別れの始まり
ラグナロクが終わり、俺は寮に一人だ。
コンコンと扉を叩く音が聞こえ、扉を開ける。
「ミントか? どうした?」
そこにはミントの姿があった。
「クレス様ちょっと話があります、リリアさんはいますか?」
「いや、今はいないが」
「そうですか、都合がいいですね……」
次の日になり、最初の授業でミントが教室の扉に手を向ける。
「は~い、このクラスに転入生が来ました~」
またこのクラスかよ!
転入生が来るのは知ってた。
ユウカの時もそうだったが、豪華な椅子と豪華な机がすでに用意されているからだ。
俺のは普通の椅子に普通の机だ。
性能的には一緒らしいが、なんでだ!
定員十五名なはずの特待生クラスなのにフィリアも含めたら今は十八名。
扉が盛大に開き、長い黒髪をなびかせながら教室に入ってくる。
「我はフィリア・アーリエスタじゃ」
ミントの隣まで来るとフィリアは自己紹介を始める。
「元邪神じゃ」
ラグナロクで皆んなフィリアが元邪神なのは知っているだろう。
『なんで邪神なんか』
『来ても迷惑なだけだ!』
性格の悪いコイツらの事だ、俺の自己紹介の時みたいになるんだろう。
『わぁ、邪神って事は剣の勇者に会ったことあるんだよね~』
『ききた~い!』
『剣の勇者ってどんな人なの? 魔法使えなかったって本当?』
クラス中は盛大に歓迎ムードだ。
剣の勇者ファンなコイツらは邪神なんて些細な事なのだろう。
自分が目指している最強と肩を並べた人物がいることが嬉しいみたいだ。
そんなコイツらに一言いいたい。
(なんでだ!)
俺は心の中で叫ぶ。
「ん? なぜ我に聞くのだ? 本人に聞けばよかろう?」
フィリアはチラッと俺を見る。
俺は目でフィリアに伝える。
『言うな!』
正体をバラされては俺は妹様を影から守る事が出来なくなるし、剣の勇者の妹ということで迷惑がかかるかもしれない。
俺の仕事はリリアに群がる害虫の駆除だ。
『本人?』
『ミミリア様じゃないかしら?』
『ミミリア様には近寄れないよね』
クラスの奴等は勘違いしてくれたみたいだ。
「フィリア様の席はあそこですね」
ミントが空いている席を指差す。
フィリアはそこに向かい席に座る。
フィリアの自己紹介も終わり。
「それではコロシアムに移動します」
コロシアムの修復が終わってやっと魔力コントロールの授業ができる。
俺は質を最大限にして椅子に魔力を注ぐ。
『うぉぉぉぉぉぉ!』
心の中で雄叫びを上げながら俺の中にある十の魔力を一気に注ぎ込む。
そして何も起きない椅子にもたれかかり。
「はい、お兄ちゃん」
リリアが俺の椅子に魔力を注ぎ、模擬剣を取り出してくれた。
ちょっと頑張りすぎたかな? 目から汗が……。
「リリアありがとな」
「うん」
リリアは頬を朱に染めながら返事を返す。
コロシアムについた。
俺は魔力がないから邪魔にならないように隅に座り、リリア達が仲良く魔力コントロールをやっている姿を見る。
移動中はフィリア、リリア、ユウカの三人でガールズトークをしていた。
この三人はラグナロクで何があったのかわからないが凄く仲がよくなっている。
昨日も。
『ユウカちゃんと、お姉ちゃんと、フィリアちゃんでお泊まりだよ~』
と言いながら俺をおいてユウカの所にお泊まりに行った程だ。
兄離れが来たか……寂し……妹の成長を嬉しく思うことにする。
俺は昨日の一晩で考えていたのだ。
本当に妹様を想うのなら一緒にいてはいけないんじゃないかと。
俺が守る必要はないんじゃないかと。
友達も出来て俺にしてやれることは剣を教えてやれる事ぐらい。
俺がこんなことを思っているのは理由がある。
ラグナロクが終った後に知ったのだが、試験があるらしい。
出来たと言った方がいいのか?
フィーリオン剣士学園には魔力がない奴が邪魔なのだ。
名門の高校や大学と一緒でそこに落ちこぼれがいることが許せないのだろう。
俺を学園から出す為に作った試験。
ミントがコソッと教えてくれた裏ルール。
昨日、俺が一人の時に寮に来て試験で最下位の人は退学になるらしい。
リリアの願いを正式な退学扱いにしたら覆せるという無理矢理なやり方だ。
もし万が一にも俺が最下位にならなかった時の事を想定してこのルールは発表されないという。
もちろん俺が最下位になればその場で発表される。
俺が退学になっても一生会えないという訳じゃないからな。
「お兄ちゃん何してるの? 一緒にやろ」
リリアは座っている俺に手を差し出す。
「俺が行っても何もできないぞ」
「私がお兄ちゃんと一緒にいたいからいいんだもん」
「そうか」
俺はリリアの手を握り立ち上がる。
リリアに引っ張られながらフィリアとユウカの所に行く。
「クレス君一人だけサボりかい? そういうのはよくないよ」
「そうだな、俺は教えるしか出来ないがな!」
試験のルールは到底魔力無しではクリアできないらしい。
最下位になるのがわかっているなら学園生活の限りある時間を楽しもうか。
リリアは一人でもやって行けるだろうか? 寂しくならないだろうか? そんな想いが俺の中に溢れてくるのだった。
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