禁忌




 俺は今フィーリオンにある喫茶店にいる。


「お兄ちゃん、あ~ん」


 リリアがアイスを口に運んでくれる。


「あ~ん」


 俺はそれを口一杯に頬張る。


「美味しい?」


「美味しい!」


 幸せだな~。


 呪いもない外の世界は身体が軽く感じる。


 フィーリオンには外敵から街を守る魔法しか張られてないからな。


 呪いは学園だけだ。




 お腹も膨れた後は街を見て回る。


 魔道具の店、洋服の店、アクセサリーの店、同じような店も見て回った。


「楽しいな~!」


 俺は素直な感想を口にする。


「お兄ちゃんとデート~」


 リリアと手を繋いでぶらぶらと散歩をしている。




「ユウ君~私も混ぜてくれないかな~」


 後ろから聴いたことがある声がするが振り向かない。


 なんでいるんだ!?


「お兄ちゃん? そこのお姉さんが話しかけてるよ」


 はぁ。


「なんだよアカメ」


 諦めて振り返る。


「お前もいたのか! アオイ!」


 振り返るともう一人の精霊神がいた。


「ユウ様、アカメから聞いていましたがずいぶん可愛らしい姿になられましたね」


 あれはスルーしてたんじゃなくて内心ではそんなこと思ってやがったのかよ。


「突然来て、また用があるのか?」


「はい。ユウ様に頼みがありまして、実は……」




 アオイは真剣な顔をしながら頼みを言ってきた。


「ふむふむ、シロとクロがか? ミドリとハナは無事なのか?」


 シロが光の精霊神、クロが闇の精霊神。


 ミドリが風の精霊神、ハナが土の精霊神だ。


「はい私達、火、水、風、土の精霊神は皆元気です。ただ光と闇の精霊神の安否は確認できていません」


「お兄ちゃん? 知り合いのお姉さん?」


 さっきから黙って聞いていた妹様が口を開く。


「えーとな、こ……」


「私達はそこのお兄さんの婚約者です!」


 アカメが俺の言葉を遮って爆弾を投下する。


「はい、私達は一生を捧げると誓いました」


 アオイもまた追撃する。


「お前ら!」


「こんな綺麗な人達が二人も! でもお兄ちゃんは渡さない!」


 俺を囲んで三人が戦闘態勢に入る。


「おいやめろ!」


 俺は三人の間に入る。





「お兄ちゃん、ごめんなさい」


「私もユウ様と久しぶりに会えて少し遊びすぎました、ごめんなさい」


「ユウ君が怒った~」


 リリアに精霊神達の事を説明した。




「あの精霊神なの? 剣の勇者に力を捧げたっていう?」


 リリアが尊敬の眼差しで精霊神達を見ている。


「私達がユウ様と一緒に戦った事もある精霊神です」


「お姉ちゃん達もお兄ちゃんが好きなんだね! 精霊神のお姉ちゃん達ならしょうがないよね」


「えぇユウ様の妹様なら私達も手を出しません」


「みんな仲良くユウ君が好きなんだよ~」


 三人の間に何かが芽生えている。



「それでは私達は帰ります」


「え~もう帰るの~、あっ! もしかして久しぶりに会って緊張しっぱなしだったの?」


 アオイの頬が朱に染まる。


「そ、そんな事はないです。行きますよ」


「ユウ君、私達の名前を呼んでくれたらすぐ来るから、だから……」


 アオイがアカメの手を掴んで瞬時に消える。




「嵐のような人達だったね」


「あぁ精霊神は厄災と言われてる時期もあったからな」


「厄災?」


「それを封じ込めるために精霊の鎖が生まれたんだよ」


「精霊達は知らないかもしれないがさっき出てた精霊の鎖は俺が禁忌指定をした禁忌のアイテムの一つだ」


 理由は色々あるんだが。


「人族は嵐が起きれば精霊のせい。森で火の海が発生したら精霊のせい。海で大津波が起きたら精霊のせい。地面が割れたら精霊のせい。精霊神達はその全てを軽減させるために動いていたというのにね」


