意地
「手加減してやるから全力でかかってこいよ……」
クレスはニヤリと笑みを見せる。
「雑魚やろう」
クレスは黒剣をトウマに向けて言い放つ。
「くそがぁぁぁぁ!」
トウマは全力で斬りかかる。
クレスはその剣を受ける。
「くっ!」
さすがにクレスでも避けきれない速度の剣。
斬撃が重い。
「オラオラオラァァァァ! さっきまでの威勢はどうしたぁぁぁぁ!」
幾度とも振られる剣を受ける。
クレスの顔は苦痛に歪む。
反撃しようとクレスも黒剣を振る。
キンッ! っと黒剣がぶつかり合う瞬間に違和感が残る。
感じた事がある違和感。
フェイントを入れながらクレスの黒剣がトウマでは避けきれない軌道を描く。
それをトウマは読んでいたかの様にギリギリでかわし反撃を入れてくる。
完全にクレスは押されていた。
トウマの剣を受けてその力を利用して後ろに飛び距離を取る。
「お前なんで光の勇者と闇の勇者の固有スキルを持ってる?」
「よくわかったな。因みに教えてやるとこの剣も剣の勇者から奪ったスキルで召喚した」
直感にジャストガード、チートだな。
「剣の勇者から奪った? 奪われた事なんかないんだがな」
トウマはすぐに直感で感じとる。
「そうかお前がこの世界の剣の勇者か」
「やはり直感はチートだな」
「それにしては魔力が低すぎる。俺が知ってる剣の勇者は魔力を剣に込めて戦う魔法剣の使い手だったんだが」
ここまでベラベラと喋ってくれたら助かる。
「お前、別次元から来たのか?」
チッ! 別次元の剣の勇者は魔法使えるのかよ。
「そうだ。剣の勇者なら必殺技は何だったっけな?」
少し考えたトウマは思い出したのか口を開く。
「全てを無に還す、理不尽を切り裂く一撃。無属性の魔力を最大に溜めた『無の一閃』だったか? あれは歴代勇者最高の攻撃力だったよな! 剣の勇者ユウマ・オキシロ!」
……。
無の一閃ってなんだよ!
それよりユウマ・オキシロって誰だよ!
情報を整理する暇もなくトウマは俺の間合いに踏み込む。
「話は終わりだ!」
トウマは俺に斬り掛かり、俺の反撃も『直感』で避けられ『ジャストガード』で無力化される。
相手はチート、勝てるかは正直わからない。
なんで俺はこんな強いやつと戦ってるんだ? 昔の異世界みたいに俺には勇者としての役目もない。
自分より強い相手……久しぶりだな、この感じ。
一歩間違えば死ぬ恐怖が足下に張り付く。
平穏を望んでいたはずなのに何で俺は自ら争いに踏み込むのか。
ふとリリアの笑顔が浮かぶ。
「そうだよ、そうだよな! 俺が戦う理由……笑顔を守る為だ」
平穏は俺には無いのかもな。
でもボロボロだった俺に癒しをくれた妹を守る、それだけで今の俺が戦う理由としては充分じゃないか。
「何をぶつぶつ言ってんだ? 怖じ気づいちまったか?」
『リリアはね、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの~』
『なんでリリアは俺の事をそんなに好きなんだ?』
『えへへ、ひみつ~』
リリアは覚えているだろうか? まだリリアが小さかったからな。
「もうそろそろ逃げ切れたか」
クレスは一言呟くと、今まで受けていた剣の衝撃を全て後ろに受け流す。
流した衝撃が砂浜を抉り、森は目に見える範囲が消える。
トウマは自分が有利な状況に気をよくしたのかクレスの逆鱗に触れる言葉を紡ぐ。
「リリアはキレイだよな! この世界ではお前の妹だったか? 死んだ後に妹が俺の女になる姿を地獄から見てな!」
クレスの目に鋭さが宿る。
シュッ! っと直感とジャストガードで無力化出来ない斬撃がトウマを襲い、剣を盾にしてトウマは吹き飛ばされる。
「ハンデはここまでだ、俺も全力でやらないとな」
クレスは左から右へ、右から左へ、上から下へ、下から上へ、流れるように黒剣を振る。
そのどれもが空を斬る。
「お前どこを狙ってんだよ」
少しずつ速く、斜めの軌道も黒剣は描き始める。
シュッ! と風が斬れる音が段々と無くなり。
クレスが振る剣の音は無音。
『剣の勇者の本気を見れるんだ、感謝しろよ』
クレスは黒剣を振るのを止めると。
最初からそこに存在してなかったかの様にクレスの姿が消える。
「ッ!」
「よく気づいたな」
音も無く、トウマとクレスの剣がぶつかり合うと二人の中心は爆発したかのようなクレーターが出来上がる。
トウマの頬に一筋の傷ができ、そこからスーっと血が垂れる。
『直感』で感じとるのがやっとでトウマは『ジャストガード』を発動出来なかった。
『地獄で後悔しろよ』
触れ合う黒剣が徐々にトウマの首もとに迫る。
『俺の妹に手を出そうとしたことを』
トウマはクレスの低い声とプレッシャーに一歩後退する。
クレスの本気の戦闘が今始まる。
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