直感






『お前ら俺の本気を見て生きて帰れると思うなよ』


 少しでも勝てる望みがあったのにそれをぶち壊した光の勇者をユウカは睨む。





 勇者達は俺を倒すために出てきたようだがラグナロクのルール的にこれはどうなんだ?


『光の勇者様、反発の勇者様、精霊の勇者様、退場して下さい』


 アナウンスが会場中に響く。


 

 やっぱりな、さっさと退場しろよ。


 でも面白そうだな。


「怖じ気づいたのか? 別に退場してもいいぞ? 腰抜け勇者達」


 俺から発せられるプレッシャーで後退する勇者達を挑発する。


 闇に覆われているバトルフィールドの出口付近だけ闇が無くなる。


「くっ! 俺達は剣の勇者を倒すためにここに来たんだ! コイツを野放しにすると世界が滅ぶんだぞ!」


 反発の勇者が吠える。


「客席からこっちの様子は闇で覆われてるから見えない、こっそり退場しても誰もわからないぞ? ここにいる俺達以外な」


 悪役な俺からの悪魔のささやき。



 少し本気を出すとグランゼルが壊れるな。


「退場しないのか? なら本気で潰すぞ」


 俺は殺気が飛ばし、地面にグランゼルを刺す。


「俺は剣の勇者を倒す!」


 光の勇者がプレッシャーに気圧されながらも俺に斬りかかる。


「お前さ自分の立場が分かってないようだな!」


 俺は何も無い空間から金のオーラを纏う黒剣を取り出す。


『リミテッド・アビリティー』




 俺が向かい打とうとした時、光の勇者が距離を取る。


 距離を取った光の勇者に疑問を覚え、チラリとユウカを見る。


「ほう、やはり闇の勇者の直感はチートだな」


「何故止めるんだダークネス!」


 後ろにいるユウカに届くように光の勇者は声を出す。


「僕が支援しても剣の勇者には勝てない」


「何故だ! 俺達のスキルを合わせれば負けることはない!」


「負けることはない? 違うよ、剣の勇者は最初から本気なんか出してない。今だって力の半分を出してるか、出してないかだろうね」


「ど、どういうことだ?」


「僕の直感ではもう僕達の負けは決まっている」


 俺は光の勇者に説明して上げることにした。


「邪神を倒したコンビネーション? 穴だらけなんだよな、もし俺がお前以外を攻撃したらどうする? それですぐに破れる戦術だ」


「剣の勇者を俺が足止めしてればいいだろ」


「お前はバカか? 直感で先読みしないと防げない速度を俺が出してるんだぞ? お前を避けて後ろの奴等を先に倒すこともできる」


「俺を避ける? 俺が怖いのか!」


「おいおい、周りから支援してもらってそれはないだろ」


「支援がなくても俺は戦える!」


「なるほどな、おいそこの精霊! 今すぐ精霊界に帰れ!」


 俺の命令に白い竜は頷くと光の粒子になり消えていく。


「えっ? なんで?」


 精霊の勇者は自分の精霊が何故消えたのか分からない。


 光の勇者の身体能力も格段に下がる。


『ミラージュ』


 クロが神級魔法を発動する。


「ぐはっ!」


 反発の勇者が地面に倒れる。


 ミラージュは自分を対象にかけられている魔法と同じ魔法を相手にかけることができるが、かけられている魔法の二倍の魔力を消費する。


 反発の勇者は何十倍もの重力を体験してるだろう。


『ミラージュ』


「うわっ!」


 精霊の勇者もまた精霊神の魔法で地面に倒れる。


「負けない強さって奴を俺に見せてくれよ雑魚勇者君」


 俺は一歩も動かずにこの場を支配する。


『ミラージュ』


 光の勇者にも重力魔法がかかる。


「ぐっ! こんなもの!」


 重力魔法で倒れそうになった光の勇者はその場で踏ん張り、倒れるのを防いでいる。


「かかってこいよ~ほらほら~」


 一歩一歩、重力に逆らいながら近寄ってくる光の勇者を挑発する。


 俺は本当に元勇者とは思えない程の悪役っぷりだ。


「こんな魔法を使って弱らせた相手と戦うのが最強と言われた剣の勇者の戦い方か!」


 えっ? 俺が使われてる魔法と同じ魔法を相手にも使っただけなのに俺が悪いことしたみたいになってるの? 


 しかもクロがやってるだけで俺が魔法かけてる訳じゃないし。


 まぁいいか。


「そうだ! これが俺の戦い方だ! 雑魚は雑魚らしく自分の弱さに嘆きながら退場しろ」


 俺はその場で黒剣を縦に二回振る。


 その斬撃は衝撃波を生み、光の勇者の横を通り過ぎると。


「「ぐはぁぁ!」」


 精霊の勇者と反発の勇者を巻き込み出口に消えていく。


 俺の身体が軽くなる、重力魔法が解けたのだろう。



『クロやめていいぞ』


 心の中で精霊神と会話する。


『はい』


 クロはミラージュの発動を解く。





「お前の心を保ってるのは破れることの無い守りか? それなら今から俺が砕いてやるよ!」


 クレスは光の勇者に迫り、剣を振る。


 それをユウカの直感で全て受けきる光の勇者。


「苦しくなってきたか?」


 ジャストガードを発動している勇者の顔が苦痛に歪む。


 クレスは気の抜けない鋭い剣を繰り出しながら続ける。


「どれだけお前が周りに頼っていたのか分かっただろ? 今も闇の勇者の力を使わないと一瞬で退場だぞ」


「そんなことは、ない!」


「まだわかんねぇようだな! 自分一人で全部出来ると思ってる奴にはそこが限界なんだよ!」


 直感でも追い付かない速度で剣を振る。


 パリン!


 盾がガラスのように砕け散る。


「なに!」


 光の勇者は無敵の盾が砕けた事に驚愕している。


「最後に忠告だ、仲間には感謝を示せ! そして自分が最強とは思わないことだな!」


 忠告を告げると。


 クレスは光の勇者を下から上に切り上げる。


 空中に飛んでいった光の勇者を追うようにクレスはその場で地面を蹴り、空中で斬撃の衝撃波を放つ。


 その衝撃波は光の勇者を巻き込みながら出口に向かって消える。




 地面に着地したクレスは黒剣を放り、グランゼルを引き抜く。


 キラキラと消える黒剣を背にクレスは呟く。




『最強は俺だ』




 邪魔者が消えたバトルフィールドの中、戦いに全く参加出来ていなかったリリア達は最強に剣を向ける。


『お兄ちゃん』


『クレス』


『クレス君』


 三人は今見た光景に。




『『『知ってたけど強すぎる!』』』



 三人の叫びがバトルフィールドに響いたのだった。

 




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