虹の石










 休憩は三時間もある。


 長すぎじゃないかと思うだろうが、朝昼晩の三回だけだ。


 俺がバトルフィールドにいた時間は二時間ぐらいだったと思う。


 今はご飯を食べる為にコロシアムの食堂エリアに来て、順番待ちをしている。


 ここに来るまでに結構迷った。


 迷路かと思った程だ。



 モニターが復活する。


 休憩中は森のステージに固定されていたが瞬時にキツい傾斜と岩が目立つ山岳地帯というのだろうか? そんなフィールドにチェンジした。



 リリア達は何を喋っているのか分からないが、盛り上がってるらしい姿が映っている。


 モニターに映っているリリア達の中にフィリアはいなかった。




 お、俺の番か。


 モニターを見ている内に自分の番が来たらしい。


 ここは学校の学食みたいに列に並び、自分の番が来たらメニューにある食べたい料理を言うだけ。


「何になさいましょうか?」


 学校の食堂みたいにおばちゃんがやっているのではなく、若いお姉さんが注文から料理までやってくれるらしい!


 いいな!


 しかもこれは! メイド服だ!


 おばさんのメイド服なんて見たくないからな。


「え~と、ソバ! じゃなくて」


 俺はリリアから教えて貰った料理名を上にぶら下げられたメニュー板を見ながら思い出す。


 おっ! あった!


「ミナルディーを1つ」


 そう俺はリリアに作って貰うから料理名には疎いのだ! しかも馴れない。


 昔の異世界では肉を焼いて食う、味付けは塩をつけるか、最初から塩を塗り込まれた最早塩の味しかしない肉しか食ってなかった。


 戦場の最前線なんてそんなものだ。


 安全地帯の貴族達が何を食ってたのかは知らない。知ってしまったら俺は人族最大の敵になってたかもな!





「かしこまりました」


 俺が注文するとメイドのお姉さんがテキパキと料理を作ってくれる。


 日本と違うところは番号札とか配らずに十人のお姉さん達が一人一人につき、注文を受けてから料理を作る。それを繰り返している。


 料理も凄く早かった。


 俺はソバに似た物をお盆に乗せてテーブルに運ぶ。




 空いているテーブルに座るとソバを食べ始める。


 ズルル、ズルルと麺を綴る音が心地いい。


「うるせぇー!」


「ん?」


 俺は大声を出した人物に目を向ける。


「食事中に汚い音を立てるな」


 浅黒い肌を持ち、茶色の髪をオールバックにしていて目つきが鋭い大柄の男が突っ掛かって来た。


「これは俺の国の食べ方だ! これがこの食べ物を食べる時の礼儀だと俺は思っている!」


 俺は胸を張り自慢気に話す。


「礼儀とか知ったことか!」


 大柄の男がいきなり殴り掛かって来やがった!