「そんなの酷いよ」


 リリアは少し怒っている。精霊神達と仲良くなったしな。


「お兄ちゃんが全てを解決させたんだよ!」


 俺は胸を張って自慢する。


「お兄ちゃん凄い!」


「精霊神は軽減させるだけ、それ事態はあえてなくさない。人族は愚かだった。全てを精霊のせいにして捉えるなんてな。でも俺が全てを救い解決したらしい。俺は忘れてたけど精霊界に行ったときにこれでもか! ってほど自分が何をしたのかを聞かされたからな」


 本人の武勇伝を自慢気に本人に話されたのだ。覚えるまで何回も! 忘れるはずがない。


「それじゃ日も暮れてきたし帰るか」


「うん」


 俺はリリアと手を繋ぎながら夕暮れの道を帰る。




 学園が見えてきて人通りが少なくなってきた時に俺は声をかける。


「そこにいるのは誰だ?」


「気づいていたんですか」


 物陰から黒のフードを被った人物が現れる。


「精霊神の魔力を感じましたので参上しました」


「精霊神? お前は何を言ってるんだ? 精霊神なんか存在してると本気で思ってるのか?」


「貴方達は精霊神の存在を認めていない方ですね。貴方達の近くに魔力を感じたので後をつけさせてもらいましたが検討外れだったみたいです」


 精霊神は存在しないことになってる。


 剣の勇者の本には精霊神達が力を貸したとか載っている、だからリリアは尊敬の眼差しで精霊神を見ていた。


 でも俺が勇者な頃、精霊神達は居ないように伝えてくれと周囲に伝えていたのだ。


「そういうことだ精霊神なんか居ない居てもらっても困るしな」


「愚かな貴方達に一つ教えてあげましょう精霊神は居ます。私達フェアリーパラダイスに光の精霊神を使える術者がいますからね」


 内心ではぶちギレ寸前だ。だが知らない相手だからこそ情報をさらけ出してくれる。


「そんな嘘はダメだろ? 俺達の後をつけて来たならお詫びに情報を渡せ。もし嘘じゃないなら他には居ないのか? 精霊神って」


「いいでしょう。私達の他にもスーリフォム魔術学園が精霊の鎖で捕らえたようですね。昔からラグナロクでも使ってましたし」


「へー精霊神って本当にいるんだな。そんなに喋って大丈夫か? 俺達はフィーリオン剣士学園の生徒だぞ」


「えぇこれは秘密でも何でもありません。前から精霊神の力を使ってラグナロクを勝ち上がっていたので隠す必要もないです」


 俺が生まれたのが十二年前でその時に捕まっていたのなら十二年間。その学園で強制的に力を使わせられていたのか。


「それでは私達は帰らせて貰います。精霊神の魔力感知器に最近誤差動が多くて困りますね」


「お兄ちゃん!」


 今にも襲いかかりそうなリリアを手で制す。


「知ってるか? 絵本とかの剣の勇者の物語には精霊神が出てくるが精霊神を精霊の鎖で強制的に従わせてると剣の勇者が知ったらお前らはどうなるかな?」


「そうですね。剣の勇者が精霊の鎖を禁忌指定していましたが私達は精霊の勇者を目標にしています。剣の勇者は最強じゃない精霊の勇者が最強なのです。なぜなら魔力がなくて魔法を剣で斬るなんて馬鹿げた話が信じれる筈ないじゃないですか。


 それに邪神を倒した? 普通の魔族と間違えたんじゃないんですか? その後に本当の邪神が現れたのですから。脚色しまくってる最弱の剣の勇者のいうことを何故に聞かなければいけないのですか? スーリフォム魔術学園も私達と同じ考えならこう思ってるはずですよ? 最弱の勇者など……怖くないと」


 言いたいことだけ言うと黒フードが消えていく。





「お兄ちゃんなんで!」


「アイツからは精霊神の魔力を感じない。ここで倒しても良いことはない。ラグナロクで精霊の力を使う時に精霊の鎖を切れば丸く収まる」


「お兄ちゃんはそれでいいの?」


 リリアはクレスの方を振り向く。


「精霊神達には悪いがもう少しだけ我慢して貰おう」


 リリアはクレスの顔を見て、問い詰めるのをやめる。


「お兄ちゃんのそんな顔、初めてみたよ」




『剣の勇者を怒らせた事を後悔させないとな』


 

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