試練
ラグナロク優勝は全世界に広まり、フィーリオン剣士学園は有名になった。
出場した十一人は勿論優勝に貢献したリリア、ユウカ、ミミリアは相当な有名人になっているらしいのだ。
魔道具で撮影されていたラグナロクの映像は世界中で流されているという。
知らない人はいないみたいな感じだ。
そんな有名になった学園なのに落ちこぼれがいると知られるとマズイと思ったのだろう。
俺を退学させる為の試験が始まった。
試験は簡単だ。
まず魔力量の測定。
魔法のコントロール。
そして魔法の応用力。
戦闘はしないで試験官がつく。
戦闘なしの試験の内容は先生達が考えて作ったのだ。
「お兄ちゃん行ってくるね」
観客席からバトルフィールドに移動するリリア。
コロシアムの会場に全学年の生徒が集まり試験をすることになる。
バトルフィールドには三十人の生徒が同時に試験を初めて終わるとすぐに交代だ。
リリアの番はすぐにきた。
試験はまず光の玉を空中に浮かせ前方に移動させる。
球体が乱れないようにしながらその場で維持。
試験官の先生はそれを確認して、その球体に魔法を放つ。
それを魔法で迎撃したり、魔法の障壁を作りガードしたり、その場で球体を移動させたりして応用力を測る。
魔力測定は水晶で計れる最大値が十点。
球体を維持して試験中に一回も乱れなければ十点。
試験官の魔法の全てを球体に当たらないようにすれば十点。
三十で満点だ。
我が妹様は勿論満点だ!
リリアの番が終わるともうそろそろ俺の番だ。
俺は観客席から立ち上がり、バトルフィールドに移動する。
俺は最後の組だ。
コイツはいらないと全生徒に見て貰うように目立つ最後に俺を持ってきたのだろう。
俺はバトルフィールドに立っている。
周りが色とりどりの球体を空中に出している中、俺は立っているだけだ。
会場中がザワザワしている。
『何アイツ立ってるだけじゃん』
『なんであんな奴がいるの?』
『アイツは妹の願いで特待生クラスに入ったクズだよ』
『私なら絶対恥をさらしてまで入りたいと思わないわよ』
『だよな、妹の事も考えてやれよ』
『帰れよ! なんでアイツが特待生で、俺は!』
『前から気にくわなかったんだよな!』
『アイツ剣の勇者様が使ってたあのグランゼルも手に入れてるんだぜ!』
『見せびらかすように今も持って来やがって!』
会場中が俺に向けて何か言っている。
予想はつく、先生達は予想通りの展開だろう。
試験官の先生達はニヤニヤしているからな。
俺は何も出来ずに試験は終了する。
勿論俺の点数は【0点】だ。
観客席に向かうとリリアは。
「お兄ちゃんの凄さが皆わからないだけだもん!」と励ましてくれた。
俺はこの試験の結末を知っているから返事を返す事が出来なかった。
男子教師がバトルフィールドの中央に立ち、結果を発表する。
同列一位が三十八名もいた。
そして裏ルールの発表される。
「伝え忘れていたルールがありました。このフィーリオン剣士学園にこんな結果を出す生徒はいないと思っておりましたので予想外でした」
白々しく決められていたセリフを男子教師が口にする。
「0点を出した生徒は退学処分になります。そして残念な事に該当した生徒がいます」
シーンと静まりかえる観客席。
「クレス・フィールド君です!」
リリアが席を立とうとしたのを俺は止める。
「ですが、伝え忘れていたのはコチラのミスです。採用するかしないかは多数決で決めたいと思います。これに賛成の生徒は拍手を、これに反対の生徒は手を上げてください」
静まりかえっていた会場中から盛大に拍手の音が鳴り響く。
隣に座るリリアは手を上げながら。
「なんで……お兄ちゃんは本当の剣の勇者なのに……」
