小さな卵









 俺は今、とぼとぼと歩いている。


『ここどこ?』


 行きは馬車だったからな~。


 真っ直ぐ来た道を戻れば帰れると思っていた。


 森の中を進みながら俺は妹様の事について考える。


 あのまま学園に残れば妹様までバカにされる、それが俺には耐えられなかった。


 あの状況で学園に残るという選択肢を取ったら妹様には迷惑がかかるようになるだろう。


『願い』によって、その迷惑が緩和されていただけだ。


 学園に無理矢理ついていった時に妹様は言ってたよな。


 俺がバカにされるのは嫌だって。


 魔力がないだけ、それだけでバカにされる世界。


 俺が足を引っ張る訳にはいかないんだよ!


 人生は今だけという訳じゃない!


 妹様の将来を考えたらもうそろそろ俺の出番は終わりじゃないだろうか。


 感情に流されて将来を棒に振るとかバカじゃねぇの?


 あの学園を卒業したら底辺でもエリートだ。


 そりゃ俺だって妹様と学園生活を楽しみたいさ!


 でも卒業したらまた暮らせるんだ、四年とか早いもんだ。


 心配? 妹様の周りには闇の勇者に、元邪神に、天才な姫もいるんだぞ。


 無敵じゃね?


 俺は実家に帰ってほのぼのと暮らす事にする。


 お母様はなんて言うだろうな~。


『いつでも帰ってきなさい』って俺にだけ熱心に言ってきてたな。


 だって学園に入るのは無理だって最初から知ってたみたいだし。


 妹様には『授業を真面目に受けて友達と仲良くやるのよ』と心配なんか全然してなかったもんな。



 フィーリオンから出て、もう一日は経ってる。


 突然に地面が揺れる。


『おっ! 地震だ』


 それもすぐに静まる。


「なんだったんだろう?」


 独り言を呟くと後ろの方からボンっと音がする。


 俺はすぐさま振り返る。


 そこには。


『……』


 何もなかった。


 ピキッ! と足元の方から音がする。


 俺は下を向くと。


『……』


 卵があった、手のひらサイズの卵が!


 ピキッ! ビシッ!


 なんか卵にヒビが入っていく。


 な、なにが出てくるんだ。


 俺は興味深々にその卵を見る。


 膝を地面につけ、卵を指でつつく。


 チョンチョン。


 ピキッ! ピキピキピキピキ!


 卵が割れて、黒い小さなドラゴンと目が合う。



 手のひらサイズのドラゴン。


 可愛い……。


 俺はリュックから干し肉を出して産まれたてのドラゴンにあげる。


 食べるかな~食べるかな~。


 ワクワク、ワクワク。


 ドラゴンがぱくっと干し肉にかぶりつく。


 食べた~!


 ぱくぱくと音がしそうな程に小さな口で一生懸命に干し肉を食べる姿に和む。



 可愛い黒いドラゴンの姿を堪能した後にもうそろそろ移動しようかと思う。


「元気に生きていけよ!」


 俺はドラゴンに語りかけるとすぐに移動する。





 可愛かったな~あの小さなドラゴンは。


 なんであんな所に卵があったんだろうか?


 たしかドラゴンは成長するまで親の巣の中で暮らすんじゃなかったか?


 あんな小さなドラゴンなら魔物に遭遇したら一発で終わりじゃん!


 可愛いドラゴンの無惨な姿を想像した俺はすぐさま振り返る。


 テクテクテク。


「……」


 テクテクテク。


「……」


 テクテ、ポテッ。


 あっ、転けた。


 俺は小さなドラゴンに駆け寄る。


「大丈夫か?」


 俺はドラゴンをすくいあげる。


「キュイ!」


 俺の手のひらに乗るとドラゴンは嬉しそうに鳴いた。


 あれからずっと俺の後ろをついて来ていたようだ。


 羽があるのに飛ばないのはまだ産まれてすぐだからだろう。


「お前、一緒に来るか?」


「キュイキュイ!」


 俺の言葉の意味がわかっているのか?


 まぁ、俺はコイツを連れていく事にする。


 ここにいても危ないだけだしな。


 親のドラゴンが来たら素直に返してやろうと思う。親のドラゴンは子供を取られたら取り返しに世界の果てまで追いかけてくるらしい。


 コイツを迎えに来るのもすぐだろう。


 一緒に旅をするんだから名前が必要だな。


 何にしようかな~。


 黒い小さなドラゴン。


 強くてカッコよくなってもらいたい。


 クロだったら精霊と被るしな。


 決めた!


 強くなって欲しいから剣の勇者から取ってソード、黒いからダーク。


「お前の名前は今からソーダ・フィールドだ」


 ふむふむ、我ながら良い名前だ!


「キュイ?」


 ソーダは首を傾げている。


 気に入ってくれてなりよりだな!


 ファミリーネームのフィールドを入れたのは俺はペットを家族と思っているからだ。


 親が来るまでの短い間かもしれないが俺はソーダを家族と一緒に扱う事にする。




 ソーダは幸運を運んでくれるのか、俺はとうとう森を抜けた!


 俺の肩にはソーダが乗っている。


「キュィィィ」


「お腹空いたか? 産まれたばかりなんだからたくさん食べろよ!」


 俺はソーダがお腹空いた~と訴えてくる時はすかさず干し肉をあげる。


 可愛いな~。



 道に馬車が通ったような後があるからここを辿れば間違いないだろう。


 俺とソーダは旅を楽しみながら家に帰るのだった。



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