手紙








 全速力で馬車を飛ばしていたユウカは馬に回復魔法をかけながら二日でフィーリオンについた。


 ユウカ達はこの世界の危機を学園に報告した後に、疲れから眠りにつく。


「ミミリア様」


 眠っていたミミリアの部屋のドアを叩く人物がいた。


「なんだ?」


 ミミリアはドアを開ける。


「お前か」


 そこにいたのはミミリアがよく知っている人物でミリアード王国の城で仕えている執事だった。


「やっと会えました、これを渡すようにと王様から」


 一通の古びた手紙。


「これは?」


「それは『グランゼル』を手にした王家の者にだけ託されるアレク様からの手紙です」


「アレク様からだと!」


「私はもう仕事を終えましたので帰らせていただきます」


 執事が帰るのを見送り、ミミリアはドアを閉めて手紙を開ける。


『これは!』


 そこにはもっと早く知っていればと思うような情報が書かれていた。





 そして剣の勇者が世界から消えて三日目で世界は動き出す。



『俺は最強の勇者だ、今からお前たちを皆殺しにする』


 全ての生物の脳内に直接語りかけられる声。


『助かりたければ俺に絶対服従を誓え』


 誰もが思っただろう。


 くだらない、なんで服従なんかしなくちゃいけないのかと。


 だがその考えもすぐに変わる。



 全ての国が透明な無属性の魔法が通りすぎた後に二つに割れた。


 

『そうだ!』


 最強は楽しそうに声を出す。


『一日待ってやる、今からお前たちの国にいる最強と思う奴等を五人用意しろ、そいつらが勝てば皆殺しはしない、負ければ絶対服従を誓え』


 それは命令。


『そいつらは明日の昼までに国の門の前に集まれ、強制的に試合を行う』


 それからプツリと脳内に響いた声が終わる。



 強制試合の告知を聞いた国々はすぐさま行動を開始した。


 どの国も『強者を五人集める』為にだ。




 

 フィーリオン王国はフィーリオン剣士学園にいる学園最強の四人を呼び出した。


 白髭を生やした王様とその横にはヒョロナガの男が立ち、ユウカ達の周りには鎧を身につけている兵士が綺麗に並んでいる。


 リリアとミミリアだけが片膝をついて白髭を長く生やした王様に頭を下げる。


 リリアの左肩にはソーダが静かに引っ付いている。


 ユウカとフィリアは立っていて頭を下げていない。



「用ってなにかな?」


 ユウカが大きな椅子に座っている王様に聞く。


「王様になんて口の聞き方だ!」


 王様が横にいるヒョロナガの男を手で制す。


「よさぬか、そこの二人も頭を上げてくれ」


 リリアとミミリアは王様の言葉に頭を上げて立ち上がる。


「まさかとは思うんだけど、さっきの最強からの宣戦布告に僕達の力を貸せってことかな?」


「まぁ、そういうことだ」


「僕達は力を貸せないよ」


「な、なに!」


 王様は驚きの顔を見せる。


「僕達は一度、その最強とやらに負けているからね」


 兵士達もざわめく。


「な、なんと」


「そして僕達には見返りがなさすぎる、僕達には逃げることも出来る訳だしね」


「この国を守ることはフィーリオン剣士学園を守ることも同じはずだ、仲間達を守りたくはないのか?」


「仲間? 最近その仲間達とやらで僕は……僕達は機嫌が悪くなるような事をされてね」


「……私は力を貸してもいいよ」


 リリアがいきなり口を開く。


「なぜだい?」


 ユウカはリリアの予想外な言葉に疑問をかける。



『お兄ちゃんならそうすると思うから……かな』


「キュイ!」


 

「リリアがやるなら私もやろう」


「お姉ちゃん」


「友達の為なら仕方ないのう」


「フィリアちゃん」


 ミミリアとフィリアがリリアの意見に乗る。


 ユウカが流れをぶち壊す。


「みんな命がかかってるんだよ!」


「ユウカちゃんわかってるけど」


「リリアちゃんはわかってない! 最強が生きていたってことはクレス君が負けたってことなんだよ! 僕達じゃ絶対に勝てない」


「……」


 ユウカが出した言葉に全員が押し黙る。


 気づいてたけど気づこうとしなかった現実。


「ごめん」


 ユウカは一言呟くように謝罪の言葉を口にする。


「勝つ方法ならあるかも知れない」


 ミミリアがグランゼルを鞘から引き抜く。


「勝つ方法ってなんだい」


「私達がもしあの時、足手まといと言われても力を貸していたらと思わなかったですか?」


 それは馬車の中で全員が思っていたことだろう。そして脳内に最強の言葉が響いて剣の勇者が負けたという事実が分かった時、その思いは強い後悔として残った。


『何故あの時、力になれなかったのか』と。



「私が剣の勇者になりましょう」


 ユウカはグランゼルを見て、直感で悟る。


「グランゼルの魔道具としての能力を使うのかい?」


「これは剣の勇者が愛用していた武器です、そして魔力が尽きるまで触った者の剣術が使えるようになると」


「お兄ちゃんの剣が使えるの?」


 リリアはグランゼルを見ながら呟いている。


「だが剣の勇者の全力までは出せない、その前にグランゼルが壊れてしまう」


「それを皆んなで補うんだね」


「そうだ、これで少しは勝てるかも知れないだろ」


「もう分かったよ! 僕もやるよ」


 少しだけ希望が見えた。



「やってくれるか!」


 王様が嬉々として横槍を入れる。


「ただし条件がある」


 横槍で不機嫌になったユウカが条件を出す。


「なんだ?」


『それは……』





 後ろを向いたらフィーリオン王国の門が見える、広い草原。


 ユウカ、リリア、ミミリア、フィリアが横並びで並んでいる。


「待っていたよ、最強の勇者君」


 ユウカが口を開く。


『やっぱりここだったかリリア! あとは美少女達もだな』


 気色の悪い笑みを見せて登場した最狂の勇者。


「僕達は君を倒す」


『剣の勇者よりも強い俺をか?』


「そうだよ」


 ユウカ達の手にはすでに剣が召喚されて、フィリアも両手に黒い刀を出している。


 そしてミミリアがグランゼルを引き抜く。



 最狂の勇者がニヤニヤと笑う。


『殺した後に色々聞いてやるよ』


 最狂の勇者が呟く。


『試合開始だな』



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