弁当










 何度、死ぬ程の痛みを味わっただろうかとフィリアは思った。





 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。





 フィリアのそんな想いを知っていながらに攻撃して笑っている人物がいた。




「今さら後悔してるのか、もう遅いわぁぁぁあああ! ハハハハ」


 そうクレスだ。




「な、なにを、笑って、いるのじゃ」


 また死の一撃を貰ったフィリアは緑のオーラが光輝き、そして身体の傷が消える。


 はぁはぁと息を整えるフィリア。


「こんな全力で力を出せることなんて今までなかったからな!」


 クレスは自分のテンションが段々と可笑しくなっていることには気づいている。


 一言いい終えると、また始まる死の舞踏。


「今まで、の、鬱憤を、我で、晴らすなぁぁぁあああ!」


 そして死の一撃、また緑のオーラが輝く。


「フィリアお前には悪いと思っている! だが! やめる気はない!」


 言い放つとクレスは攻撃を始める。



 それから数分間に何千とフィリアの悲痛な叫びが辺りに響いただろうか。


「ハハハハ! ん?」


 ふとクレスは背中に冷たい視線を感じる。


 フィリアに『妖精のイタズラ』を発動させて振り返る。


『お兄ちゃん酷い』


 リリアから冷たい視線と共に冷たい言葉を浴びる。


「ぐはっ!」


 クレスは血を吐きながら片膝をつく。


「リリア違うんだよ、これはな、フィリアを助ける為であってな」


 言い訳を必死に考えるが全然出てこない。


「剣の勇者は我を助けようとしてるのはわかるのじゃ、気にしないでもよい」


「でも……」


 ナイスだ! フィリア!


「今はこの方法しかないからな、黙って見ててくれ」


 クレスはリリアに言う。





 この『妖精のイタズラ』も一か八かの掛けだった。


 身体は戻るが、記憶や痛みまでは戻らないのがこのスキルの特徴だ。


 精神が限定精霊化に耐えられなくなり、起きる暴走まで止められるか分からなかった。


「もうそろそろ決めるか! このスキルを使った必殺技を見せてやる」


 クレスは立ち上がり、姿を消す。


 力のセーブをしなくてもいい状態になっているクレスの剣の速度に自己防衛も追い付かない。


 緑のオーラが激しく点滅しだす。


 フィリアは攻撃を受けているが、その痛みが感じられない。


 数分間に渡る一方的な攻撃が終わり、消えていたクレスがまたその場に現れる。


 クレスは額の汗を手の甲で拭き取る。


「ふぅ、フィリア恨むなよ」


「恐いことを言うな!」


 激しく点滅していた緑のオーラが段々と点滅する速度を落としていく。


「な、なにが起きるのじゃ」


「……」


 クレスは無言で目線をそらす。


 そしてフィリアの緑のオーラが激しく光った後にオーラが消える。




「ッ……!!!!」


 声にならない悲鳴がフィリアの口から漏れる。



 フィリアはその場で地面に倒れ気絶した。


『最初からコレをしてたら良かったんじゃないですか? 主様』


『いや、それは黙ってろよ。言ったらリリアに本当に嫌われそうだ』


 シロと心の中で会話する。


『暴走が起きるかどうか見なければ使えませんでしたけど、少し遅かったように感じられます』


『マジごめん、ちょっと楽しんでました! 俺にできる事ならこの後なんでもやるから許してください』


『約束ですよ、少し主様をからかいすぎましたね』


『クロは精霊界で寝てると思うから再生の手伝いをやってくれると嬉しいんだが』


 無理やり限定精霊化をさせられた闇の精霊神だが、魔力を安定させれば通常の状態に戻る。


 限定精霊化をしたのは抜け殻みたいな物で本体は取り込まれる前に精霊界に帰っているからな。


『はい、頼まれなくても手伝いに行きます』



 クレスの目が蒼に変わり、身体から光の粒子が出ていく。


 その光の粒子が人の形をになり。


「じゃあ私は帰りますね。何かあれば何時でもお呼びください主様」


「あぁ助かった、またな」


 姿が空中で溶けていき、光の精霊神は精霊界に帰っていく。




「さてと、え~と何しに来たんだっけ?」


 クレスは何か忘れてるような気がするが、なんだったか思い出せない。


「あっ! 弁当だ!」


「お兄ちゃん回復しなきゃ!」


 後ろにいたリリアがおぼつかない足取りでフィリアの傍に近寄り回復魔法をかける。



「俺を忘れて貰っては困る!」


「お前はえ~と、精霊の勇者? だっけか? 負けを認めてさっさと退場しろ」


 クレスは持っている黒剣をソラに向ける。


「剣の勇者、俺を甘くみるなよ!」


 ソラが声を出す。


 するとクレスが消えて。


 ソラは気づくと自分の首に黒剣が添えてある。





『甘く見てるのはどっちだ? お前の為に言ってるんだよ。お前がいなければ鎖を切るだけですんだんだ。俺は妹の前では殺しはしない。気が変わらないうちに帰れ』


 低い声にソラは身震いする。


「はい、降参します」


「あとここで見たことは言うなよ」


 降参を宣言して首を縦に振りながらソラは光に包まれ転移させられる。



「お兄ちゃん! これ!」


 リリアの呼び掛けに反応すると。


「それは大丈夫だ、本人は残念がると思うがな」


 フィリアの身体が若返っていく。




 回復魔法が一段落してフィリアを抱え、ユウカ達がいるところに運ぶ。


 リリアが言うにはミミリアは疲れきって途中から気を失ったのか寝てたらしい。


 今、三人の美少女が寝ている図だな。


「お兄ちゃん?」


 唯一起きているリリアから冷たい視線を感じる。


 ちょっとニヤけていたみたいだ! 危ない。


「じゃ、じゃあ弁当はそこに置いてあるから起きたら皆んなで食べな」


 クレスは弁当を指差してリリアに確認させると。


「えっ! お兄ちゃんもう行くの?」


「本当は俺も一緒に食べるはずだったが時間も弁当の数も足りなくなったしな」


 クレスはそう言うと足をゲートがある方向に向ける。


「お兄ちゃん待って」


「ん?」


「助けてくれてありがとう」


 リリアの頬が朱に染まる。




『かっこよかったよ』


 最後の言葉はイタズラな風の音が吹き飛ばす。


「あぁ、じゃあな。気を付けろよ~」


 クレスは手を振りながら帰っていく。





 それから数十分後にユウカ、ミミリア、フィリアの順で起きていき。



 ユウカとミミリアにはクレスが起こした出来事を弁当を皆んなで食べながらリリアは自慢するように話すのだった。



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