名前は……







 ペロペロ。


 ペロペロ。


 眠っていた俺の顔を舐めまわす奴がいる。


「キュイ」


 テントの中で俺はアクビをしながら起き上がる。


「おはようソーダ」


「キュイ、キュイ!」


 ソーダは何か必死に訴えている。


 テントから顔を出すともう既にお日様は真上だ。


「お腹すいたのか?」


「キュイ!」


 やっと分かったかみたいな顔をするソーダ。


 俺は干し肉をリュックから取り出しソーダにあげる。


「マジでここどこなんだろうな~」




 俺はソーダが食べ終わるのを待ってテントをリュックに詰める。


「ん?」


 俺は唐突に嫌な魔力を感じる。


 粘着性があるようなヌメヌメと流れる気持ち悪い魔力だ。


 ソーダも感じ取っているのかその異様な魔力に怯えている。


 ドラゴンだろ! もうちょい威厳を出せよ!


 関わらない方がいいのは分かっているが……。


『嫌な予感がする』


 ユウカの直感とまではいかないが俺の感覚だってたまには当たる。


「ソーダ行くぞ!」


「キュイ……」


 嫌そうなソーダだが俺の左肩に乗り必死でしがみついている。


 リュックを右肩にかけて気持ち悪い魔力が出ている場所まで走る。


 森を駆け抜ける。


 昨日俺がいた砂浜と海が見えてきた。




 黒髪頭の奴が右手を上に掲げている。


 あの黒髪頭なにやってるんだ?


 五人ぐらい倒れてるな? なんかの遊びか?


 よくみたらリリアにユウカ、フィリアにミミリア、アイツ誰だ? 


 一人知らない奴がいるが何でこんな所にいるんだ?




 黒髪頭の掲げる手から剣が姿を現す。


 それもリリアの前で降り下ろそうとしている。




 考えてる暇はないな。


 俺は走りながら右肩のリュックを投げ捨て、何もない空間に右手を入れる。


『リミテッド・アビリティー』


 金色に煌めくオーラを纏う黒剣を取り出す。



 そこから一気に黒髪頭と距離を詰め、降り下ろそうとしている剣を弾く。


 黒髪頭はその反動で吹き飛んでいく。



「おいおい、俺の妹に何してんだ? 殺されても文句ないよな!」


「キュイ!」





「お兄ちゃん遅いよぉぉぉ」


 リリアはその場で泣き崩れる。


「クレス君は毎回ピンチになって登場するんだから主人公補正かい?」


 リリア達には悪いが気を抜いて喋ってる暇はない。


 気を抜ける相手じゃないことが剣を少し合わせただけで悟った。


「お前ら逃げろ!」


 俺は後ろに向かって叫ぶ。


「お兄ちゃん?」


「俺もかっこよく後ろに居ろ! 的なことを言いたいが衝撃を相殺させる余裕はたぶんない」


「僕達も戦うよ!」


 ユウカも直感で感じ取ったのか暗い顔を見せてクレスに向かって叫ぶ。





『ユウカは分かってるんだろ? 逃げろ』




 俺はリリアの近くに歩みより左肩に乗って目をつむりぶるぶると震えているソーダをリリアに見せる。


「コイツはソーダっていう名前だ、リリアが守ってくれ」


 リリアは剣を捨ててソーダを両手で抱え込み、俺は肩からソーダを渡す。


「僕達がここにいたら直感で感じた通りの結末になるからね! 剣の勇者なら僕の直感なんて軽く外してくれるよね」


「あぁ、まかせろ!」


 俺は全員を安心させる為に精一杯の笑顔をみせる。


 俺は笑えてるだろうか?


『お喋りはすんだのか?』


 黒髪頭が無傷でゆっくりと近づいてくる。


「お前の名前は?」


「教える義理はないがどうせ死ぬんだ、殺した奴の名前ぐらい知らないとなぁ、トウマだ」


「トウマか、聞いておいて悪いが興味なかったわ」


「雑魚の分際で調子に乗りやがって!」


 トウマは今にも爆発しそうなぐらい怒っている。


 ユウカ達は二人の会話の隙に馬車がある所まで逃げるように走る。


 自分達が足手まといになるのが嫌なのだ。



 それに気づいたトウマは……。


「ヒヒ、逃がすと思ってるのか?」


 トウマが後を追おうとした進路を俺は塞ぐ。



「安心してお前らは全力で逃げろ! 振り返るな!」


 俺はトウマを見ながら後ろに向かって叫ぶ。



「お前を殺してゆっくり追うことにする」


 トウマは剣を構える。




「じゃあ少し相手して貰おうか」


 俺も黒剣を構える。



「全力で殺してやるから雑魚らしく死ね!」



 トウマは叫びながら俺に斬りかかる。



「全力はそんなもんか?」



 それを俺は避けてトウマに剣撃を打ち込む。



「くっ! 今からだ! 今から全力でいたぶって殺して一生俺に仕えさせてやる」


 砂浜を引きずりながら後退するトウマ。


「後悔してももう遅いぞ!」


 トウマの魔力がはね上がる。



 本気にさせてしまったか? 煽るのは自重しないとな……。




『手加減してやるから全力でかかってこいよ……』


 俺はニヤリと笑みを見せる。


『雑魚やろう』



 俺は黒剣をトウマに向けて言い放つのだった。



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