別れと始まり
リリア、ミミリア、ユウカ、フィリアの四人がそれぞれクレスに斬りかかる。
それをクレスは最小限の動きでかわしていく。
クレスは四人の攻撃をかわす度に身体が悲鳴を上げる。
それを悟らせないように顔には一切出さない。
学園に張られた呪いとバトルフィールドに張られた呪いを同時に受けてるクレス。
魔力のない人間がこの場にいたなら普通は動くこともできないだろう。
「クレス君は弱体化の魔法を受けてるのに何でそんなに動けるのか何時も不思議に思ってるんだよね」
「そうだ、何故教師達は気づかない! 何故弱いと最初から決めつける! 魔力のない人間はこの学園で生活すること動くことも出来ないというのに!」
ユウカとミミリアは大きな声を出す。
観客や教師達に気づかせるように。
クレスがどれほどの事をやっているのかを。
「剣の勇者を目指している学園というのに魔力のない者を追い出すと言うのか? 笑わせてくれるの」
フィリアもクレスに刀を避けられながら叫ぶ。
「お兄ちゃんは凄いんだもん! 私達が束になっても遊ばれてるんだよ! 弱体化の魔法がかかってるのに!」
リリアもクレスの凄さを伝える為に必死で声を出す。
クレスを弱者と罵っていた教師や生徒達が弱体化の魔法を思い出す。
皆んな知ってる常識。弱体化の魔法は魔力のない者には圧倒的な力を誇る。
クレスに魔力がないことはこの場にいる全員が知っている。
じゃあ何故クレスは動けるのか、しかも弱体化の魔法を受けながらもこの学園で強者に入る四人をクレスは翻弄している。
皆んなの意識が変わろうとした時。
「俺を想ってくれてるのは嬉しい、勿論リリアの事も想ってくれてるのはわかっている」
ふっとクレスの姿が消える。
『決まったことはしょうがない事だ、俺も残念だがしょうがない』
クレスの声が聞こえた時に。
ミミリア、ユウカ、リリアの順に手から剣が落ち、フィリアの刀は消える。
クレスがバトルフィールドに姿を現すと四人が膝をつき倒れる。
クレスは消えた瞬間に一人一人に一撃を与えていた。
バトルフィールドに張られた結界で抑制されるぐらいの一撃で痛みはないが気絶効果は発揮する。
バトルフィールド内にいた男教師はクレスに声をかけようとするが口から言葉がでない。
観客席の生徒達も教師達もこの学園最強と思われる生徒達を圧倒したクレスに言葉がでない。
四人はかろうじて意識がある。
『ありがとな』
クレスは感謝の言葉を伝えて腰にかけている鞘を取り出す。そしてグランゼルを鞘に戻すとミミリアの傍に鞘ごとグランゼルを投げる。
『ミミリアにやるよ』
グランゼルをミミリアに託してクレスはバトルフィールドを後にする。
四人は必死で立ち上がろうとするが声もでなければ身体も動かない。
後日リリア、ミミリア、ユウカ、フィリアは目覚めると全員がクレスの生活していた寮に向かう。
そこには当然だがクレスはいなかった。
ラグナロクも終わり、黒フード達が動き出す。
魔法陣が何重にも重ねられた大きい部屋。
中心に台座が置かれ、その上に虹色に輝く石がはめられている。
「準備ができましたマクロード様」
マクロードと言われた黒フードの人物が今にも崩れそうな程のボロボロな書物を黒いマントの中から取り出した。
「始めるか」
マクロードの言葉と共に黒フード達が台座を囲むように立つと魔力を虹の石に向けて流し始める。
マクロードは書物を開きながら詠唱を開始すると何重にも重ねられた魔法陣が光輝く。
それから何時間たっただろうか。台座を取り囲んでいた黒フード達は膝をつきながらも魔力を切らさないように流し続ける。
『……その痛みは苦痛に流れ、我は救世主にならんと願う、聞き届けたまえ』
ボロボロの書物はあと一行、これで詠唱は終わり、神級魔法を超えた魔法が発動する。
『全てのエレメントを解き放ち、始まニッ!……』
魔法陣から光が消え失せる。
「ちょっ! 勘弁してくださいよ~」
「噛むとか信じられねぇ~」
マクロードは詠唱の最後で噛んでしまった。
「この魔法長いんだよ! は~い最初からやりま~す。皆さん準備してください」
「マクロード様~休憩しないと魔力ないで~す」
「は~い、じゃあ一時間後再開させま~す。水分補給とトイレには必ず行くように途中でトイレに行きたいって言っても遅いですよ~」
「「「は~い」」」
遠足みたいなノリで世界の流れを変える程の魔法の準備に取りかかる。
……一時間後。
「やるぞ」
もうすでに黒フード達は準備を終え、台座を取り囲んでいる。
「次は噛まないでくださいね~」
「口を開くな! さっさと魔力を流せ!」
マクロードの声と共に黒フード達は魔力を送り込む。
『……全てのエレメントを解き放ち』
黒フード達は膝をついて魔力を振り絞る。
何時間経っただろうか。
前の詠唱の時に噛んでしまった所なのでマクロードは慎重に言葉を紡ぐ。
『始まりの魔法よ、世界を変えよ』
魔法陣が虹色に輝きだす。
『ゼロ』
マクロードの詠唱が終わると魔法陣の虹色の光が柱のように上に昇る。
「成功したぞ!」
「「「よっしゃぁぁぁぁぁあ!」」」
台座を取り囲んでいた黒フード達は疲れているのも忘れ、手をあげて喜びを最大限に現す。
『これで世界は変わる』
マクロードは静かに呟いた。
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