固有スキル









「改めて、俺は剣の勇者だ」


「改めなくても見ればわかるよ!」


 ユウカの言うことは尤もだったが人形と入れ替わった本物としては少し複雑な気分だ。





「さっきまで精霊化オーラルフォーゼとかしてなかったよね?」


「うん」


 ユウカの問いにリリアは同意する。


「言っておくがこれは精霊化じゃない。この中で分かる奴はいると思うが、秘密だ」


「ま、まさか精霊神の!」


 リリアの驚く顔を見てクレスはニヤリと笑う。


「どういうこと? リリアちゃん」


「あの状態は精霊神が中に入った状態なんだよ、フィリアちゃんが言ってたよね。その完成した姿が今の剣の勇者様だよ」


「なるほど僕はわかっちゃった、あれは本物だよ」


「えっ? お兄ちゃんなの?」


「記憶の石の剣の勇者がそんなこと出来るはずないじゃないか」


「ユウカ様! 本物と言っても私達は記憶の石から出現するのを見ましたよ」


 確かにユウカ達は剣の勇者が記憶の石から出てくるのを見ている。


「でもね剣の勇者がいなくなった時いや、居なくなって見えた時があるよね」


「その時にお兄ちゃんと入れ替わったのかな?」


「僕の勘は当たるんだよ~」


 ユウカの発言でリリアとミミリアは目の前の敵がクレスだと確信する。


「話し合いは終わったか?」


「終わったよ、お兄ちゃん」


「お、俺は、妹なぞ、おらないぞ」


 クレスは動揺しまくっている。





 なんで気づかれた!


「リリアはお兄ちゃんの事なら何でも分かるもん!」


「リリア……」


 さすが可愛い我が妹だ。



「リリアちゃん一人だけ好感度上げるのはズルいよ、真実は僕の勇者のスキルさ!」


 普通に騙されそうになったわ!


「固有スキルか」


 モニターで見たな、直感が全て当たるスキルか。


 俺は理不尽を切り裂く剣が消えていった空間を見つめる。


 俺の固有スキルと違ってチートだな。





「僕達だけじゃ勝てないね。僕はね、この戦いに勝ってクレス君と住む家を手に入れるんだ!」


「勝っても願いは皆んなで一つですよ?」


「えっ? 皆んなで?」


「はい、優勝特典なのでこの三人で一つです」


 ユウカは一人一つの願いが叶えられると思っていたみたいだ。



 三人の相談が始まった。


 クレスはその場にグランゼルを刺して座り込む。


「どうしよっか? 僕は家が欲しいんだけど」


「私は剣の勇者と手合わせ出来ればいいので願いの方はどうでもいいです」


「リリアもお兄ちゃんとユウカちゃんと一緒に暮らす~」


「決まりだね」


 三人いや、二人の決意は固まった。



「やっとか」


 クレスは地面に刺したグランゼルを引き抜きながら立ち上がる。


「剣の勇者には三人じゃどうしても勝てない、だから奥の手を使わせて貰うよ」


「奥の手?」


 クレスは奥の手と聞いて身構える。




「ここにいるのは悪の剣の勇者だ~!」


 ユウカが叫ぶと。


 会場から黒い影が飛来する。


 ユウカ達三人の前に勇者達が現れた。


「勇者参上と言ったところか?」


 反発の勇者が声を出す。


「俺は嫌だってあんな化物と戦うのは」


 精霊の勇者は光の勇者に腕を握られて無理矢理連れてこられたようだ。


「俺達は君を倒しに来たんだ! 悪いが消えてもらう」


 光の勇者がクレスに言い放つ。


「ほう、俺をお前ら雑魚が倒せると本気で思っているのか?」


 クレスは悪役にされてもノリノリだ。


「俺は知っている、お前呪いが掛かってるらしいな?」


「呪い? なんのことだ?」


 光の勇者がクレスに呪いの事を告げる。


(あっ! ユウカが女神の予言で言っていたような)


「とぼけても無駄だ!」


「離せ! ここまで来たんだやってやるよ」


 精霊の勇者は光の勇者に握られた腕を離してもらう。



 勇者達全員が精霊化を発動させる。


 光の勇者は白銀のオーラルを纏い。


 反発の勇者は黒銀のオーラルを纏い。


 精霊の勇者は白銀のオーラルを纏う。


「剣の勇者を消し去る! 行くぞ」


 反発の勇者の声と共に勇者達は腰にある剣を抜くと三人同時に剣の勇者に斬りかかる。


「遅いな」


 剣の勇者はその全てを弾き返す。


「邪神を倒したコンビネーションで行くぞ!」


 光の勇者が叫ぶ。


『光を纏いし聖なる守りをここに』


 光の勇者の左手に輝く光の盾が姿を現す。


 反発の勇者は光と闇の神級反発魔法を唱える。


『正邪の嘆きを聞き、その身をもって味わえ』


 重力魔法は強く魔力を込めるとそれだけ範囲が広がる。


 だが反発の勇者の固有スキルは『特定』範囲魔法などをピンポイントで敵に与える事が出来る。


 クレスにだけ重力が何十倍もかかる。


『光の精霊よ、我の力になれ』


 精霊の勇者は白い竜のような光の上級精霊を召喚する。


『精霊よ、我が恩恵に従い、友に祝福を』


 精霊の恩恵を最大に使い、精霊の勇者の前にいる光の勇者の身体能力を格段にあげる。



「もう準備は終わりか?」


「余裕に構えてられるのは今だけだ!」


 光の勇者がクレスとの距離を詰める。


「んっ!」


「気づいたようだな」


 クレスは光の勇者の剣が届く距離まで来て気づく。


(反発の勇者の重力魔法は動きも遅くなるのか!)


 クレスだけスローモーションの世界にいるみたいだ。


(だがそれだけだ)


 クレスは光の勇者の剣を全て弾き返す。


「次はこっちの番だな!」


 クレスは光の勇者では到底見えない速度で剣を振るう。


 重力魔法はクレスには効果がない。


 クレスの剣は全て光の勇者の盾で弾かれる。


「その盾堅いな、しかもなぜ全て読まている」


 剣から伝わる感触の違和感からクレスは距離を取る。


「俺の勇者のスキルはジャストガード、敵の攻撃を読んで受ければその攻撃が無効になる」


「そういうことか。闇の勇者とラインを繋げてるということだな? 珍しいスキルを使うな」


「よくわかったね、共有思考は俺の精霊化の能力でね。相手が断れば使えないけど繋がった人と脳内で会話できると思ってもらえればいいよ」


 クレスは思ってしまう。


(ユウカと光の勇者のコンボって最強じゃないか?)





『怖じ気づいたか? 剣の勇者!』


 光の勇者が言ってはいけない言葉を言ってしまった。


「光の勇者! 怒らせたらダメだよ!」


 ユウカが咄嗟に叫ぶ。


 バトルフィールド全体が一瞬で闇に覆われ、闇が空間を支配する。


 周りの雰囲気が変わる。


『ブラックワールド』


 クロが神級魔法を使う。



『お前ら俺の本気を見て生きて帰れると思うなよ』



 クレスは邪悪な笑みを張り付ける。


 その場の全員が逃げ出したい程のプレッシャーを感じる。


 本気なんか出してないのにクレスはこんな時でも悪役としてノリノリだった。

 

 



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