている鞄を取ると立ち上がり、帰ろうと足を動かす。


「私に勝てばなんでもしてあげるわよ?」


 俺は立ち止まり、振り返る。


「なんでもだと?」


 ゴクリ。


「えぇ、なんでもよ」


「なんでお前がそこまでするのか理由を聞いてもいいか?」


「私は生まれてきて一度も負けたことがないのよ、そして沖田くんは私の初めてを奪った」


 クラスがざわめく。


「誤解を招く言い方するんじゃねぇ!」


「でも本当の事よ、私は悔しかった」


 勝ったらこの美少女を好きに出来るらしいし。


『暇潰し程度に付き合ってやるよ』


「ッ! じゃあ今から付き合ってよ!」


 ミズシマは俺の言葉を聞きムキになる。




 体育館。


 指定された場所に着くと。


「バスケで勝負よ!」


 ミズシマは制服からユニフォームに着替え俺を待っていた。


 俺一人対全国優勝しているバスケチームとミズシマ。


 セコい。


「負けたら私を好きに出来るんだからハンデよ」


 昨日さっさと帰ったのはこの準備か。


 暇潰しだし。


「いいぞ」


 



 すぐさま試合は始まった。


 キュッキュッとバスケシューズの音が響く体育館。


 そしてさすが全国優勝チーム、華麗なフェイントや華麗なボール回しが。






 止まって見える。


 ミズシマが余裕そうな顔で俺を抜き去るのと同時にボン、ボンとボールを床に叩きつける音が無くなるのに気づく。


 そしてミズシマは後ろからボールを叩きつける音を聞いて振り返るが。


 すでにボールはネットに吸い込まれていく。


 バスケチームも驚愕している。


「まだよ!」


 パスを回しながら俺を翻弄する。


 そして俺の後ろにパスをした時にボールは消える。


 俺の手元にボールがあることにミズシマ達はすぐに気づくがボールは俺の手を離れネットに吸い込まれる。




 何回挑んでも俺がいるハーフラインからボールが進まない事にバスケチームの奴等もミズシマも勝てないと悟りながらゲームを続ける。


 ブーと音がなり試合終了。


 156対0で俺の圧勝。


 ミズシマは俺の前で悔しそうにしている。


「負けたんだから何でも言うこと聞いてくれるんだよな?」


「ち、違うわよ! これは……そう! 遊び、次が本番なんだから!」


 見苦しい言い訳だな。


「なんでもいいけど次が最後だぞ」


 暇潰しだからこれぐらいな。


「わかったわよ」




 武道場。


 俺は武道場に来た。


 そして剣道着を着て俺を待っているミズシマ。


「剣道で勝負よ!」


 ミズシマは剣道の世界から強い選手が集まる大会で優勝している。


 こんな奴に勝てる訳ないだろ?


 俺はミズシマから竹刀を貰う。


 右手で持ち構える。


「なにその構え、竹刀は両手で持つのよ?」


 ミズシマは両手で竹刀を持っている。


 なんかシックリくるんだよな、片手持ちの方が。


「防具はつけないのか?」


「大丈夫よ、ギリギリで止めるから」


 素人には防具もいらないらしいな。


「それと私が勝ったら沖田くんは私の言うこと何でも聞いてよね」


「聞いてないんだが」


「だって今言ったんだもん」




『びびってんのか!』


『それぐらいの条件受けろよ』


『自分だけ負けたら何もないとかないだろ!』


 さっきから黙っていた野次馬達ミズシマファンが騒ぎだした。


 実際さ、それ言っちゃうと俺がこの試合を受けるメリットがないんだが……ミズシマに何でも言うこと聞かせるより帰りたいという優先度の方が俺には高い。


 美少女に何でも言うこと聞かせる権利を手にいれてしまったらリリアがなんて言うか……最低呼ばわりされたりして。


 ……リリア?


「行くわよ!」


 俺が何かを思い出そうとした時にミズシマが急に試合を始めた。


 ミズシマは瞬間移動したみたいに瞬時に距離を詰めると竹刀を上段から振ってくる。


「俺はやるって言ってないんだが」


 本当にバスケの試合は遊びだったようだ。


「ここで帰ったら沖田くんの負けよ」


 セコい。


 何故か身体が勝手に動く。


 上段から振られた竹刀を弾き返して無防備になったミズシマの喉元に竹刀を置く。


「これで俺の勝ちか?」


「ま、まだよ! ここは何でも良いから一度でも沖田くんに勝つために私が創った世界なんだから!」


 ミズシマは俺から距離を取り、虹色のオーラみたいな物を纏う。


「ここからは本気でいかせて貰うわ、沖田くんには予言やら未来予想図を無茶苦茶にされて私怒ってるの! 何よ! 女神様は剣の勇者より劣ってますね! 女神様では敵わない邪神も倒して、本当に剣の勇者には感謝してます! 女神様の予言なんて剣の勇者の前ではアテにならないよな! とか……」


 ミズシマはぶつぶつと意味不明な事を言い出した。


「剣の勇者、剣の勇者、剣の勇者、他の勇者の時はそんなこと言わなかったじゃない! 女神様、女神様、女神様ってみんな言ってたのに、貴方は何者なのよ! 私の予言から外れるなんて!」


 ミズシマが怖いんだが。


「剣の勇者が世界から拒絶された今を長年待っていたのよ! 剣の勇者より私の方がまさっているって証明するために! だから獣族に『禁断の書』を偶然見つけさせるように封印も解いたし導いた」


 帰ってもいいのか? なんか大事な話をしてそうだけど。


「他の勇者達は剣の勇者を倒すことは出来なかったみたいだけど、さすが異世界最強の勇者には剣の勇者も敵わなかったみたいね! ここまでうまくいくなんて思わなかったけど!」


「お前が言ってる事はよく分からないが」


 竹刀をミズシマに向ける。





『手加減してやるからかかってこいよ』


 ピキッ! と音がして周りの音が無くなりガラガラと崩れ出す。


 周りが白い何もない空間になった。


 俺は驚くがそんな暇はない、目の前の女からただならぬプレッシャーを感じているからだ。


 ミズシマの長い黒髪が色を失っていく。


 白い髪に目には虹色の瞳。


「本当に沖田くんは私の恐ろしさを知らないみたいね、ここまでしたのは沖田くんが悪いんだよ、未来を見通せない人族が居たことに驚いたの導くのが仕事なのよ? それを初めて奪われたわ、だから意地でも導こうとして予言を外して外して外して、だからもう実力行使、剣の勇者は女神に負けるっていう予言を実現させる」


 ミズシマの手から竹刀がスーと消えると新たに虹色を纏った真っ白の剣が姿を現す。




『女神を本気にさせたのは貴方だけなんだからね』


 俺の記憶からミズシマの存在が消えていく。


 そんな奴、最初から居なかったわ!


 なんで気づかなかったのか分からないが神様から俺は恨まれていて、俺にミズシマの記憶を植え付けてまで勝ちたかったらしい。


 俺が何したって言うんだよ!




 美少女から潤んだ瞳でウィンクされた俺は思う。


 異様にプレッシャーを押し付けられて真剣の戦いをしなくてはいけない状況だ。


 嬉しくないと。



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