と寂しそうに呟いた。
『こんなの間違ってる!!!』
拍手に負けない大きな声を出して立ち上がる者がいた。
「ユウカちゃん……」
ユウカはバトルフィールドに飛び立つ。
ユウカを追うようにミミリアが観客席から飛び立つ。
『私もユウカ様と同じ意見だ』
「お姉ちゃん……」
俺の為にやってくれる事は嬉しいが。
「ルールはちゃんと守らないとな! 決まってしまった物はしょうがない、リリアはここにいろよ」
俺は立ち上がり、リリアに笑顔で伝える。
「お兄ちゃん待ってよ……」
寂しげなリリアの言葉を背に俺はバトルフィールドに飛び降りる。
「クレス」
「クレス君」
「ミミリア、ユウカ、お前らを止めに来た」
「なんでさ! これってクレス君を退学させる為に仕組まれた事なんだよね!」
「あぁ、だがルールはルールだ」
「本気なのかクレス」
「本気だ」
ミミリアとユウカの魔力量がはねあがる。
『天空の光よ、僕に力を』
『漆黒の闇よ、形をなし我が手の中へ』
透明な白銀と黒銀のオーラを纏うユウカの手には透明な剣が。
黒銀のオーラを纏うミミリアの手には銀色の剣が現れる。
「クレス君、僕は怒ってるよ! クレス君がいなくなったら僕や、リリアちゃん、ミミリアちゃん、フィリアちゃんが悲しむよ!」
「クレスがいなくなったらリリアは悲しむ、私はリリアの悲しむ顔は見たくない! クレスが一番見たくないんじゃないのか!」
俺は腰に掛けてる鞘からグランゼルを引き抜く。
『私もお兄ちゃんがいなくなるのは嫌だ!』
リリアは透明な剣と白銀色のオーラルを纏い、バトルフィールドに舞い降りる。
「リリアもかよ」
三人共に目の色を変え
「いなくなるって言っても学園から追い出されるだけだぞ? 会おうと思えば会える」
「私はお兄ちゃんと一緒に学園生活がしたいの!」
最初の頃を思い出す。ついてくるなとリリアから言われてリリアが心配で無理矢理ついて来たんだよな。
今ではリリアの周りには任せても大丈夫と思えるだけの信頼できる奴等に囲まれている。
「俺の役目は終わっている。もうそろそろのんびりさせてくれ」
三人共にこの意味を分かっているだろう。
のんびり生きたいという俺の願い。
それを聞いてリリアの魔力が段々と下がっていく。
「リリアちゃん、ワガママぐらいはお兄ちゃんに言ってもいいんだよ!」
「私! お兄ちゃんと一緒に学園生活したい!」
ユウカの一言でリリアのヤル気を取り戻す。
「しょうがないなお前らは俺が負ければお前らの好きなようにしてやる! 俺が勝てばルールに従え」
リリア達に勝ちはないのは分かってはいるが諦めて言うことを聞く理由もない。
『これは勝ちが見えて面白くない、我がリリア達に力を貸そう』
バトルフィールドの中に闇が集まりその中から姿を現す。
黒銀のオーラを纏い現れたのはフィリアだ。
精霊化をしていてフィリアも本気なのだろう。
「フィリアちゃん」
「我もリリアの悲しむ顔は見たくないからな」
フィリアは両手に黒い刀を出す。
「皆んな! クレス君を本気で止めるよ!」
ユウカの言葉と共に全員が構えをとる。
「本気で止めるか……」
クレスはグランゼルをリリア達に向ける。
『手加減してやるからかかってこいよ』
観客は何が起こっているのか分からない。最弱と思っていたクレス・フィールドにラグナロクで優勝していた三人に加え、元邪神まで強敵と戦うような緊張感を醸し出している。
その様子に目を奪われ、誰一人として口を開こうとしない。
会場中がクレス・フィールドの出しているプレッシャーにのまれているのだった。
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