まだだよ!






 今日はラグナロクへ向けての全学年トーナメントが行われている。


「お兄ちゃん! はやく! はやく!」


「おっ! そこ空いてるな!」


 俺はポップコーンみたいな塩味のお菓子、パンに肉と野菜を挟んだ食べ物、フルーツを絞っただけのジュースが二個、その全てが乗っているお盆を持っている。


「観客席って埋まるんだな」


「うん、た~くさんでしょ」


 リリアは手を両手いっぱいに広げる。


 多分国中の奴等がここに集まってるじゃないかって程に人がいる。


 俺達は席に着き、大熱狂してるバトルフィールドの観戦席で自分の番まで順番待ちをする事にした。


 試合が終わると十五分ぐらいの休憩を挟むから次の試合に出る人は観客席に居ても充分に間に合うようになってる。


 リリアは次の試合に出ることになっている。


 全学年トーナメントだぞ? 人数が多いからまず最初にサドンデスを行って人数を減らす。


 サドンデスは一組三十八人を纏めて戦わせて十組に分けて行われる。


 そして一位のみがトーナメントに進める。




 午前中だけでサドンデスをやって午後にトーナメントとか時間に余裕が無さすぎる。


 だがな、それが可能なのだよ。


 先生達の考えはこうだ、圧倒的に勝てるだろう生徒を一人グループに入れる、これだけ。


 始まったのが八時。そして俺は寝坊して来てリリアの九回目に行われる試合が次の試合。


 そして今はなんと十時! 二時間でもう八グループ終わってるのだ。


 くじ引き? そんなの操作してたに決まってるだろ。


 リリアと俺は九と十グループだったので俺が時間に余裕を持って行動してたら観客として楽しめたのにな。ここまでテンポが早いとは思わなかった。




 観客席からバトルフィールドを見ると。


「おぉーと、ここで風属性神級の範囲魔法だ~!」


 実況が熱いな。


「範囲魔法をガードしようと防御魔法を張る! だが力負けしてる! 頑張れ~~、あぁ」


 まぁ、こういうことだ。四年生の特待生が範囲魔法で瞬殺するというまさに一方的な展開になっている。熱いバトルが観れるのは特待生同士ぐらいだろうが今のグループには居ないようだな。


「お兄ちゃん行ってくるね」


 八回戦も終わり、リリアがバトルフィールドに向かう。


 妹の晴れ舞台だからな! ちゃんと観なければ!


「さぁ、やって参りました。今回のメインではないでしょうか! 一年生にして学園最強、そしてなんと言っても美少女! リリア~フィ~ルド~~!」


 実況の声に導かれてリリアが最後に入場する。


 



 お兄ちゃんが見てる! 頑張らないと。


 サドンデスは多数対多数、一対一ではない。


 リリアは戦闘が始まると同時に両手を祈るように組む。


『聖なる光よ、私の道を邪魔する闇を飲み込め』


 リリアは質を上げ魔力を高める。


『シャイニングホール』


 光属性神級の範囲魔法を繰り出す。


 バトルフィールドの中心から光が波紋のように放たれて、それに触れた生徒達が身体を光が包む、その暖かい光に連れられて生徒達が走るよりも速く中心に向かって引っ張られていく。


 バトルフィールドの真ん中には生徒同士が衝突して出来た小山が現れた。


 リリアは数名の気絶を確認すると「ふぅ、終わったかな?」帰ろうと出入口に足を向ける。


「リリアさん、まだだよ!」


「こんなの余裕だ」


 そこにはボロボロの姿でオーラルを身に纏ったアクアとフレイルがいた。


「じゃあ、次行くよ!」


 リリアはまた手を祈るように組む。


『光の女神が歌う、聖なる歌よ、響け』

 

 アクアとフレイルの周りに光のカーテンが生まれる。


「ちょっ! リリアさん、僕達は貴女の為に決闘するはずなんですが」


「そうだよ! お前をめぐって俺達のバトルが火花を散らすんだぞ?」


『ホーリーエデン』


 躊躇いなく神級魔法が二人に放たれる。


 光のカーテンが光を放ち、アクアとフレイルから魔力が無くなる。


 アクアとフレイルの話はリリアの耳に入っていない。


 リリアが思ってるのは一つ。ただクレスに「頑張ったな」と褒められることを想像しているだけ。


 フレイルは魔力を全部急激に吸われた事で気絶している。


「終わったかな?」


 リリアはクレスがどこに居るか探していると。


「いえ、まだです」


 アクアがリリアの後ろから剣を降り下ろす。


 リリアは振り返らずに身体を少しズラしてかわす。


「アクア君だ! 一緒のグループだったんだね」


 リリアは振り返り、相手の顔を見る。


「え! そうですけど」


 アクアは自分が眼中に入ってなかったことを知り、少し残念な気持ちになる。


「お兄ちゃんに教えて貰ったオーラルの能力で私の魔法が防がれたの? やっぱりお兄ちゃんが教えたからね!」


 リリアは自慢気にアクアに話す。


「はい、クレスさんのおかげです」


「でも勝つのは私だよ! お兄ちゃんに褒めて貰うために!」


 リリアはまたまた手を祈るように組む。


「僕はリリアさんでも勝ちは譲れない!」


 アクアがリリアに剣を何度も振りかざす。


 それをリリアが容易く避けて詠唱を始める。


『私の最強を具現化せよ』

 

 リリアから少し離れて現れた光の玉が人の形になっていく。


『ホーリートレース』


 神級魔法のホーリートレースはただ好きな人物の力をトレースして戦わせるだけの魔法。その人の力を知ってるほどトレースした時の再現度が増す。


 だがどれほど再現度が高くても力は本人の一割にも満たない。知りもしない人物では不発になることがある。




 光が収まるとそこには。


「剣の勇者!」


 それを見たアクアが会場中が絶句する。



 黒髪黒目のユウ・オキタが目の前に居たからだ。



 観客席で見ていた本人が一番驚いているだろう。




 えっ? 俺の顔美化されまくってない? 絵本とかだとちょっと……ごめん、だいぶイケメン度が増してるんだよな。


 妹様は絵本の俺をトレースの材料にしたらしい。


 実物で見ると何か恥ずかしい!





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