 俺はそれを受けるか避けるかを考える。


 よし避け……。


「なにをしているのだ? 貴様は」


 すると大柄の男の太い腕をフィリアが小さな腕で難なく受け止めていた。


「じゃ、邪神様!」


 大柄の男はすぐさま腕を引き、頭を下げる。


「すぐ手を出すな! 貴様のような奴のせいで魔族は敬遠されるのじゃ!」


 邪神は人族との共存を受け入れているらしいな。


「ところで貴様は何故このような所におるのじゃ?」


 フィリアは大柄の男に疑問を投げ掛ける。


「それが……」


 大柄の男が説明を始める。



 横から聞いてた俺がやくすと。


 バトルフィールドの中で俺とフィリアが戦っていた時に近くにいたコイツはわけもわからずに大ダメージを受けて退場させられたらしい。


 しかもコイツだけではなく数十人が同じように巻き込まれたと話している。


 俺が戦闘中に注意していたのは俺の後ろだけ、それ以外の範囲は知らない。


「そうか、それは残念じゃったな。もう行ってよいぞ」


 フィリアの言葉に大柄の男はすぐさま帰っていく。



「じゃあ次は何でお前がここにいるんだ?」


 フィリアは向かいの席に座る。


「我は負けた。退場するのは当たり前じゃろ? ルールでは負けた事にはなっておらぬが負けは負けじゃ。弁当を一緒に食べ、少し話した後に我は負けを宣言したのじゃ」


 ラグナロクの負けは魔力と物理が関わり、戦闘不能状態に陥ると負けになり、強制的にバトルフィールドの外へ転移させられる。


 簡単に説明すると相手から攻撃されて気絶したら負けになる。


 ユウカとミミリアは魔力切れと無理な戦いをしたために気絶。これは相手から攻撃されてそうなった訳ではないので強制的に転移はされない。


 戦闘不能状態の時に少しでも相手から攻撃されるとすぐに転移だが。


 フィリアの身体は無傷で精神的なダメージの蓄積による気絶だからこれもセーフみたいだな。


 負けを宣言しても転移の対象となる。




「精霊神の事は悪いと思っておる」


「そこだよ気になってるのは、何でお前達が精霊神を持っていた?」


 ズルル、ズルル。


「それがな、我もこの学園に入ったのはつい最近なのじゃ。そして精霊神を貰った。剣の勇者がこの世界におるかも知れないと噂に聞いていたから精霊神はどさくさに紛れて逃がそうと思っておったのじゃが」


 フィリアは俺が精霊神と仲が良い事は知っているからな。剣の勇者の実力を知っているならすぐに逃がすだろう。


「ホーリートレースの剣の勇者にビビって無理に力を使ってしまったと?」


「そういうことじゃ。あんな風になるとは思っていなかったが、あとには引けない状況まで行ってしまったのじゃ。本当にすまぬ、リリア達には許しを貰った、精霊神にも謝りたいと思っておる」


「気持ちは受け取った。精霊達は気にしてないと思うが、伝えといてやる。こっちも精霊神が帰ってくれば何も言うことはない、次はないがな」


 俺は脅しを掛けておく。


「貰ったと言ったが、誰からだ?」


 俺は精霊神を最初に捕まえた人物が気になる。


 ズルル、ズルル。


「顔はわからぬ、何時もフードを被っておる連中でな、精霊神の力はもう必要ないとも言っておったな? 精霊の勇者にもそのようなことを言っておったらしい。たしか虹の石が見つかったと言っていたか?」


「虹の石だと! そんな物で何をしようとしてるんだ?」


「我にもわからぬ、それに虹の石とはなんじゃ?」


「虹の石はな、優れた者たちを封印して、魔力を何百年と奪い蓄積させた物だ。全部壊したと思っていたんだがな」


 最近まで知らなかったが、そこにいたのが闇の勇者なユウカだったんだよな。


 ズルル、ズルル。


「ふむ、それで何をしようとしているのじゃ?」


「俺にも分からん、なんせ虹の石一つで大陸を消せる程の威力を発揮するからな~。まぁそれを扱える奴がいればの話だが。昔はそれを悪用しようとした人族も魔族も、虹の石が強大な力になりすぎて扱えなかった程だ」


「扱えるとしたら元の力を取り戻した我か精霊神ぐらいか」


「あぁ、嫌な予感がするな」


「同感じゃ」


 ズルル、ズルル、ズルル。


「クレスよ、嫌な予感がするとか言っていたが全然、緊張感が伝わってこないぞ」


「なにを言っている! 俺は真剣だ!」




 ズルル、ズルル、チュルル、ズズズ、はぁ~。





「もうちょっと真剣になれぇぇぇええ!」



 フィリアの叫びは食堂に響き渡るのだった。









 その頃、フードを被った怪しい集団達は。


『なに! 精霊神がもう奪われただと! 女神様のお告げと全然違うじゃねぇーか!』


 リーダーのように椅子にふんぞりかえっている奴が偉そうに吠える。


『はい、女神様のお告げは絶対外さないと言われていますが、唯一外しまくった時期があります』


『どういうことだ?』


『それは剣の勇者がいた時代の話だそうで、剣の勇者の行動は女神様でも予測が出来ないらしいのです』


『やはりあの中に剣の勇者がいたと言うことだな』


『はい、噂に聞くところによるとミミリア・リル・ミリアードが怪しいかと』


『剣の勇者と縁があるらしいなミリアード! 監視しとけ、妙な動きをしたら奥の手を使っても構わん! それほどに剣の勇者は危険だ』


『はっ!』


 敬礼のような仕草と返事を返すと報告しにきた黒フードが退室する。


『ラグナロクが終わったら最終段階に移すか』


 椅子にふんぞりかえっている黒フードが怪しげな独り言を呟く。




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